非小細胞肺がんに対する局所制御療法と免疫療法または分子標的療法の併用
MDアンダーソン OncoLog 2018年3月号(Volume 63 / Issue 3)
Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL
転移性の非小細胞肺がんに対し、外科手術・放射線治療と免疫チェックポイント阻害剤またはチロシンキナーゼ阻害剤を併用する臨床試験
外科手術と放射線治療の一方もしくは両方を行う局所制御療法により、少数転移(3カ所以下)の非小細胞肺がん(NSCLC)患者の生存期間が延長されることは証明されているが、より転移が多い患者でも利益が得られるかは明らかになっていない。転移性NSCLCに対し局所制御療法と新しい全身治療法の併用で挑む新しい2つの臨床試験で、その答えが得られるかもしれない。
これらの試験では、患者は最初に免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブまたはイピリムマブ(LONESTAR試験)か、チロシンキナーゼ阻害剤であるオシメルチニブの投与を受ける(NORTHSTAR試験)。その後、患者は試験薬による維持療法を受ける群と、局所制御療法を実施してから維持療法を受ける群のいずれかにランダムに割り付けられる。
「われわれは、局所制御療法が少数転移のNSCLC患者に利益となることはすでに明らかにしていましたが、今回はこの考えを転移巣の多い患者にも拡大していこうとするものです」。テキサス大学MDアンダーソンがんセンター放射線腫瘍科准教授のDaniel Gomez医師はこう述べた。「今回の、局所制御療法に免疫療法またはオシメルチニブを併用する治療で、転移がどこにあっても患者の生存期間が延長することを願っています」。
有望な知見をもとに
Gomez氏らは局所制御療法と免疫チェックポイント阻害剤または第3世代のEGFR(上皮成長因子受容体)阻害剤であるオシメルチニブとの併用により、これまで個別に行って得られた研究成果以上に転移性NSCLC患者の生存期間が延長されることを期待している。
局所制御療法が生存に利益をもたらすことは最近行われた第2相臨床試験において示されている(No.2012-0618)。この試験は、少数転移のNSCLC患者に一次治療を実施したのち、局所制御療法または維持療法のいずれかにランダムに割り付けたものである。無増悪生存期間中央値は局所制御療法を受けた患者で11.9カ月であり、維持療法のみを受けた患者の3.9カ月に比べ有意に長かった(P=0.0054)。
「この試験は、局所制御療法により転移数の少ないNSCLC患者の病勢進行を遅らせられることを示した初めてのランダム化比較試験です」と試験責任医師のGomez氏は話している。
転移性患者に対し免疫チェックポイント阻害剤が効果をもたらすことも示されている。PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)阻害剤のニボルマブは、いくつかのがん種の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けており、過去に治療歴のある転移性NSCLC患者も対象に含まれている。さらに、このニボルマブと、CTLA-4(細胞障害性Tリンパ球抗原4)阻害剤であるイピリムマブ(転移性メラノーマ治療薬としてFDA承認済み)を転移性NSCLC患者に対して併用する臨床試験が現在進行中である(No.2016-0223)。EGFR阻害剤のオシメルチニブもNSCLCに対する効果が示されている。2017年3月に、FDAはEGFRのT790Mタンパク質遺伝子に変異を有する転移性NSCLC患者の治療薬としてオシメルチニブを承認している。
「EGFR阻害剤に対する耐性をもたらす大きな要因のひとつがT790Mタンパク質遺伝子の変異です」とGomez氏。「耐性ができた患者でもオシメルチニブが奏効することが示されています」。
新しい臨床試験
「NORTHSTAR試験とLONESTAR試験が過去に実施した局所制御療法に関する試験と異なる点は、新しい薬剤を使用していることと、少数転移の患者だけでなく転移数の多い患者も対象としている点です」。Gomez氏はこう述べた。両試験ともに転移性NSCLC患者の参加登録が最近始まった。
NORTHSTAR試験
Gomez氏は多施設共同試験であるNORTHSTAR試験(No.2017-0228)のMDアンダーソンにおける試験責任医師を務めている。この試験は、治療歴がないNSCLC患者、または治癒が期待される治療が奏効しなかったステージ3Bまたは4の再発NSCLC患者を登録中である。治療歴がない患者についてはEGFRエクソン19欠損またはL858R変異を有する患者が対象である一方、再発患者については、エルロチニブ、ゲフィチニブ、アファチニブなどのEGFR阻害剤による治療中にEGFRのT790M変異を生じた患者が対象である。なお、オシメルチニブまたは第3世代のチロシンキナーゼ阻害剤による治療歴のある患者は試験の対象外である。
