脳転移を有する非小細胞肺がんへの放射線治療の効果に疑問符

『「全脳照射」は、脳転移をきたした肺がん患者にとって有益性はない』とBBCニュースが報じた。

英国で行われた試験により、放射線治療は、標準治療と比較して、生存期間および生活の質(QOL)を有意に改善しないことが明らかになった。

研究者らは、脳転移をきたした進行肺がん患者を対象に、全脳照射(WBRT)を行った場合に、放射線治療を行わない至適治療と比較して、全生存およびQOLに影響を与えるか否かを検討した。

この試験では、がん(非小細胞肺がん)の生存期間は不良で、治療法に関係なく約9週であった。

標準治療と並行してWBRTを施行した場合、QOLで調整した生存期間が約4~5日ほど延長することが示された。

しかし、代わりに脱毛および悪心などの副作用が生じた。放射線治療は、痛みはないものの、複数回にわたる通院など、時間を要する場合がある。

これらを考えると、すでに期待余命が短い場合には苦痛になりうると思われる。今回の結果は、この治療法を見直す必要性を示している。

しかし、こうした知見が当てはまるのはすべての肺がんではなく、非小細胞肺がんのみである。

この試験は、医師が他に適当な治療法がないと考えた患者のみを対象としている。また、医師が放射線治療が有効かどうか確信を持っていない場合があり、その場合は、放射線治療によって治療可能な患者が依然として存在している可能性がある。

医師と患者の双方の感情に反することだが、QOLの観点からすると病状を治療しないという選択肢を選んだ方がよい状況もありうる。

研究の出典

本試験は、Northern Centre for Cancer Care, Newcastle Hospitals NHS Foundation Trust、University College London、ならびに英国およびオーストラリアのその他施設の研究者らが行った。

英国のCancer Research UKおよびUniversity College LondonのMedical Research Council Clinical Trials Unit、ならびにオーストラリアのNational Health and Medical Research Councilが資金提供を行った。

本試験は、査読つき学術雑誌Lancet誌にオープンアクセス論文として掲載されており、ここから無料で読むことができる。

この研究に関するBBCニュースの報道は詳細で、研究著者の一人であるDr. Paula Mulvenna氏による有用なコメントも含まれている。次のとおり:「われわれの肺がん診療施設では、期待していた改善は観察されませんでした」。

「生存期間は不良で、1980年代以降ほとんど変わっていません。さらに、放射線治療による毒性が大きい場合もあり、認知機能を損なう場合もあるのです」。

この報道によると、上記のことが当てはまるのはすでに転移をきたした非小細胞肺がん(最も多い種類)患者で、症例の約15~20%を占め、非小細胞肺がんよりも脳転移をきたすことが多い小細胞肺がん患者には当てはまらない。こうした症例では、放射線治療が依然として有用である可能性がある。

研究の種類

今回のランダム化比較対照試験(RCT)は、脳転移をきたした非小細胞肺がん患者においてWBRTがQOLおよび全生存に影響を与えるか否かの検討を目的とした。

ステロイド治療とWBRTの組み合わせは、肺がんによる二次性脳腫瘍(転移)の治療では一般的であるが、治療を行った場合でも最終的な予後は依然として不良である。

もしこの治療法が、患者のQOLおよび生存に有意義な影響を与えていないとすれば、今後、同様の治療を続けることには疑問が残る。

費用の問題に加え、副作用が生じる可能性があること、そして患者の時間を消費することは、彼らの人生の中の、時間が特に貴重な一時点では、害となる可能性もある。

ランダム化比較対照試験は、この治療法の効果および安全性を検討するうえで最適な試験法である。

研究内容

QOL After Treatment for Brain Metastases(QUARTZ)試験では、脳転移をきたした非小細胞肺がん患者538人が登録された。患者らは、英国およびオーストラリアの病院69施設から参加した。

患者は、WBRT(20 Gyを5分割で1日1回照射)を行う群または至適支持治療を単独で行う群に無作為に割り付けられた。両群とも、デキサメタゾンを用いたステロイド治療を行った。

