EGFR 変異陽性の非小細胞肺がん初回治療にオシメルチニブが有効な可能性

 ・トピック:肺がんおよびその他の胸部腫瘍と抗がん剤および生物学的治療

第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)、オシメルチニブ(osimertinib:タグリッソ)はEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の初回治療として有効である。スイスのジュネーブで開催された欧州肺がん学会(ELCC)のlate-breaking abstract (LBA:発表申し込み締め切り後にデータが出そろった研究要旨)として発表された[1]。二番目のLBAでは、同薬がEGFR遺伝子のT790M変異陽性NSCLC患者に有効であることが示されている。

EGFR阻害薬はEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者の標準治療であるが、治療後に出現する薬剤耐性の50%から60%はT790M変異である。オシメルチニブは、EFGR遺伝子変異(エクソン19および21)およびT790M変異に対する強力な阻害薬である。本日発表された試験では、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する初回治療としてのオシメルチニブ投与が、T790Mによる耐性の遅延によって良好な効果をもたらすか否かを検討した。

研究対象は、AURA試験の2件の第1相拡大コホートに登録された、局所進行または転移を有するEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者60人であった。初回治療の設定では。患者30人にはオシメルチニブを1日80mg、残りの患者30人には1日160mgが投与されていた。追跡調査期間中央値は16.6カ月であった。

全奏効率は77%であった。160mg投与群の無増悪生存期間(PFS)中央値は19.3カ月であったが、80mg投与群では中央値に到達していない。奏効期間は中央値に到達していない。この薬剤は、有害事象もほとんどなく良好な忍容性を示した。特に承認用量80mg投与群では、毒性管理のために減量を必要とした患者は10%のみであった。

本試験の発表者Suresh Ramalingam教授(エモリー大学医学部血液・腫瘍内科学教授、米国ジョージア州アトランタWinship Cancer Institute副所長)は次のように語った。「全奏効率は、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療として報告された中で最良の結果でした。PFSの結果はすばらしく、第1、第2世代の薬剤による10カ月から13カ月というこれまでの結果を大きく上回ります。患者の多くは試験中にがんが進行せず、現在も治療の恩恵を受けています」。

最初のデータによると、がんが進行した患者には耐性機序であるT790M変異はなかった。「このことから、オシメルチニブを初回治療に使用することで、がんの生物学的特性が変化している可能性があります」とRamalingam教授は語った。

これらの結果は、500人以上の患者を対象に、初回治療としてオシメルチニブをエルロチニブあるいはゲフィチニブと比較する第3相臨床試験で検討される。結果は18カ月後には判明する予定である。

スペイン、バルセロナ州のVall d`Hebron大学病院の腫瘍内科Enriqueta Felip医師は本試験に参加していなかったが、次のようにコメントした。「初回治療におけるオシメルチニブは有望であると思われます。現在進行中のランダム化試験は、未治療EGFR遺伝子変異陽性患者の治療におけるオシメルチニブの役割を明らかにするでしょう」。

本日発表された二番目のLBAでは、AURA試験2件の最終結果を公表している。これらの試験では、EGFR TKI治療後に進行したEGFR遺伝子変異陽性かつT790M陽性NSCLC患者に対するオシメルチニブ推奨用量(80mg)について検討した。奏効率は、患者63人を対象にした第1相用量拡大コホートでは71%、患者441人を対象とした第2相試験2件の集約結果では66%であった。PFSは、第1相コホートでは9.7カ月、第2相試験では11カ月であった。

「2件の試験、およびそれに先立つAURA試験との間で、奏効率およびPFSはほぼ同様でした。間質性肺障害やQT間隔延長[2]などの有害事象は、われわれのこれまでの分析結果と同様にまれでした」と、筆頭著者James Yang教授(国立台湾大学病院(台湾、台北)腫瘍学部・医療研究部部長)は語った。

同教授は次のように結論づけた。「EGFR TKI治療後にがんが進行したT790M陽性EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に関する今回の最終統合解析によって、高い全奏効率、期待できる奏効期間および良好な忍容性を示すことができました。PFSは化学療法での4、5カ月に比較して長い。今回の結果は、EGFR TKI治療に無効となったEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者にとって朗報であり、現時点でオシメルチニブが彼らの標準治療薬です。T790Mの分子診断もいまや標準です」。

結果についてFelip医師は次のようにコメントした。「本試験は、この患者群に対するオシメルチニブの良好な結果を確認したものです。EGFR TKI治療後にがんが進行したEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対して、オシメルチニブという効果の高い薬剤が利用できる今、T790Mの検査が必要なのは明白です」。

オシメルチニブはこのほど、米国、EU、および日本でEGFR T790M変異陽性転移性NSCLC患者に対する初めての適応治療薬として迅速承認された。

参考文献
1. LBA1_PR: Osimertinib as first-line treatment for EGFR mutation-positive advanced NSCLC: updated efficacy and safety results from two Phase I expansion cohorts. S. Ramalingam, US. Thursday 14th April 2016 – 15:30-15:45 New strategies for EGFR addicted NSCLC Room B
LBA2_PR: Osimertinib (AZD9291) in pre-treated pts with T790M-positive advanced NSCLC: updated Phase 1 (P1) and pooled Phase 2 (P2) results. J. Yang, Taiwan. Thursday 14th April 2016 – 15:45-16:00 New strategies for EGFR addicted NSCLC Room B
2. The QT interval is a measure of the electrical cycle of the heart. A prolonged QT interval indicates a risk of abnormal heart rhythms.

翻訳担当者 有田香名美

監修 久保田 馨(呼吸器内科/日本医科大学付属病院 がん診療センター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

免疫療法薬2剤併用+化学療法はSTK11/KEAP1変異肺がんに有効の画像

免疫療法薬2剤併用+化学療法はSTK11/KEAP1変異肺がんに有効

進行非小細胞肺がんでSTK11/KEAP1変異を有する患者への併用療法により転帰が改善

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させるの画像

先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解(引用)
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)の画像

世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)

特集:術前・術後の免疫療法、HER2およびEGFR遺伝子変異を標的とした治療など、肺がん治療における有望な臨床的進歩テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは...
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長の画像

肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解「過去15年間にわたり、ミシシッピ・デルタ中心部における質改善の取り組みは、この高リスク集団の...