臨床試験参加に影響する要因、および参加した患者の利益が示される
ASCOの見解
「適切な患者を臨床試験に登録することは、腫瘍医である私たちの義務です」と、ASCO専門委員、FACP(米国内科学会フェロー)、クオリティケアシンポジウムのニュースプランニングチームのリーダーであるMerry-Jennifer Markham医師は述べた。「今年の会議では、臨床試験への参加が、進行肺がん患者の全生存期間の延長に関連しているという研究結果が発表されます。また、臨床試験参加に関する患者の考えや認識が、私たち医療者とどのように異なるかについても議論されます。未来の患者のために、適格なすべての患者が臨床試験にアクセスできるよう、臨床試験参加に影響を与える要因をより理解するよう努力する必要があるでしょう」
2つの研究で、患者の臨床試験参加に関するさまざまな問題を調査している。1つ目の研究では、臨床試験参加と進行肺がん患者の全生存率との関係を調査している。2つ目の研究では、臨床試験参加に対する医療者と患者の認識の不一致を見出し調査している。著者らは、9月6〜7日にサンディエゴのヒルトンサンディエゴベイフロントで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)のクオリティケアシンポジウムで本研究結果を発表する。
臨床試験に関する2つの新しい研究の概要は次の通りである。さらに、ASCO専門委員、FACPであるMerry-Jennifer Markham医師とNeeraj Agarwal医師が、これら2つの研究について議論した様子は、Cancer.Net podcast.で聞くことができる。
臨床試験への参加は、転移性非小細胞肺がん患者の死亡率低下と関連する
ワシントン大学(UW)とフレッドハッチンソンがん研究センターが行った新たな研究では、臨床試験に登録された転移性非小細胞肺がん(NSCLC)患者の生存期間中央値が、登録されていない患者の約2倍であり、臨床試験に登録された患者の死亡リスクが約50%低下したことが示された。
進行肺がん患者の臨床試験参加の利益に関するデータは今まで一貫したものが存在しなかったため、この研究で得られた知見は注目すべきものである。この問題に対してより的確な答えを見つけるため、研究者らは、大規模なレジストリ研究や国のデータベースでは利用できないことが多い、臨床レベルおよび患者レベルの特性を含む臨床的に充実したデータベースを使用した。
「われわれの研究では、がんの分子的特徴など、他の研究には含まれていない重要な臨床的変数について言及しています。また、研究参加者に関する特有なデータもいくつか持ちあわせています」と、筆頭著者でフレッドハッチンソンおよびワシントン大学の腫瘍学フェローであるCristina Merkhofer医師は述べた。「たとえば、臨床試験段階のデータであれば、試験が無作為化されたかどうか、試験薬が後に米国食品医薬品局(FDA)より承認されたかどうか、および試験薬のクラスに関するデータがあります。これらのデータを用いて、他のさまざまな視点から生存率の違いを調べ、その違いに影響を与えた可能性のある試験特性があるかどうかを確認しました」
臨床試験の適格基準を満たした371人の患者グループのうち、118人(32%)が少なくとも1つの臨床試験に登録されていた。患者の大部分(89%)は、新しい治療法の安全性、副作用、最適な用量、およびある特定のがん種への反応性を検証する第I相/第II相試験に参加していた。登録された患者の51%は、後にFDAにより承認された薬剤の臨床試験に参加していた。臨床試験登録者の生存期間中央値は838日であったのに対し、非登録者では454日であった。性別、ECOG(米国東海岸がん臨床試験グループ)スコア、喫煙歴、組織学的指標、EGFR遺伝子やALK融合遺伝子の情報、および脳転移の有無を調整し比較すると、臨床試験登録者は非登録者より、死亡リスクが47%低下した。
著者らは、臨床試験参加によって提供される新しい治療法へのアクセスと強化された支持療法の両方が同じくらい重要であると仮定しているが、彼らのデータは有望な試験薬へのアクセスの側面を見ることによって、前者の調査のみを行っている。しかしながら、試験参加者が受けた強化支持療法の影響をデータベースに取り込むのは、より一層困難なことである。
本研究は、臨床試験への参加を取り巻く不確実性の領域を調査する大規模な研究の一部である。今後のサブグループ分析では、ある特定の試験デザインの特性が生存率の向上に関連しているかどうかを評価する予定である。