主要評価項目は、QOLで調整した生存年(QALY)の延長とした。

この評価項目は、EQ-5D症状およびQOL質問票における回答と組み合わせた全生存率に着目して評価された。

質問票への回答は、ランダム化から少なくとも12週間は週1回とし、以後は月1回とした。

結果

全生存については、両群の有意差はみられなかった[ハザード比1.06、95%信頼区間(CI)0.90~1.26]。

平均生存期間は、WBRT群で9.2週および標準治療群で8.5週であった。

WBRTは、QOLで調整した生存に与えた影響はごくわずかであった。治療で得られたQALYは、WBRT群で46.4日および標準治療群で41.7日であり、その差は4.7日であった(90%CI 12.7~−3.3)。

4週時点で、全症状および重大な副作用の点で両群に有意差はみられず、各群の約3分の1に生じていた。

標準治療群と比較してWBRT群に有意に多くみられた非重篤な副作用は、以下のとおりである。

・中等度から重度の眠気(発生割合は42%対28%)
・脱毛(34%対1%)
・悪心(10%対2%)
・頭皮乾燥または頭皮掻痒(7%対1%)

結果の解釈

研究者は以下のように述べる。「今回の知見は、WBRTによる転帰は標準治療と比較して劣っていないまたは不良ではないことを示しているものの、両群でQALYの差が小さいこと、ならびに生存およびQOLの差がないことを総合して考えると、この患者群にWBRTを行っても臨床的に有意なベネフィットの増加はほとんどないことが示唆される」。

結論

今回の試験は価値のあるもので、脳転移をきたした非小細胞肺がん患者へのWBRTの使用について疑問を投げかけている。

試験結果は、こうした患者の予後が不良であることを示しており、平均生存期間は治療群に関わらず約9週程度であった。

標準治療と並行してWBRTを行った場合、QOLで調整した生存期間は約4~5日ほど延長した。

しかし、放射線治療によって眠気、脱毛、および悪心などの副作用が生じるおそれがあり、これらは期待余命が短い場合には不必要に苦痛を与えうると思われる。

しかし、試験には次のように多くの長所もある。

・標本の大きさが適切であった。あらかじめ検出力を計算し、主要評価項目の差を確実に検出するために十分な大きさの標本が得られた。

・症状およびQOLに関する質問に回答可能なかぎり、患者の病気の程度を問わず対象とした。

・治療施設、性別、および疾患の重症度について層別化して無作為割付を行った化した。その結果、ベースラインの特性は両群で均衡した。

・両治療群にランダム化されたすべての患者を解析対象とした。

患者および研究者らに対し、治療割付を盲検化することはできなかったが、これは、研究者らが言及するとおり、道義的な必要性によるものである。

不必要な見せかけの放射線治療を行うために、進行がん患者を定期的に治療施設に通院させることは、それは正しいとはいえず、患者のQOLにさらなる悪影響を与えるであろう。

全体として、今回の結果は脳転移をきたし、余命が短いがん患者における放射線治療を見直す必要性を示している。

しかし、いくつか重要な留意点がある。医者らは、今回の試験に参加した患者に適用可能な治療法は他にはないと判断しており、そして、医者と患者の双方ともWBRTが患者にとって有益となるか否かについては判断しかねていた。

このことは、今回の対象患者は、医療チームおよび患者が治療法の効果に自信を持ち、その治療法の実施を決定している非小細胞肺がんおよび脳転移を有する患者ではないことを意味する。

また、今回の結果は脳転移のある小細胞肺がん患者および他の種類のがん患者には当てはまらない。したがって、脳への放射線治療が有用な患者が依然として存在する可能性があるが、そうした患者は今回の試験では対象としていない。

自分自身や友人、親戚に対する治療方針の潜在的なリスクおよびベネフィットに確信が持てない場合は、遠慮せずいつでも相談するべきである。

がん専門看護師は、通常、集学的チームとして知られる各病院のがんチームの構成員であり、最初に相談する人間としては最適であろう。

【キャプション】放射線治療による副作用として、脱毛があげられる。

翻訳担当者 前田愛美

監修 河村光栄(放射線腫瘍学、画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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