クリゾチニブによる治療に適したMET遺伝子異常による肺がんの判定基準の研究
第16回世界肺がん会議(WCLC)で発表された研究は、臨床的に重要な意味をもつMET遺伝子増幅の閾値を決定する最良の方法を提示する。
トピック:トランスレーショナルリサーチ/肺がんおよびその他の胸部腫瘍
多くのがんでは、MET遺伝子のコピー数が増加している。しかし、MET遺伝子コピー数の増加ががん化の原因である場合もあれば、「真の」がん化の原因である他の分子異常に付随してMET遺伝子コピー数増加が生じているだけの場合もある。前者であるか後者であるかによって、クリゾチニブ等のMET阻害薬の効果が左右される。第16回世界肺がん会議(2015年9月6~9日に米国コロラド州デンバーで開催)で発表されたコロラド大学がんセンターの研究は、臨床的に重要な意味をもつMET遺伝子増幅の閾値を決定する最良の方法を明らかにしようとしている。
コロラド大学がんセンター研究員兼コロラド大学医学部胸部腫瘍学主任研究員で、本研究の筆頭著者であるSinead Noonan医師は、次のように述べる。「通常、MET遺伝子コピー数の増加の仕方は二通りあります。MET遺伝子が乗っている染色体つまり7番染色体全体が増幅されて複数コピーが作られる場合と、MET遺伝子領域のみが増幅する場合です。最初のケースでは、MET遺伝子はがんに特異的な遺伝子というわけではなく、7番染色体に一緒に乗って増幅しただけと考えられます。一方、MET遺伝子領域が7番染色体の残りの領域と切り離されて増幅している場合、MET遺伝子はがんにとって特異的に重要な領域でしょう」。
クリゾチニブが有効と予想されるMET遺伝子異常が原因の悪性腫瘍患者グループの特定
本研究の目的は、前述の仮説を裏づけるエビデンスを得ることと、クリゾチニブが効果を示すと予想されるMET遺伝子異常が原因の肺がん患者グループを特定することであった。
この目的を達成するために、Noonan医師は、コロラド大学がんセンターの研究員で、コロラド大学医学部の腫瘍学教授であるMarileila Garcia医学博士と研究に取り組んだ。Garcia医学博士は、1000人以上の肺がん患者の遺伝子検査データを評価した。MET遺伝子コピー数増加の定義として汎用されている「軽度のMET遺伝子増幅でも陽性と判定する基準」を用いて、染色体全体のコピー数増加に伴うものか、染色体上のMET遺伝子領域のみのコピー数の増加かを問わず、MET遺伝子コピー数増加の有無を検討すると、全体の14.4%がMET遺伝子増幅陽性と判定された。
次に研究者らは、(MET遺伝子増幅の判定法として、)MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比を算出するという別の方法を用いた。これにより、染色体全体の増幅程度と比較して、どの程度MET遺伝子領域だけが特異的に増幅されているのかを知ることができる。同じ「軽度のMET遺伝子増幅でも陽性と判定する基準」を用いても、MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比に基づいて判定すると、全体の4.5%のみが陽性と判定された。
ここで1つの問題が生じる。それは、MET遺伝子の増幅ががん化の引き金で、クリゾチニブによるMETタンパク質の阻害に高い感受性を示すと予想される腫瘍、このような腫瘍を有する患者を正確に特定するためのMET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比とは、どのような値か、という問題である。
「1つの腫瘍においてがん化の原因となる遺伝子異常は、ほとんどの場合1つだけです」とNoonan医師は述べる。しかし、MET遺伝子増幅陽性判定の際のMET遺伝子数と7番染色体の比の閾値を最小値にすると、MET遺伝子増幅陽性と判定された腫瘍の47%で、MET遺伝子増幅に加えてもう1つ別の既知のがん化の原因となる遺伝子異常(EGFR、KRAS、BRAF、ALK、ERBB2、RETまたはROS1遺伝子の突然変異または再構成)が存在することになってしまった。
(MET遺伝子増幅陽性の判定基準である)MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比(の閾値を)上げると、がんの原因となる別の変異とMET遺伝子増幅陽性の併存ありと判定される割合は低下した。
MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメアの比を5倍とした場合にのみ、MET遺伝子増幅と他の既知のがんの原因となる異常との重複が認められなかった。汎用されている別の方法、すなわち、MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比に関係なく、MET遺伝子コピー数を数えるだけの方法を用いた場合には、その他の既知のがんの原因となる遺伝子異常との重複を認めないグループを見出だすことができなかった。
「これらのデータにより、MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比は、MET遺伝子コピー数増加が引き金の肺がんを特定するための最良の方法として強く支持されるでしょう」と、コロラド大学がんセンター、Lung Cancer ResearchのJoyce Zeff Chairであり、本研究の統括著者でもあるRoss Camidge医師は述べる。「MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比が最大値となるサンプルはわずか0.34%でしたが、これらの患者さんではクリゾチニブの効果は著しく、その奏効率は70%近くでした。ただ、MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比が小さい場合でも、クリゾチニブが有効であった患者さんはいました。全体として、MET遺伝子コピー数と7番染色体セントロメア数の比に基づいてMET遺伝子コピー数増加と判定されたすべての患者から、その他の既知のドライバーを保有する患者を除外すると、肺がんの中の潜在的なMET感受性サブタイプであり、(MET阻害薬を用いた臨床試験での)今後の検討に適した腺癌の2.4%に相当する患者さんを特定することが可能です」。
製薬会社のPfizer社は、MET遺伝子コピー数増加が原因の肺がんを含め、さまざまながんの原因となる遺伝子異常に対するクリゾチニブの有用性を検討する臨床試験プログラムを実施中である。クリゾチニブは、既にALK遺伝子やROS1遺伝子の再構成が引き金の肺がんに対する有用性が示されている。
「MET遺伝子コピー数増加に基づいて特定される、MET阻害薬に感受性のがん患者、このような患者集団は明らかに存在しています。課題はこのような患者を正しく見つけだすことです。そうすればこのような患者さんには、最良でかつ最適な個別化医療を行うことが可能になります」とNoonan医師は述べる。
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