「本研究は、医療政策を評価する研究や、患者の臨床試験参加に対する交通費や宿泊費用といったインセンティブを検討する研究の助けになるでしょう」とMerkhofer医師は述べた。「こういった試験参加の前に立ちはだかるいくつかの障壁を解消するための研究に役立つでしょう」
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がん臨床試験への患者の登録に関して医師と患者の認識にはギャップが存在する
本調査結果では、患者ががん臨床試験に参加する理由について、医師/医療スタッフが思う患者の姿勢や考えと、患者が実際に考えていることの間には、ギャップがあることを示している。本研究では、臨床試験参加の障壁について両グループに同様の質問をし、回答を比較している。このような調査研究は初めて行われた。
「患者が臨床試験に参加する、または参加しない理由として、研究コミュニティで一般的に信じられていた考えは、がん患者によって報告された障壁と一致していないことがわかりました」と、コロンビア大学メールマン公衆衛生大学院、疫学分野の助教授であるGrace Clarke Hillyer氏(EdD、MPH)は述べた。「がん治療とケアに携わる医師やスタッフは、患者が感じる臨床試験参加の障壁を認識していないか、患者のアクセスが難しい試験や患者が拒否する可能性がある試験において、患者が参加を渋る理由を誤解しているかもしれません」
がんの予防、発見、治療を進歩させるためには臨床試験が不可欠である。しかし、米国の成人がん患者の約8%が臨床試験に参加しているのみであり1-3、公的資金によるがん研究の5分の1(18%)が十分な参加者を募集することができていない4。症例集積率が低いために試験が終了し、結論に達する前に、投資した相当な時間や資源が無駄になっている。
医療提供者と患者、両グループの臨床試験参加に関する姿勢、認識、考えを評価するため、コロンビア大学ハーバート・アービング総合がんセンターの研究者らは、臨床試験参加に対する構造的および臨床的な医療提供者が考える障壁と患者が考える障壁に関する調査を作成した。 2017年に120人の医師および研究スタッフが調査に回答し、翌年に現在試験に参加していない150人のがん患者が同じ調査に回答した。次に、医師および研究スタッフと患者の意見の相違を検証した。
調査結果によると、患者の27.3%が、臨床試験は病状が絶望的である人々にのみ提供されると答えたが、患者がこのように考えていると思っている医師および研究スタッフは8.7%のみであった。また、医師および研究スタッフが、患者が懸念する試験のさまざまな側面や参加を拒否した理由について誤解していることも判明した。
- 臨床試験についての理解不足(医師/スタッフ63.3%対患者9.1%)
- 身体的または感情的に耐え切れないと感じている(医師/スタッフ64.2%対患者18.2%)
- 医療システムに対する不信感(医師/スタッフ69.2%対患者36.4%)
- 侵襲的な処置に関する懸念(医師/スタッフ41.7%対患者9.1%)
- 毒性(医師/スタッフ60%対患者18.2%)
- 無作為化/プラセボを受けることへの抵抗(医師/スタッフ70.8%対患者27.3%)
「多くの患者が臨床試験に対して前向きな姿勢を示しており、ほとんどの患者が医師を信頼していることがわかりました」と、Hillyer医師は述べている。「がん患者が臨床試験登録を拒否する理由について、患者と医師の認識の違いを知っておくことは、コミュニケーションを円滑にし、がん臨床試験の登録促進という問題を解決することにつながるでしょう」
本研究は、NCI 地域がん研究プログラム(Community Oncology Research Program)に登録された施設で、医療サービスが十分に行き届いていないとされる大都市において小規模で行われ、多様な患者集団(ヒスパニック系29.3%、アフリカ系アメリカ人13.3%を含む)に対し、対面で包括的に評価したものであることをHillyer医師は指摘している。調査が小規模なため制限される部分もあるが、調査結果はこれまで調査されてこなかった問題点を指摘している。彼女は、研究を複数の施設に拡大し、本研究で明らかになったギャップを埋めるための手立てを開発することを検討している。
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今年のクオリティケアシンポジウムには、がん患者のケアの質を向上させる取り組みに焦点を当てた320以上の抄録が含まれている。記者向けの施設にはニュースルームがあり、クオリティケアの第一人者らへのアクセスが可能である。
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