肺癌リスクのある人にβ-カロテンサプリメントは有害

米国国立がん研究所(NCI) 臨床試験結果

Beta-Carotene Supplements Confirmed as Harmful to Those at Risk for Lung Cancer (http://www.cancer.gov/clinicaltrials/results/final-CARET1204)
(Posted: 11/30/2009) –大規模癌予防試験でβ-カロテンのサプリメントを摂取した人は、試験終了後も、6年にわたって継続的に肺癌リスクが上昇していたことが長期追跡調査により示された。

キーワード 肺癌、βカロテン、栄養補助食品、CARET試験、ATBC試験(癌関連用語の定義は、Cancer.govDictionaryに多数掲載されています)

要約 大規模癌予防試験に参加してβ-カロテンのサプリメント(栄養補助食品)を摂取した人は、試験が中断されサプリメント摂取を中止した後も、6年にわたって継続的に肺癌リスクが上昇していたことが試験参加者の長期追跡調査により示されました。 この結果は、本試験および別の大規模癌予防試験でこれまでに得られていた知見に、当初の予想に反して、肺癌リスクが高い人ではβ-カロテンサプリメントは肺癌を予防せず、特に喫煙者では肺癌の罹患率を上昇させると考えられるという知見を加えることとなりました。

出典 Journal of the National Cancer Institute誌、2004年12月1日号、(ジャーナル要旨参照)

背景 1980年代、観察研究の結果、β-カロテンおよびビタミンAのサプリメント摂取により癌、なかでも肺癌の罹患率を減少できる可能性が示唆されました。β-カロテンとビタミンAはともに抗酸化剤で、発癌物質によるDNAやその他の細胞構成要素の損傷を防止する可能性を持つ化合物です。 これら栄養素のサプリメントによって肺癌リスクの高い人において肺癌を予防できるかどうか試験するため、2つの大規模臨床試験が実施されました。フィンランドで行われたα-トコフェロール、β-カロテンによる癌防止(ATBC)試験では29,000人以上の喫煙男性が参加しました (NCIプレス発表参照)。

参加者はβ-カロテン、ビタミンE、その両方のサプリメント、あるいはダミー薬(プラセボ)を毎日服用する群のいずれかにランダムに割り付けられました。 米国で実施されたβ-カロテンとレチノール効果試験(CARET)では、喫煙者、喫煙経験者、またはアスベスト環境下で仕事をしていた男女18,000人以上が参加しました。

CARET試験の参加者は、β-カロテンとビタミンA(レチノール)のサプリメントまたはプラセボを毎日服用する群のいずれかにランダムに割り付けられました。 CARET試験、ATBC試験ともに二重盲検試験で、参加者、医師とも誰がサプリメントを、誰がプラセボを服用しているか後まで知らされませんでした。 平均6年の追跡期間が経過した1994年に、プラセボよりもサプリメントを摂取した参加者の群のほうが肺癌の罹患率が16%高く、全死亡率は、β-カロテンサプリメントを摂取した群が8%高かったとATBC試験の研究者は報告しました。 CARET試験の研究者も類似の知見を1996年に発表しました。

平均4年の追跡期間が経過した時点で、β-カロテンサプリメントを摂取した参加者のほうが肺癌の罹患率が28%高く、全死亡率も17%高かったと報告されました。この結果とATBC試験の知見から、CARET試験は早期に打ち切られ、参加者はサプリメントの摂取を中止しました。 どちらの試験もすでに終了していますが、研究者らは、サプリメントが肺癌罹患率と全死亡率に及ぼす長期的影響を究明するために、参加者の追跡調査を継続しました。

2003年7月に、ATBC試験研究者は参加者の8年間にわたる試験後追跡調査の結果を発表しました。上昇していた肺癌のリスクは、参加者がβ-カロテンサプリメントの摂取を中止するとまもなく低下しました。しかし、β-カロテンサプリメントの服用群はプラセボ服用群よりも全死亡率が依然7%高く、この効果が無くなるまでに長期間を必要としました。増加分の死因は、ほとんど心臓病と脳卒中でした。

試験 本研究はCARET試験参加者の試験終了後6年間の追跡調査の知見を報告しています。研究チームは、フレッドハッチンソン癌研究センター(ワシントン州シアトル)のGary E. Goodman医師が主導しました。

結果 CARET試験でβ-カロテンとビタミンAのサプリメントを服用していた参加者は、プラセボ服用者と比べ、試験後6年間の追跡調査期間中に肺癌を発症するリスクが12%高く、またサプリメント服用群は、プラセボ群に対して全死亡率が8%高かったと報告されました。これらの高リスク状態は6年間の試験後追跡調査終了後まで持続していました。ただしその頃には統計学的に有意ではなくなり、偶発的な結果の可能性も否定できませんでした。 試験後追跡期間中に、サプリメント服用者の心臓病や脳卒中による死亡のリスクが上昇することはありませんでした。

この結果は、サプリメント服用中止後上昇していた肺癌リスクは低下するものの、死亡のリスクは7%高く、その大部分は心臓病と脳卒中によるとするATBC試験の結果と対照的でした。 CARET試験参加者にみられた肺癌リスクの持続的上昇は、β-カロテンが引き起こした細胞の変化が、β-カロテンの血中濃度が正常値に戻った後も持続するためであろうと本研究の著者らは示唆しています。

制限事項 β-カロテンサプリメントが非喫煙者に対して有害であることが示されたわけではないと米国国立癌研究所(NCI)、癌疫学・遺伝学部門のDemetrius Albanes医師は述べます。(1984年以降、Albanes氏は、NCIが資金提供したATBC研究の試験責任医師でした。)この見解は、部分的には、別の大規模臨床試験であるPhysicians’ Health Studyで健康な男性に対してβ-カロテンサプリメントが無益無害であると示されたことに基づいています。 さらに、臨床試験の結果はβ-カロテンのサプリメントに限って示されたもので、黄色、オレンジ色、赤色の果物や野菜などβ-カロテンやその他のカロテノイドが豊富に含まれている食品についての結果ではない、と強調しました。多くの研究でこれらの食品の健康上の利点が指摘されています。

コメント ATBC試験とCARET試験の結果を総合すると「β-カロテンサプリメントの摂取が、喫煙者の肺癌罹患率に有害な影響を及ぼすという強力な証拠になりました」とスローンケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)のAnna J. Duffield-Lillico氏とColin B. Begg氏は付随の論評に記しています。 CARET試験終了後の追跡調査で得られた知見では、β-カロテンサプリメントが肺癌リスクの高い人、とりわけおそらく女性にとってより長期的な害を及ぼし得ることが示され、過去の2つの臨床試験における知見をさらに深めました。

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杉田 順吉 訳

橋本 仁(獣医学)監修

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