参加した患者は全員オシメルチニブ投与を6~12週間受ける。導入治療で増悪しなかった患者は、オシメルチニブによる維持療法のみを受ける群、または局所制御療法後にオシメルチニブによる維持療法を受ける群のいずれかにランダムに割り付けられる。この維持療法は、病勢進行が認められるか、許容できない毒性効果が発生するまで全員継続する。Gomez氏らは、局所制御療法を受ける患者と受けない患者の無増悪生存期間を比較することとしている。
LONESTAR試験
LONESTAR試験(No.2017-0311)は、ステージ4のNSCLC患者で未治療または一種類の化学療法か分子標的治療を実施した患者を対象としている。腺がんに分類された患者はEGFRとALKが野生型であることが条件となっている一方、他のサブタイプのNSCLC患者は変異が稀であるためEGFRまたはALKの検査は不要である。全身免疫療法を受けたことがある患者は試験不適格となる。
参加した患者は6週間サイクルでニボルマブとイピリムマブ投与を受ける。その後、増悪しなかった患者をニボルマブとイピリムマブによる維持療法のみを受ける群と、局所制御療法後にニボルマブとイピリムマブによる維持療法を受ける群のいずれかにランダムに割り付ける。維持療法は最長2年継続する。
MDアンダーソン単独で実施したこの臨床試験の試験責任医師は、胸部・頭頸部腫瘍内科部長で教授のJohn Heymach医学博士が務めている。共同で試験責任医師を務めるのは、Gomez医師のほか、胸部・心血管外科教授で外科部長のStephen Swisher医師である。今後、局所制御療法を受ける患者と受けない患者の全生存期間および無増悪生存期間を比較することとしている。
局所制御療法の決定
NORTHSTAR試験とLONESTAR試験はともに多職種のチームにより局所制御療法のあり方を決定している。患者に対し外科手術をするか、放射線治療をするか、両方行うかは、腫瘍の位置や範囲によって異なる。ほとんどの患者では各病変部に対して同じ治療法が行われるが、一部の患者では切除する病変部と放射線照射する病変部を分けるといったアプローチが適していることもある。
「病変部によっては放射線照射よりも外科手術のほうが適していることもあります」とGomez氏は話す。「肺の病変部で肺葉切除が可能な場合や、脳の転移巣が1つしかない場合や他に影響しそうな場合、副腎の病変部で比較的小さなリスクで切除可能な場合などは外科手術を選択することが多いです。他の転移巣については放射線治療が普通です」。
外科医と放射線腫瘍医らは、外科手術と放射線治療のうち治療目標を達成する可能性が高い方の治療を行う。肺病変は開胸術や、カメラやロボットを使用した胸腔鏡・腹腔鏡手術により切除することがある。切除の目標は、肉眼的に腫瘍が切除切除縁断端に存在しなくなることである。放射線治療の場合は、強度変調放射線療法(IMRT)や陽子線治療が利用可能な場合でも、体幹部定位全身放射線治療が行われることが普通である。放射線治療の目標は、腫瘍の除去である。
「手術と放射線治療のいずれにしても、攻めの姿勢が大きなポイントです」とGomez氏は話す。「できるだけ多くの病変部を治療することが、転移性NSCLC患者の生存期間を延長させる鍵になるとわれわれは考えています」。
【写真キャプション】
NSCLC患者の肋骨付近の転移巣を標的とした強度変調放射線治療(IMRT)による治療計画の例。この病変部および椎体付近の病変部に対する局所制御療法は、一次治療で病勢進行がなかった際に実施される。画像はDaniel Gomez医師の厚意による。
For more information, contact Dr. Daniel Gomez at 713-563-8446 or dgomez@mdanderson.org. To learn more about clinical trials for patients with lung cancer, visit www.clinicaltrials.org.
FURTHER READING
Gomez DR, Blumenschein GR, Lee JJ, et al. Local consolidative therapy versus maintenance therapy or observation for patients with oligometastatic non-small-cell lung cancer without progression after first-line systemic therapy: a multi-centre, randomised, controlled, phase 2 study. Lancet Oncol. 2016;17:1672–1682.
Skoulidis F, Papadimitrakopoulou VA. Targeting the gatekeeper: osimertinib in EGFR T790M mutation–positive non–small cell lung cancer. Clin Cancer Res. 2017;23:618–622.
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