高齢の悪性胸膜中皮腫患者を、拡大胸膜切除/肺剥皮術の適応外とすべきではない
高齢の中皮腫患者では拡大胸膜切除/肺剥皮術の前に綿密な術前評価を行うことが望ましい
・トピック:肺および胸部腫瘍
年齢は、独立した因子としては拡大胸膜切除/肺剥皮術(EPD)後の患者の転帰に影響を与えなかったものの、リンパ節転移を認めた場合や術後に化学療法を受けなかった場合には高齢患者は若齢患者よりも予後不良であった。
この知見は、2016年4月13〜16日にスイスのジュネーブで開催された欧州肺がん学会(ELCC)で、英国レスター大学グレンフィールド病院胸部外科のAnnabel Sharkey氏によって発表された。これにより、年齢は予後の予測因子ではなく、腫瘍の進行などの他の因子が予後に与える悪影響は若齢患者と比較して高齢患者でより強いことが示された。
70歳以上の患者にEPDを考慮する場合は、より慎重なアプローチが求められる
Sharkey氏は、年齢を理由に高齢患者をEPDの適応外とすべきではないと述べた。そして、リンパ節転移や術後の補助化学療法の有無が予後に及ぼす影響は若齢患者より高齢患者で特に大きいため、リンパ節転移の有無と範囲、ならびに術後に補助化学療法が実施できそうか否かについて、高齢患者では術前により綿密に評価することが薦められる、とも述べた。
Sharkey氏らは70歳以上の患者と70歳未満の患者の臨床病理学的データおよび転帰・生存に関するデータを比較するため、1999年から2015年に前向きに収集したEPD実施患者全員のデータを検討した。
すべての患者において、EPDは肉眼的完全切除を目的として行われた。
全体として282人の患者がこの研究の対象となったが、このうち79人(28.0%)がEPD施行時に70歳以上であった。70歳以上と70歳未満の2群間には、年齢以外の患者背景や病理学的特徴に差は認めなかった。
術後入院期間・手術関連死亡率および全生存は、高齢患者と若齢患者で同様であった
多変量解析を行った結果、有意な予後因子は高齢患者群と若齢患者群で同様であり、年齢は転帰を決定する有意な予後因子ではないことが明らかになった。70歳以上の患者の入院期間中央値は14日(範囲:2〜93日)で、若齢患者の入院期間中央値12日(範囲:0〜70日)と同程度であった(P = 0.118)。
EPD術後の死亡率も両群間で同程度であった。すなわち、在院死亡率は若齢患者3.5%および高齢患者6.5%(P = 0.323)、また、90日死亡率は若齢患者7.9%および高齢患者10.1%(P = 0.635)で、いずれも両群の間に差を認めなかった。
全生存期間(OS)は若齢患者13.0カ月および高齢患者10.5カ月で、同程度であった(P = 0.683)。
多変量解析では、術後の補助化学療法の未実施(ハザード比[HR] 2.088; 95% CI 1.372〜3.176[P = 0.001])および術前の貧血の存在(HR1.976; 95% CI 1.294〜3.017[P = 0.002])の2つが、全患者における予後不良因子であることが明らかになった。
図のタイトル:全生存:70歳未満または70歳以上
腫瘍の特徴と術後化学療法の未実施が転帰に及ぼす影響は、高齢患者ではより大きい
図のタイトル:リンパ節転移陽性の非上皮型患者の全生存:70歳未満または70歳以上
一方で、リンパ節転移陽性患者だけをみると、高齢患者は有意に生存が劣っていた。すなわち、リンパ節転移陽性の非上皮型中皮腫の患者では、高齢患者の生存期間が3.8カ月と若齢患者の生存期間6.6カ月と比較して有意に短かった(P=0.024)。
EPD施行後に集中治療を要した患者の割合は高齢患者で有意に高く、若齢患者5.4%および高齢患者16.8%(P = 0.004)であった。心房細動の発症率は若齢患者14.4%および高齢患者24.7%と、高齢患者が若齢患者の約2倍であった(P = 0.051)。
EPD施行後に補助化学療法を受けた患者の割合は、高齢患者29.6%および若齢患者45.7%と70歳以上の方が有意に少ない(P=0.040)ことから、高齢患者は術後の補助化学療法に十分には耐えられないことが示唆される。
イタリア、ナポリに所在する Istituto Nazionale Tumori IRCCS “Fondazione G. Pascale” 胸部外科・腫瘍内科のGaetano Rocco氏は、本試験結果について考察を行い、拡大胸膜切除/肺剥皮術を行うべき理由を詳しく述べた。肉眼的完全切除の達成が可能な場合は、胸膜肺全摘術よりも手術に伴う合併症発生率や死亡率が低いため拡大胸膜切除/肺剥皮術の方が望ましい。拡大胸膜切除/肺剥皮術は、しかし、症状がほとんど認められない患者では、肺機能や生活の質(QOL)の低下をもたらす可能性がある。症状が認められる患者では、拡大胸膜切除/肺剥皮術を受けると、肺機能は変化ないもののQOLが著明にかつ持続的に改善する。胸膜肺全摘術ではなく拡大胸膜切除/肺剥皮術を選択することにより、より多くのパフォーマンスステータス1の患者へ手術という治療の選択肢を提供することができる可能性があり、実際に高齢患者(65歳超)では若齢患者と比較して良好な生存結果が得られている。
Rocco氏は、この研究では高齢患者の定義が他の論文と異なると述べ、異なるカットオフ値を選択していることに疑問を投じた。また、外科療法を実施する患者の選択、特に施設において術前リスク評価のアルゴリズムが整備されているのかどうかについても質問した。さらに、傾向スコア分析(訳注:比較する両群間の背景因子の影響を排除する分析方法)を用いることを検討したかどうかを尋ねた。
同氏はさらに、一般的なリスク評価モデルのうちどれを適用したか、高齢患者の術前評価に心肺運動負荷試験実施法(CPET)を標準的に用いていたのか、また患者の選択が手術(適応や術式)の意思決定にどのような影響を与えたかを質問した。また、EPDの際の多くの手技のうち、どれを胸腔鏡下(VATS)に行ったかについても尋ねた。
著者らの検討結果によると、胸膜肺全摘術から拡大胸膜切除/肺剥皮術へ術式が変遷することにより、拡大胸膜切除/肺剥皮術を施行後時間が経ってから再手術を要した割合が増加した。
Rocco氏は、この知見が高齢患者集団にも該当するか、そして患者からみた主観的な転帰や客観的転帰にどのような影響を与えるかについて質問した。
結論
著者らは、高齢の悪性中皮腫患者にEPDの実施を考慮する場合、年齢そのものではなく腫瘍進展度や術後補助療法や術前導入療法に対する忍容性についての総合的評価を基準とすべきである、と強調した。
参考文献
207O. Extended pleurectomy decortication for malignant pleural mesothelioma in the elderly – the need for an inclusive yet selective approach
原文掲載日
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