ESMOが進行がんに対する「次世代シーケンシング」の使用を初めて推奨

腫瘍内科の主要専門組織である欧州臨床腫瘍学会(ESMO)は、転移がん患者のための『次世代シーケンシング(NGS)』の使用に関する推奨を発表した。

「学会による次世代シーケンシング(NGS)の使用に関する推奨はこれが初めてです」と、フランス、ヴィルジュイフにある グスタフルッシーがん研究所の腫瘍内科医で、本推奨文書の筆頭著者であるFernanda Mosele氏は述べた。「われわれの目的は、転移がん患者に対するNGSの使用方法についての意思決定を統一することです」。

次世代シーケンシング(NGS)は、遺伝子内のDNA配列を評価するために用いる技術である。比較的低コストで、同時に数百、数千もの遺伝子を迅速に配列決定できる。腫瘍の組織標本における遺伝子変異を評価するため、がん、特に転移がんで広く使用されている。腫瘍内で検出されたゲノム変異に応じて治療を選択する、いわゆるプレシジョン医療を適用することが狙いだ。

「NGSは広く実施されていますが、これまでは、日常診療で転移がんをプロファイルするための、この技術の使用方法に関する学会の推奨はありませんでした」とMosele氏は述べた。

ESMO トランスレーショナルリサーチ・プレシジョン医療ワーキンググループは、世界で最も多くの死亡原因となっている8種のがんに発生するゲノム変異に関し、分子標的の臨床適用性に関するESMO尺度(ESCAT)のランキングに基づいて推奨事項を作成した。専門家は、ESCATのランキングと変異の発生率を用いて、腫瘍の種類ごとに次世代シーケンシング(NGS)による検査が必要な患者数を計算し、日常診療において有効な薬剤に適合する可能性のある患者を特定した。

ESMOは、Annals of Oncology誌(1)に掲載された文書において、公衆衛生に影響を与える日常診療に対する推奨、技術革新へのアクセスを改善するための研究に対する推奨、患者を中心とした推奨、という3つの異なるレベルでの推奨を行っている。

公衆衛生の観点から、進行肺腺がん、前立腺がん、卵巣がん、胆管がんなどの転移がん患者には、次世代シーケンシング(NGS)を日常的に使用すべきである。

これら4種類のがんでの使用に加えて、その他のがんの患者は、公的医療機構に余分なコストがかからず、その患者が利益の相対的な可能性について情報を得られる場合(患者中心の視点)には、大規模な遺伝子パネルに関する次世代シーケンシング(NGS)の発注を医師とともに決定することができる。

本推奨の共著者で、ESMO トランスレーショナルリサーチ・プレシジョン医療ワーキンググループ議長、スペイン、バルセロナのヴァルデヘブロンがん研究所(VHIO)、前立腺がんトランスレーショナルリサーチのグループリーダーであるJoaquin Mateo氏は次のように述べた。「このような患者は、まれな変異を有するため、薬剤の利益を得られるのは少数であることがこの推奨からわかります。変異がまれだと、次世代シーケンシング(NGS)の使用に対して必要なエビデンスを生み出すための研究試験に十分な患者を集めることが難しくなるでしょう。したがって、NGSを受けるべきがんの患者以外にも、医師や患者がこれらの検査の発注の是非について話し合う余地があります」。

3番目の推奨は、臨床研究センターが次世代シーケンシング(NGS)を実施し、この方法の使用に関するより多くのエビデンスを生み出し、薬剤開発を促進するべきだというものである。「精密なバイオマーカーに基づいて患者を治療する方法に対する理解を深めるには、何千人もの患者のデータを蓄積する必要があります」とMateo氏は述べている。「ESMOは、大学病院や研究機関に対して、技術革新を推進するためにデータを生み出し、利用可能にするよう呼びかけています。これにより、その他の種類の腫瘍でこの技術をどのように使用するのが最善かについて知ることができるようになります」。

次世代シーケンシング(NGS)を使って複数の遺伝子を同時に検査する利点の1つは、わずかな組織しか必要としないため、生検を何度もする必要がないことだとMateo氏は指摘している。「しかし、がんは新しい治療法に適応すると、時間の経過とともに変異する場合があることを忘れてはいけません」と同氏は付け加えた。「そのため、最初に多くの変異を検査することと、時間の経過とともにがんが変異する可能性があることを認識しておくこととのバランスをとる必要があります」。

日常診療における複数の遺伝子シーケンシングの使用に関する費用対効果のエビデンスは、現時点では弱い。したがって、遺伝子の大規模なパネルは、薬剤を含む全体のコストの増加が許容範囲の場合に使用することができる、というのがESMOの推奨だ。NGSパネルの結果によって、高価な薬剤が承認された適応症以外に処方される可能性があることを考慮し、NGS処置の件数は国家レベルで規制する必要がある。したがって、ゲノミクスに適合した薬剤の適応外使用は、国や地域レベルでプログラムへのアクセスおよび意思決定手順が作成されている場合にのみ実施する、というのが専門委員会の推奨である。

Mateo氏は次のように述べている。「この文書では、精密医療の手法を研究から日常診療に移行させることがいかに難しいかを浮き彫りにしています。例えば、過小評価されている可能性のある特定の集団に多くみられる、希少ながんのサブタイプやバイオマーカーの問題に取り組む必要があります。ESMOは、すべてのがん患者が最良の診療を平等に受けられることを可能にする次世代シーケンサー(NGS)の使用について、エビデンスに基づく指針を提供することで、研究と診療とのギャップを埋めることに尽力しています」。

参考文献

翻訳担当者 生田亜以子

監修 石井一夫(計算機統計学/久留米大学 バイオ統計センター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

免疫療法薬2剤併用+化学療法はSTK11/KEAP1変異肺がんに有効の画像

免疫療法薬2剤併用+化学療法はSTK11/KEAP1変異肺がんに有効

進行非小細胞肺がんでSTK11/KEAP1変異を有する患者への併用療法により転帰が改善

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させるの画像

先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解(引用)
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)の画像

世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)

特集:術前・術後の免疫療法、HER2およびEGFR遺伝子変異を標的とした治療など、肺がん治療における有望な臨床的進歩テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは...
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長の画像

肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解「過去15年間にわたり、ミシシッピ・デルタ中心部における質改善の取り組みは、この高リスク集団の...