積極的局所療法により転移肺がんの一部で無増悪生存期間が3倍に
臨床診療を積極的に変化させることで転帰が改善する可能性が、MDアンダーソン主導の試験で明らかに
MDアンダーソンがんセンターニュースリリース
転移巣が3個以下の少数転移を有する肺がん患者に対し、標準的な化学療法の後、手術や放射線による積極的な局所療法を行うと有益となる場合があることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターによる研究で明らかになった。より大規模な試験で今回の結果を検証すれば、多くの肺がん患者の臨床診療に劇的な変化をもたらすだろう。
6月6日、2016年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会にて放射線腫瘍学准教授のDaniel Gomez医師が研究結果について口頭発表する。彼らの研究からは、局所的地固め療法(LCT)を行った患者において、無増悪生存期間(PFS)が8カ月延長したことが明らかになった。
アメリカ癌協会(ACS)によると、今年、米国では224,390人が肺がんと診断され、158,080人が肺がんで死亡するとされている。Gomez氏は、診断された人のうち約50%が転移を有し、転移の約20~50%は3個以下と推定されると述べている。
Gomez氏によると、これまで転移を有する肺がん患者には化学療法が施行され、完治は難しいと考えられてきた。しかし、この10年間で治療が進歩したことで、わずかな転移を有する肺がん患者であれば、局所的地固め療法により、理論上は長期間にわたる病勢のコントロールが可能であることが、多くの後ろ向き研究で示されている。
「放射線照射、分子標的薬、また全身療法や維持療法の最近の進歩により病勢コントロールが可能になったことを示す研究があります。しかし、有利な危険因子のため局所的地固め療法を受けたのは限られた患者でした。このため、これらの研究にはバイアスが存在します」と本研究の責任著者Gomez氏は語っている。
「本研究は、少数転移を有する肺がんを対象に、患者への積極的治療について考察し、その結果を維持療法や経過観察が一般的な標準治療と比較した初めてのランダム化前向き試験であります」
本試験は前向き第2相試験として94人を対象に計画されたが、試験群で有益性が認められたため早期に中止された。試験では、MDアンダーソンを中心施設とした3カ所の参加施設で合計49人の非小細胞肺がん患者が登録され評価された。患者の全員がステージIVで、3個以下の転移巣があり、化学療法による初回治療の後に増悪が認められなかった。主要評価項目は無増悪生存期間とした。
患者の半数は、化学療法の併用下または非併用下で、すべての転移巣に対し放射線または外科的切除を行う局所的地固め療法の試験群に無作為に割り付けた。残りの半数は標準的化学療法を行う群とした。放射線か手術かは集学的チームが転移巣の状態を考慮し決定した。両治療法ともいずれの照射法や手術法も可能とした。
「本研究で実用的なものにし、日常診療で現在患者に行われている治療に幅を持たせたいと考えていました」とGomez氏は述べている。
本試験では無増悪生存期間の8カ月の延長が認められた。無増悪生存期間の中央値は、局所的地固め療法群が11.9カ月で、標準的化学療法を行う群は3.9カ月であった。
標準的化学療法を行う群の17人が局所的地固め療法群へ乗り換えた。そのうち14人は増悪のためであった。
全体として、増悪をきたしたのは28人(局所的地固め療法群12人、標準的化学療法を行う群16人)で、7人は原発部位、3人は既知の転移巣、7人は別の転移巣、11人は複数の箇所での増悪であった。試験が早期中止となったため、全生存期間についてはまだ十分ではない。
Gomez氏は、無増悪生存期間の結果で有意性がみられたことにわれわれは驚いたと述べている。
「かねてから患者集団と同様に医療提供者からも、追加の治療への強い要望はありました」とGomez氏は語る。「今回の結果が根拠となり、積極的な局所治療を行う熱意が生まれます。また、検証を行うことで、何万人もの肺がん患者に対する根治目的の治療への道が開けるはずです」
さらに研究が進むと全生存期間やQOLが報告されるだろう。また、免疫療法を含めた追跡試験の計画が進行中であり、今後の結果は現在の治療の選択にさらに適用されていくこととなる。
本研究の制限事項としては、患者集団が不均一であり、試験全体が小規模であった。全生存期間の有益性を認める検出力もなかった。また、群間で乗り換えがあったため検出力が低下した可能性がある。
本試験の一部はMDアンダーソンLung Cancer Moon Shots Programと、その慈善基金のLung Cancer Priority Fundから資金提供を受けた。
Gomez氏以外の共統括著者は以下のとおり。MD Anderson’s Stephen Swisher, M.D., professor and head of the Division of Surgery, and John Heymach, M.D., Ph.D., professor and chair of Thoracic/Head and Neck Medical Oncology.その他のMDアンダーソンの著者は以下のとおり。George R. Blumenschein, M.D., Don L. Gibbons, M.D., Ph.D., Anne S. Tsao, M.D., Jianjun Zhang, M.D., Ph.D., William N. William, M.D., all with Thoracic/Head and Neck Medical Oncology; Jack J. Lee, Ph.D., executive vice provost and Mike Hernandez, Biostatistics; Ritsuko Komaki, M.D., Radiation Oncology; and Jose A. Karam, M.D., Urology.その他の著者は以下のとおり。Additional authors are: Ross Camidge, M.D., Ph.D., Robert Doebele, M.D., Ph.D., Laurie E. Gaspar, M.D., and Brian D. Kavanagh, M.D., all of University of Colorado School of Medicine; Alexander V. Louie, M.D., London Regional Cancer Program
著者全員が利益相反がないことを宣言している。
******
成宮眞由美 訳
小宮武文(腫瘍内科/カンザス大学医療センター)監修
******
原文
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
肺がんに関連する記事
肺がん患者は病気や治療を肯定的に捉えると転帰が改善する可能性
2024年12月21日
欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライト
2024年12月20日
米FDAが、非小細胞肺がんと膵臓腺がんにzenocutuzumab-zbcoを迅速承認
2024年12月17日
STK11/KEAP1変異肺がんに免疫療法薬2剤+化学療法が有効
2024年11月18日
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...