ヨガが肺がん患者とその介護者に有効な支持療法となる可能性

専門委員の見解

「ヨガを実践することでさまざまな効果が得られることは、以前から知られていました。本研究の知見が、進行がん患者とその介護者がヨガを実践するきっかけとなれば理想的です」と、本日のプレスキャストの司会を務める米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門委員のAndrew S. Epstein医師は述べた。

放射線療法を受けている進行肺がん患者とその介護者の実現可能性試験において、ヨガは両者にとって有益であった。この知見は、カリフォルニア州サンディエゴで開催される2017 Palliative and Supportive Care in Oncology Symposium(腫瘍学における緩和ケアおよび支持療法のシンポジウム)で発表される。

「運動を始めるのに遅すぎるということはなく、化学療法または放射線治療期間中に患者が運動できることが以前の研究から分かっています」と本研究筆頭著者のKathrin Milbury博士(テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(テキサス州ヒューストン)緩和ケア・リハビリテーション医学科、がん医学助教)は述べた。「患者よりも介護者のほうが不安や睡眠障害を抱えていることがあります。そこで、私たちは、患者と介護者が一緒にヨガの講習を受けることが両者にとって有益だろうと考えました」。

乳がんの女性に運動療法が効果的であることが以前の研究から明らかになっている。肺がん患者は通常、乳がんの女性よりも症状が多く、高齢であり、体調も良くないので、患者が簡単に行うことができる低負荷の運動としてヨガがよいと研究者らは考えた。さらに、ヨガは呼吸法を重視している。呼吸は、息切れしがちな肺がん患者にとって重要な問題である。

「本研究で使用する運動法としてヨガの選択は重要でした。ヨガは、患者の要求に合わせて変えやすい穏やかな運動法であり、また、ヨガの実践にはパートナーも参加しやすいからです」とMilbury博士は述べた。「本研究に採用したヨガのポーズの中には、チェストオープナーと呼ばれるものがあります。これは、深呼吸とともに胸を開くことを特に意識したエクササイズです」。

ヨガおよび研究について

本研究の対象患者は全員、外科手術では切除できない進行肺がんを患っており、胸部への放射線療法を受けており、ほとんどの患者は化学療法も受けていた。各患者は家族介護者と共に参加した。患者と介護者のペアを、ヨガクラスとヨガ講習受講待ちリスト(対照群)のどちらかにランダムに割り振った。

研究への登録時に、参加者は、自分の生活の質を評価する36項目のアンケートに答えた。肺がん患者は、6分間の歩行試験も行った。患者への放射線療法の終了時、ついでその3カ月後にもう一度、患者と介護者のペアのフォローアップ評価を行った。

このヨガプログラムは、姿勢、呼吸運動、および瞑想の3つの主要分野に重点を置いた。本研究のデザインは、各60分間のヨガを15セッション行うものとした。これは、インドのバンガロールで以前に行われた乳がん患者におけるヨガの研究からの成果に基づいており、米国でのより大規模な試験によって裏付けられている。

主な知見

26組のペアがすべての評価を完了した。完了されたヨガセッションの平均数は12セッションだった。患者の半数強が男性で、平均年齢は60才代であり、介護者の3分の2が女性で、平均年齢はほぼ60才であった。

ヨガを実践したペアと、対照群である受講待ちリストのペアとを比較して、以下の研究結果が得られた。6分間の歩行試験で評価したとき、ヨガを実践した患者のほうが、身体機能が有意に良好であり(ヨガ実践群と受講待ちリスト群のスコアは478対402)、仕事や日常の活動を行うための持久力があり、メンタルヘルスも改善されていた。ヨガ講習を受けた介護者についても、働いている間の疲労や持久力の面で改善がみられた。

「今回は実現可能性研究だったため、私たちの介入の具体的な効果をここから引き出すことは非常に難しいです。それは、私たちの研究の次のステップとなります」とMilbury博士は述べた。

今後の研究について

研究者らは、ヨガが水泳やハイキングなど他の運動法よりも優れていることを示したわけではないと説明している。しかし、ヨガがホリスティック医療の一手段となることを実証できたと考えている。本研究の登録者は、MDアンダーソンがんセンターの患者のみであり、人種的に多様な集団ではなかった。より包括的な知見を得ることが今後の研究の目標である。

「現在、肺がん患者の行動的支持療法に関する研究はほとんどありません。私たちは、支持療法を向上させるための手段として、患者と介護者の健康を身体面でも精神面でも高める方法を見出すことを試みました」とMilbury博士は述べた。

本研究に参加した患者からは、ヨガセッション中にがんのことを忘れられるのは良かったという意見が寄せられ、また患者と介護者どちらからも、新しいことを一緒に学んで楽しめたという声が聞かれた。「本研究に参加した患者と介護者のペアの多くがこれからも自分たちでヨガを続けていきたいと言っていたのを聞き、大変うれしく思いました」とMilbury博士は締めくくった。

本研究は米国国立衛生研究所から資金提供を受けた。

翻訳担当者 福原真吾

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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