非小細胞肺がん治療の大躍進―治療薬が多数承認、または後期臨床試験中

史上最多の薬剤が短期間で承認され、さらに多くの治療薬が後期臨床試験段階にある

抗チューブリンや代謝拮抗物質などのようなジェネリック化学療法は、非小細胞肺がん(NSCLC)患者の主要な治療法の一つとして、しばしば白金製剤との併用療法として用いられている。しかし近年、NSCLCの治療は、腫瘍組織型や分子型によって非常にセグメント化された適応がなされており、標的を絞った治療薬により治療アルゴリズムが展開されている。これらの治療薬には、血管新生阻害薬であるベバシズマブや、第一世代上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬であるエルロチニブ、未分化リンパ腫リン酸化酵素(ALK)阻害薬であるクリゾチニブが含まれる。2015年には、米国食品医薬品局(FDA)がNSCLCに対してさらに6つの治療薬を承認した。これは、その年の他のがん領域と比べて最も多く、NSCLCに対する標準治療の転換が生じることとなった。

プログラム細胞死タンパク質1(PD1)阻害薬であるニボルマブは、治療歴を有する転移性扁平上皮がん患者に対してアメリカ(2015年3月)およびヨーロッパ(2015年7月)で承認された、NSCLC治療における初めての免疫治療であり免疫チェックポイント阻害療法となった。FDAでは、2015年10月に非扁平上皮NSCLCにも適応拡大された。どちらの組織型においても、ニボルマブは、標準治療であるドセタキセルに対して有意な全生存期間の延長を示した。二つ目のPD1阻害薬となるpembrolizumab[ペムブロリズマブ]は、腫瘍にPD1リガンド1(PDL1)が発現しているNSCLCに対し、コンパニオン診断薬(PD-L1 IHC 22C3 pharmDx)と共に2015年10月に承認された。ヨーロッパおいては、NSCLCに対するペムブロリズマブの承認は現在審査中である。ニボルマブとペムブロリズマブについては、現在さらに早い段階での治療に拡大するための第3相臨床試験が複数行われている。

ゲフィチニブは、もう一つの第1世代EGFR阻害薬であり、EGFRエクソン19の欠失あるいはエクソン21(L858R)の変異のある転移性NSCLCに対する一次治療薬として2015年の7月にFDAに承認された。オシメルチニブは第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であり、治療抵抗性のEGFR-T790M変異陽性患者への初めての治療薬である。オシメルチニブは2015年11月にアメリカで迅速承認され、ヨーロッパにおいては2016年2月に条件付きで承認された。FDAでの適応症とは異なり、ヨーロッパではEGFR TKI治療抵抗性の患者のみという適応制限はない。

Necitumumab[ネシツムマブ]は組み換え型抗EGFRモノクローナル抗体であり、2015年11月にアメリカで、また2016年2月にヨーロッパで、ゲムシタビンおよびシスプラチンとの併用での転移性扁平上皮NSCLC 一次治療薬として承認された。ゲムシタビンおよびシスプラチンとの3剤併用療法で示された全生存期間の中央値の差は1.6カ月であり、有意ではあるが若干の延長に留まった。

ALK阻害薬であるアレクチニブは、クリゾチニブによる治療への抵抗性を示した転移性のALK陽性NSCLC患者への治療薬として、早期の臨床試験データをもとに、まず日本で2014年7月に、FDAでは2015年12月に迅速承認された。ヨーロッパでは、2015年9月に申請され、現在審査中である。日本国内の第3相J-ALEX試験は、ALK阻害薬未投与患者に対するアレクチニブおよびクリゾチニブの効果を比較する試験であったが、主要評価項目である無増悪生存期間が有意に延長されたことから、2016年2月頭に早期有効中止された。同様の試験デザインである第3相ALEX試験については、アメリカおよびその他の国で現在も行われている。

後期臨床試験パイプライン

最も期待が集まっているのは、免疫チェックポイント阻害薬とその併用療法である。Atezolizumab[アテゾリズマブ]、durvalumab[デュルバルマブ]、avelumab[アベルマブ]といったいくつかのPD1阻害薬について、NSCLCに対する第3相試験が行われている。アテゾリズマブは単剤、もしくはベバシズマブや化学療法などの他剤との併用における有用性が検証されている。デュルバルマブは、単剤として、あるいは細胞障害性Tリンパ球関連抗原-4(CTLA-4)をターゲットにしたtremelimumab[トレメリムマブ]との併用における有用性が検証されており、現在のところ第3相開発段階にある唯一の、切除不能進行型(ステージIII)NSCLCに対する免疫チェックポイント阻害薬である。

ペムブロリズマブと同様、アテゾリズマブやデュルバルマブも、腫瘍切除後のステージIBからIIIAに対する補助治療として、後期臨床開発段階である。NSCLCに対するアテゾリズマブとデュルバルマブの有用性を検討する試験として、2015年には全部で7つ、第3相としては4つの試験が行われている。しかし、デュルバルマブとオシメルチニブの併用治療を検証する第3相CAURAL試験は、安全性の理由により2015年10月に一時中断された。NSCLCに対するアベルマブの有用性の評価試験は2015年に第3相に入り、転移性がんに対する2つの第3相試験が現在行われている。

第3世代のEGFR TKIであるrociletinib[ロシレチニブ]は、EGFR-T790M変異陽性のNSCLCに対する治療として、アメリカおよびヨーロッパで現在当局により審査中である。オシメルチニブと同様、ロシレチニブはFDAにより画期的新薬として認められ、早期の臨床試験データにより当局に申請された。第3相TIGER-3試験では現在、EGFR T790M変異陽性であるかに関わらず、EGFR活性化変異陽性(エクソン20変異を除く)患者に対する有用性が検証されている。第2/3相TIGER-1試験はロシレチニブをEGFR変異陽性NSCLCの一次治療として検証している。別の第3世代EGFR TKIであるASP8273は、同じくEGFR活性化変異に対する一次治療薬としての検証が第3相で行われている。

Dacomitinib[ダコミチニブ]は、不可逆的pan-HER2阻害薬であり、転移性NSCLCに対する一次治療として検証が行われているが、二つの独立した第3相試験において、前治療歴を有するNSCLC患者において主要評価項目を満たさなかったことが報告されている。

抗HER3モノクローナル抗体薬であるpatritumab[パトリツマブ]もNSCLCに対する有用性について第3相試験で検討が行われている。

その他後期臨床試験が行われている治療薬としては、BRAF/MEK阻害薬、CDK4、CDK6、PARP阻害薬などがある。BRAF阻害薬であるダブラフェニブは、BRAF V600E変異陽性患者に対する単剤治療として2014年にFDAに画期的新薬として承認され、2015年にMEK阻害薬であるトラメチニブとの併用治療薬としても承認された。MEK阻害薬であるselumetinib[セルメチニブ]については、KRAS変異陽性NSCLC患者に対する第3相試験であるSELECT-1試験が展開されている。

また、NSCLCに対する多種多様なワクチン治療(BV-NSCLC-001(EGF抗原ワクチン)、TG-4010(組み換えウイルスワクチン)、tergenpumatucel –L(全細胞ワクチン)、OSE-2101(多抗原ワクチン))も、後期臨床試験段階である。しかしワクチン治療の領域は、開発の失敗も目立っている。

参考文献
Nawaz K, Webster RM. The non-small-cell lung cancer drug market. Nature Reviews Drug Discovery 2016;15(4):229-230.

翻訳担当者 仲川涼子

監修 吉松由貴(呼吸器内科/飯塚病院)

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