PARP阻害剤がSLFN11陽性小細胞肺がんの奏効率を改善

新たなバイオマーカーにより、無増悪生存や全生存の改善がみられる患者を特定できることがMDアンダーソンの研究でわかった。

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによるランダム化第2相試験において、PARP阻害剤veliparib(ベリパリブ)を標準的な化学療法剤に加えることで、小細胞肺がん(SCLC)患者における奏効率(ORR)が改善された。また、本研究者らは、腫瘍にSLFN11が発現しているという特定の患者群がいること、そしてその患者ではPARP阻害剤により無増悪生存(PFS)や全生存(OS)の改善が認められることを見出した。したがって、SLFN11発現が小細胞肺がんにおけるPARP阻害剤の効果を予測する有望なバイオマーカーであることが示唆される。

本研究は、Journal of Clinical Oncologyに掲載された。引き続いて上記の結果を検証するための試験により、このまれで進行の極めて速い肺がんの治療に、30年以上ぶりに新たな選択肢が加わるかもしれないと、胸部/頭頸部腫瘍学の准教授であるLauren Averett Byers医師は述べている。

アメリカがん協会によれば、2018年には、23万4000人を超える人々が肺がんと診断され、15万4050人がこの疾患で死亡し、がんの死因の第1位となる。小細胞肺がんは、主に喫煙に関連し、全肺がんの約10~15%を占めている。免疫療法および標的薬剤の近年の進歩により、非小細胞肺がん(NSCLC)患者には希望がみえ始めているが、小細胞肺がん患者は、非小細胞肺がん患者ほど臨床的進歩の恩恵をうけていない。

「現在、ほとんどの小細胞肺がん患者の生存期間は1年未満です。非小細胞肺がんを除外しても、小細胞肺がんは単独で、米国におけるがんの死因の第6位を占めています」と本研究の責任著者Byers医師は述べている。「現在、承認されている標的治療はなく、バイオマーカーもありません。患者さんは新たな治療選択肢を切望しています。しかし、患者さんの将来の見通しを変えられる時機が来ていると思います」。

小細胞肺がんの治療標的としてのPARPは、Byers医師がMDアンダーソンでの専門医研修期間中に、John Heymach医学博士(胸部/頭頸部腫瘍学教授、本研究の著者)の研究室で研究している際に発見した。2012年に、Byers医師とHeymach医学博士は、小細胞肺がんにおいてPARPが重要であるという、大きな臨床的関心を引き起こした。本臨床試験は、2012年の最初の研究成果に基づいて発表された初めてのランダム化試験である。

PARP阻害剤はDNA修復経路を遮断する。現在、こういった阻害剤は、BRCA変異型の転移性乳がんおよび卵巣がんの治療に承認されている。

「PARPという治療標的を発見したのと同じくらい重要なことに、この治療がどのような小細胞肺がん患者に有効であるかを判断するバイオマーカーが本研究でみつかりました」とByers医師は言う。「現在、この疾患で臨床的に使うことができるバイオマーカーはありません。患者を選んでふさわしい治療を施すことができるようになれば、提供できる医療も大きく変わるでしょう」。

第2相試験にあたり、Byers医師らは、米国7施設の再発小細胞肺がん患者104人を対象とした。2012年~2015年の間、標準的な化学療法レジメンのひとつであるテモゾロミド(TMZ)に加えて、ベリパリブかプラセボのいずれか(すべて経口薬)を患者に1日2回投与するランダム化試験を行った。

Byers医師によれば、試験参加者の多くは、脳転移のある進行がん、または標準的な化学療法が無効、もしくはその両方であった。

4カ月時点の無増悪生存率を主要評価項目とし、奏効率、全生存、およびテモゾロミドと併用した時のベリパリブの安全性と忍容性を副次評価項目とした。4週および8週時点での画像評価により腫瘍縮小効果を評価し、さらにその後は、8週ごとに評価した。

