エベロリムスが肺・消化管の進行性非機能性の神経内分泌腫瘍(NET)患者における無増悪生存期間を改善

MDアンダーソンがんセンターは、小規模の医師主導試験から国際共同検証臨床試験にいたる当該臨床試験を主導

MDアンダーソンがんセンター

国際共同第3相ランダム化比較試験により、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害剤エベロリムスが肺・消化管の進行性非機能性、神経内分泌腫瘍(NET)患者における無増悪生存期間を著しく改善したことが示された。

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター、消化器腫瘍内科の教授兼主任であるJames C. Yao医師は本日、オーストリアのウイーンで開催されている欧州がん会議(欧州がん機構および欧州臨床腫瘍学会が共同スポンサー)プレジデンタルセッションにて本臨床試験結果を発表した。

「神経内分泌系は、それぞれ特定器官の機能を調節するさまざまな器官特異的ホルモンの産生を担っており、この神経内分泌系の細胞からNETは発生します。NETはゆっくりと増殖するものもあれば侵襲性が強く悪性度の高いものもあります。また、肺あるいは消化器系で認められる場合が最も多いです。ホルモンを分泌しないNETを非機能性(非症候性)NETといいます。これがNET全体の約80%を占めるため、ホルモンによる症状が現れる患者さんは少なく、診断が遅れる場合も多いのです」とYao医師は説明する。

Yao医師によればNETの発生割合は10万人に対し5.25人であり、増加傾向にある。また、地域登録データをみるとNET全体の51%以上が消化管、27%が肺、6%が膵臓で発生している。

エベロリムスは、移植片拒絶反応を予防するために用いられる免疫抑制剤であるが、血管新生阻害作用もある。この作用は、腫瘍細胞の分裂やがん細胞血管の伸長の制御に中心的な役割を担うmTORを阻害することで発揮される。

Yao医師とMDアンダーソンは長年、神経内分泌腫瘍の治療薬開発に携わってきた。2011年、膵神経内分泌腫瘍(pNET)の一次治療としてエベロリムス1日1回投与療法が承認された。Yao医師とMDアンダーソンは初期の試験から枢要な第3相試験まで、すべての相にわたる当該臨床試験を主導し、この第3相試験においてエベロリムスによる無増悪生存期間の延長が確認されたことが承認につながったのである。

「私たちがエベロリムスに関心をもつようになった理由は、mTOR経路における遺伝性がん症候群の多くが神経内分泌腫瘍と関連していることに気づいたためです。また、散発的に発症する神経内分泌腫瘍においてもmTOR経路の制御異常が予後不良の原因となることを発見した研究者もいます。MDアンダーソン単一施設試験で神経内分泌腫瘍におけるエベロリムスの有望な作用が確認された結果、大規模国際共同検証試験が実施され、本剤の承認に至ったのです。今回の国際共同検証試験の実施はMDアンダーソンの努力の成果です。この試験では肺や消化管を含む、膵以外の器官における神経内分泌腫瘍も検証の対象でした」

また、「多くのNET患者さんにとって、適用できる治療の選択肢はあったとしてもごくわずかです。実際、NET全体の25%以上を占め、より悪性度の高い肺NETにおいては承認されている治療法はないのです」とYao医師は述べる。

国際共同二重盲検試験RADIANT-4では、肺あるいは消化管における進行性非機能性NET患者302人が登録した。試験に参加した患者の年齢中央値は63歳、全員がエベロリムス10 mg投与群あるいはプラセボ投与群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。最も多かったのは、肺の非機能性NET30%および小腸の非機能性NET24%であった。主要評価項目は、無増悪生存期間であった。両群とも前治療に関しよく釣り合っていた。

エベロリムス投与による増悪リスクあるいは死亡リスクの低減率は52%と統計的に有意であり、無増悪生存期間中央値の延長は7カ月を超えた。また、全生存期間の改善傾向も見られた。とはいえ、今回の生存期間解析は中間解析であり、最終的な結論を下すには時期尚早である。追跡調査解析において、生存期間およびQOL(生活の質)のデータが解析される予定である。

エベロリムスの忍容性は良好であった。投与に関連して好発した副作用は、アフタ性潰瘍として知られる口腔内の炎症や潰瘍、また、発疹、下痢、易疲労、感染症などであった。

「エベロリムスがこのような広範囲の神経内分泌腫瘍に作用するだろうということについて、われわれはほぼ確信していました。しかし、国際共同第3相試験においてこれほど大きな有益性、つまり以前の試験で認められた効果よりもさらに強い効果がみとめられたことは全くの驚きでした。NET治療は、過去10年間で劇的な変化を遂げました。そして、治療の選択肢がなかった患者さんに治療的有益性がもたらされる可能性に胸が高鳴る思いがします」とYao医師はいう。

Yao医師のほかの著者は以下のとおりである:Nicola Fazio, M.D., Ph.D., Istituto Europeo di Oncologia – IRCCS; Simron Singh, M.D., Sunnybrook Health Sciences Centre; Roberto Buzzoni, M.D., Fondazione IRCCS; Carlo Carnaghi, M.D., IRCCS Istituto Clinico Humanitas; Edward Wolin, M.D., Markey Cancer Center; Jiri Tomasek, Ph.D., Masaryk Memorial Cancer Institute; Markus Raderer, M.D., Univ. Klinik f. Innere Medizin I, AKH; Harald Lahner, M.D., Universitaetsklinikum Essen, Zentrum f. Innere Medizin; Maurizio Voi, M.D., Novartis Pharmaceuticals Corporation; Lida B. Pacaud, M.D., Jeremie Lincy Ph.D. and Carolin Sachs all with Novartis Pharma AG; Juan W. Valle, M.D., Institute of Cancer Studies; Gianfranco Delle Fave, M.D., Ph.D., Azienda Ospedaliera Sant’Andrea; Eric Van Cutsem, M.D., Ph.D., University Hospitals Gasthuisberg/Leuven ad KULeuven; M.E.T. Tesselaar, M.D., Nederlands Kanker Instituut – Antoni van Leeuwenhoek; Yasuhiro Shimada, M.D., National Cancer Center Hospital; Do-Youn Oh, M.D., Ph.D., Seoul National University Hospital; Jonathan Strosberg, M.D., Moffitt Cancer Center; Matthew H. Kulke, M.D., Dana Farber Cancer Institute and Marianne E. Pavel,  M.D., Charite Universitatsmedizin.

Yao医師はノバルティス社の顧問であり同社から助成を受けた。同社は試験資金を出資した。

翻訳担当者 八木佐和子

監修 東 光久(腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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