臨床診断による初期ステージの肺がんは、過剰治療と関連する可能性

初期ステージの肺がん患者において病理診断の結果を得ることは、併存疾患や腫瘍の位置、患者の要望により、しばしば困難である。8年間の調査では、病理診断に比べて、臨床診断で初期ステージの肺がんと確定された患者の数ははるかに少なかった。また、臨床診断された患者では、全生存率ではなく、がん特異的生存率(Cancer Specific Survival:CSS)の改善との関連性が示された。

米国フィラデルフィアにあるFox Chaseがんセンター放射線腫瘍学部門のTalha Shaikh氏は、2016年4月13~16日にスイスのジュネーブで開催された欧州肺がん学会(ELCC 2016)のセッション「胸部悪性腫瘍の集学的管理」において研究結果を発表した。

Shaikh氏らは、大規模データベースの情報を用いて、初期ステージの肺がんの臨床診断における傾向を評価し、診断と治療転帰との関係を明らかにした。研究では、2004年からの8年間SEERレジストリのデータを調査した。この解析には、ステージ1(臨床病期T1aからT2a)の肺がんにより放射線治療のみを受けた18歳以上の患者7,050人から得られたデータを対象に含めた。患者の転帰として、全生存率(OS)にはCox比例ハザードモデルを、がん特異的生存率(*サイト注:一定期間にがんによって死亡する割合、または死亡までの期間)には競合リスク回帰分析を用い、診断タイプおよび診断に続く放射線治療との関連を評価した。

臨床診断はがん特異的生存率の改善に関連するが、全生存の改善とは関連しない

研究では試験中、病理診断が行われた6,399人(90.8%)と臨床診断が行われた651人(92%)で、診断手法による有意な変化はみられなかった(p = 0.172)。

臨床診断を受けた疾患の患者での転帰としてがん特異的生存率が改善され、その改善度合いの大きいサブグループもいくつか存在した。

がん特異的生存率と診断方法の関連性には有意差が認められた。多変量解析では、がん特異的生存率の改善は臨床診断に関連していた(ハザード比0.82、95%信頼区間0.71~0.96)。腫瘍の臨床病期ごとに患者を層別して評価すると、臨床診断でT1aと診断された患者のがん特異的生存率に改善が認められた(ハザード比0.75、95%信頼区間0.58~0.96、p = 0.022)。また、T1bと臨床診断された患者ではがん特異的生存率の改善傾向が認められた(ハザード比0.74、95%信頼区間0.55~1.00、p = 0.052)。

研究では、臨床診断と病理診断との比較において、T分類と腫瘍の大きさによるハザード比(HR)の段階的な改善も報告された。

臨床診断コホート群の患者の転帰を腫瘍の大きさの四分位点により評価すると、より小さい腫瘍である0~1.9cmの範囲の腫瘍のある患者ではがん特異的生存率の改善がみられた(ハザード比0.74、95%信頼区間0.58~0.99、p = 0.040)。また、腫瘍の大きさが2.0~2.7cmの範囲にある患者ではがん特異的生存率の改善傾向がみられた(ハザード比0.78、95%信頼区間0.58~1.03、p = 0.083)。

しかしながら、臨床診断された初期ステージの肺がんは全生存率とは関連していなかった(ハザード比1.01、95%信頼区間0.90~1.13)。

研究結果を考察したイタリア、ナポリにあるIstituto Nazionale Tumori, Fondazione Pascale, IRCCS、胸部外科・腫瘍内科のGaetano Rocco氏は最近の文献において、体幹部定位放射線治療(SABR)前の組織診断は、心肺機能に依存して8~100%の患者で不明であると述べた。さらに、生検による確定診断と組織診断されずにSABRを受けている肺がん患者との間で、転帰が重複するケースが報告された。Rocco氏は、この研究の限界として、特にSABRを受けた易感染性患者にみられる深刻な急性毒性や慢性毒性、均一ではない患者コホートの後ろ向き解析であること、がん特異的生存ではなく全生存期間(3年時点)の報告、および追跡期間中央値が比較的短いという問題をさらに詳細に述べた。

研究を結論づけるにあたりRocco氏は、SEERレジストリには併存疾患やパフォーマンスステータス(PS)、腫瘍マージンの状態、放射線照射量や化学療法の使用に関するデータが含まれていないことを強調した。このような状況では、本格的な傾向スコア解析は困難である。Rocco氏は次のような疑問を呈した。

すなわち、SABRを受けている組織診断ではない方法で確定診断された患者において、もし急性毒性と慢性毒性が報告されていればそれは何であったか、SABRで治療された末梢腫瘍と中心腫瘍でがん特異的生存を層別化することが可能であるか、最終的な結論を下すにあたり17カ月の追跡期間中央値は許容できるか、また、診断の有無が混在した患者のSABRの転帰報告に対して最終的な修正が必要かどうか、そして今後は組織診断された患者に注目していくのか、または全生存率の報告を断念し、がん特異的生存率や実臨床での推測を優先するべきなのか。

結論

臨床診断を受けた患者のがん特異的生存率が改善されたことは、特に小さい腫瘍のある患者において良性疾患の過剰治療の可能性を示唆している、と著者らは結論した。過剰治療の可能性を減少させるためには患者の慎重な選択が必要であると、著者らは助言した。

参考文献
97O. Overtreatment of patients with clinically diagnosed early stage lung cancer

翻訳担当者 中島 節

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所)

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原文掲載日 

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