FDAが肺がん治療による骨髄抑制の軽減にトリラシクリブを承認

骨髄機能保護のために進展型小細胞肺がんの化学療法前にトリラシクリブを投与

速報

2021年2月12日

米国食品医薬品局(FDA)は、トリラシクリブ(販売名:Cosela)を進展型小細胞肺がん(がんが原発巣のある肺や所属リンパ節を超えて転移している場合)で特定の化学療法を受けている成人を対象に、化学療法による骨髄抑制の頻度を減少させる治療薬として承認した。この承認は、本剤の薬剤クラスで初めてのものである。トリラシクリブは酵素の一種であるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6を阻害することにより、骨髄細胞を化学療法による損傷から保護する。

FDAの医薬品評価研究センターの非悪性血液疾患部門の上級医務官であるAlbert Deisseroth医学博士は、「進展型小細胞肺がん患者にとって、骨髄機能を保護することは、化学療法をより安全なものとし、時間通りかつ計画通りに治療を完了することに役立つ。本日のトリラシクリブの承認によって、化学療法で多く認められる有害な副作用の発現が減少し得る治療を患者が選択することが可能になる」と述べている。

化学療法薬はがん細胞を死滅させるように設計されているが、正常な組織にも損傷を与えることがある。骨髄は特に化学療法による損傷を受けやすい部位である。骨髄は、赤血球、白血球および血小板(血液に含まれる細胞成分)を作る。赤血球は酸素を運搬し、白血球は感染症と戦い、血小板は出血を止める。骨髄を損傷した場合、骨髄でのこれらの細胞の産生量は減少し、疲労や感染症リスクの増加、出血などの問題が生じる。トリラシクリブは、化学療法の有害な影響から正常な骨髄細胞を保護する。

トリラシクリブの有効性は、進展型小細胞肺がん患者を対象とした3つの無作為化二重盲検プラセボ対照試験で評価された。これらの試験では、合計245人の患者が化学療法の前にトリラシクリブまたはプラセボのいずれかを静脈内投与する群に無作為に割り付けられた。重度の好中球減少症(好中球と呼ばれる白血球の数が非常に少ない状態)を発現した患者の割合と、化学療法の第1サイクルでの重度の好中球減少症の期間を、両群で比較した。その結果、3つの試験すべてで、トリラシクリブを投与された患者は、プラセボを投与された患者と比べて重度の好中球減少症を発現した割合が低かった。

重度の好中球減少症を発現した患者のうち、トリラシクリブを投与された患者は、プラセボを投与された患者と比べて好中球減少症がみられた平均の期間がより短かった。

トリラシクリブで最も多く認められた副作用は、疲労、カルシウム値低下、カリウム値低下、リン酸値低下、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(酵素の一種)の増加、頭痛、肺感染症(肺炎)であった。

また、患者には注射部位の反応、急性薬物過敏症、間質性肺疾患・肺臓炎(肺組織の炎症)、および胚・胎児発生毒性についてもアドバイスすべきである。 

トリラシクリブは、上記の適応症でFDAの優先審査および画期的治療薬の指定を受けている。

FDAはTherapeutics, Inc. 社にトリラシクリブの承認を与えた。

FDAは、米国保健福祉省の機関であり、ヒトおよび動物用医薬品、ヒト用ワクチンとその他のバイオ医薬品、医療機器の安全性および有効性を保証し、公衆衛生を保護している。また、米国の食糧供給、化粧品、栄養補助食品、電子放射線を放出する製品の安全性およびたばこ製品の規制に関する責務も担っている。

翻訳担当者 岩見俊之

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

【ASCO2024年次総会】進行肺がんの早期緩和治療で遠隔医療と対面ケアの有効性は同等の画像

【ASCO2024年次総会】進行肺がんの早期緩和治療で遠隔医療と対面ケアの有効性は同等

ASCOの見解(引用)「進行非小細胞肺がん患者において、早期の緩和ケアは生存期間を含む患者の転帰を改善することが研究で示されています。この大規模ランダム化試験で、遠隔医療による...
【ASCO2024年次総会】進行肺がん(NSCLC)、ロルラチニブで無増悪生存期間が最長にの画像

【ASCO2024年次総会】進行肺がん(NSCLC)、ロルラチニブで無増悪生存期間が最長に

ASCOの見解(引用)「これらの長期データの結果は並外れて良く、この研究でALK陽性非小細胞肺がん患者に対する一次治療薬としてのロルラチニブ(販売名:ローブレナ)の優れた持続的...
【ASCO2024年次総会】オシメルチニブは局所進行EGFR変異NSCLCの標準治療を変える可能性の画像

【ASCO2024年次総会】オシメルチニブは局所進行EGFR変異NSCLCの標準治療を変える可能性

ASCOの見解(引用)「LAURA試験は、切除不能なステージIII疾患におけるEGFR標的療法の役割を明確にした最初の試験である。本試験ではオシメルチニブと現在の標準治療である...
周術期ニボルマブ+化学療法が肺がんの転帰を改善の画像

周術期ニボルマブ+化学療法が肺がんの転帰を改善

周術期におけるニボルマブ+化学療法併用により、化学療法単独と比較して疾患の再発、進行、または死亡の確率が有意に低下することが第3相試験で明らかに

テキサス大学MDアンダーソンがんセンター...