PARP療法の毒性としては血球数の減少などがあるが、全体的には忍容性は良好であったとByers医師は述べた。

本試験全体としてみると、テモゾロミド/ベリパリブ群とテモゾロミド/プラセボ群の間に、4カ月時点での無増悪生存率に統計的に有意な差は認められなかった(36%対27%)両群の全生存期間中央値も同様であった(8.2カ月対7カ月)。

しかし、奏効率、つまり腫瘍が縮小した患者の割合は、テモゾロミド/ベリパリブ群においてテモゾロミド/プラセボ群の約3倍であり(39%対14%)、統計的に有意な差が認められた。

この試験の一部として、研究者らは、小細胞肺がんのPARP阻害剤に対する効果を予測する候補となるバイオマーカーについても調べた。これには、PARP1の発現およびSLFN11と呼ばれるタンパク質の発現が含まれていた。これらの発現がPARP阻害剤の感受性を左右することが、実験室レベルではByers医師や他の研究グループによりこれまでに示されていた。

腫瘍においてSLFN11が高いレベルで発現している患者では、テモゾロミド/ベリパリブによる治療により、無増悪生存期間が有意に延長し(5.7カ月対3.6カ月)、全生存期間も有意に延長した(12.2カ月対7.5カ月)。これは、予測バイオマーカーとしてのSLFN11を臨床的に調べた初めての研究である。

「私の望みは、いつの日か、PARP阻害剤が小細胞肺がん患者に有効な最初の標的治療となることです」とByers医師は言う。「バイオマーカーが見つかったことで、今後、PARP阻害剤がどのような患者に最も有効となり得るかを調べることができます」。

これらの結果に基づいて、初回治療におけるPARP阻害剤の有効性を検討する複数の研究が進行中である。Byers医師も、やはり初回治療において、より高用量のベリパリブをテモゾロミドと併用するランダム化試験を行っている。さらに、Byers医師は、米国国立衛生研究所から助成金を受けて、PARP阻害剤を免疫療法と併用することによって小細胞肺がんに対する治療効果を向上させるかどうかについても研究している。

本研究の前臨床研究は、科学的発見から患者の命を救う臨床的進歩への発展速度を上げるための共同努力として、MDアンダーソンのMoon Shots Program™の一部であるLung Cancer Moon Shot™の支援を受けた。また、本研究は、以下の団体の支援を受けた。the Cancer Therapy Evaluation Program at the National Cancer Institute (NCI; U10 CA180858); National Institutes of Health (NIH)/NCI Grants, CCSG P30-CA008748 and NIH/NCI CCSG P30-CA016672; NIH/NCI award No. 1-R01-CA207295; and The LUNGevity Foundation.

Byers医師およびHeymach医学博士に加え、MDアンダーソンにおける本研究のその他の共著者は以下のとおりである。Robert Cardnell, Ph.D., Eric Sulman, M.D., Ph.D., Ignacio Wistuba, M.D., Patricia de Groot, M.D., Junya Fujimoto, Ph.D., Jing Wang, Ph.D., Lixia Diao, and Lihong Long. Additional authors include: M. Catherine Pietanza, M.D., Lee M. Krug, M.D., Mark G. Kris, M.D., Charles M. Rudin, M.D., Ph.D., Kaitlin M. Woo, Yevgeniya Bensman, Martin Fleisher, Ph.D. and Brenda Hurtado all of Memorial Sloan Kettering Cancer Center and Weill Cornell Medical College; Saiama N. Waqar, MBBS, Washington University School of Medicine; Afshin Dowlati, M.D., Case Western Reserve University and University Hospital, Seidman Cancer Center; Christine L. Hann, M.D., Ph.D., Johns Hopkins University; Alberto Chiappori, M.D., H. Lee Moffitt Cancer Center; Taofeek K. Owonikoko, M.D., Ph.D., Emory University and Alice Chen of the National Cancer Institute. 

翻訳担当者 福原真吾

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

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