予後不良の早期肺がん患者を検査で同定できる可能性

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~

原文掲載日 :2015年7月13日

3種類の遺伝子マーカーを組み合わせることにより、初期の肺がん患者のうち、がんの切除手術を行っても再発の可能性が極めて高い患者を特定できる可能性が、米国国立がん研究所(NCI)の研究知見によって明らかになった。

今回の後ろ向き試験では、ステージ1肺がん(腺がん)患者のうち、腫瘍中にこの3種類のマーカーがすべて発現している患者は、そうでない患者に比べ、がんで死亡したり、がんが再発したりする可能性がはるかに高かった。

術後補助化学療法は、ステージ1肺がん患者の生存率を改善する効果が確認されておらず、こうした患者では推奨されないことが多い。しかし、今回の研究によって、3種類の遺伝子マーカーのパネルを用いることで、術後補助化学療法の恩恵を受けられる可能性が最も高い一部の患者を見分けられる可能性が示唆された。

この知見は、6月24日付のJournal of Thoracic Oncology誌で発表された。

ステージ1肺がん患者の場合、腫瘍は肺に限局しており、外科的手術で除去できることが多い。しかし、最大30%の患者で術後にがんが再発しており、再発した患者は5年以内にがんが原因で死亡している。

今回の研究の統括著者で、NCIのがん研究センター(CCR)のCurt Harris医師によれば、再発リスクが高い患者を特定する方法は、現在のところ確立されていない。Harris医師の研究室では、これまでにさまざまなバイオマーカーを特定し、再発患者の同定の研究を進めてきた。今回の研究は、その最新のものである。

Harris医師の説明によれば、研究室での一連の研究は、「さまざまな『オミックス(omics、*ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなどの総称)』を一つのプラットフォームに統合し、ステージ1肺がん患者の診断時に予後を判断する分類の基準を開発することを目的としており、高精度医療(precision medicine)に 関する取り組みの一部」だという。

この最新の研究を行うにあたり、研究者らは、はじめに米国ボルチモア市およびその周辺の病院と、ノルウェー、日本の医療施設で治療を受けたステージ1肺腺がん患者から、腫瘍および腫瘍周辺の肺組織サンプルを採取し、分析を行った。

研究者らは、HOXA9遺伝子内に特異的な後成的変化、つまり塩基配列の変化を伴わないDNAの化学変化を認めた。これは高メチル化と呼ばれる状態で、5年以内の肺がんを原因とした死亡にきわめて強く関連していた。

研究者らは、日本、米国、欧州で、ステージ1肺がん患者のコホートをそれぞれ2つずつ追加し、それらのコホートで個別にHOXA9のメチル化と転帰との関連を明らかにした。これらのコホートで得られたデータは、無再発生存のみであったものの、主著者でCCRのAna Robles博士によれば、ステージ1患者でがんが再発した人は、再発後1年以内に死亡するリスクがきわめて高いという。

Harris医師らの初期の研究において、他にも2種類の遺伝子マーカーが特定されている。microRNA-21の過剰発現および4つの遺伝子(XPO1およびBRCA1、HIF1alpha、DLC1)の発現である。HOXA9のメチル化と同様、これらもまた、それぞれにおいてステージ1肺がん患者の5年生存率の低下との関連がみとめられている。

こうした研究結果を受け、Robles博士らは3種類の遺伝子マーカーを1つの分類基準にまとめ、NCIとノルウェーの混合コホートおよび日本のコホートで、転帰と分類基準との関連を分析した。博士によれば、この分類では、採取した腫瘍サンプルに発現したマーカーの種類数を基にした「簡潔なスコア」が得られるのだという。

博士らは、スコアが高くなるほど、肺がんによる死亡または再発のリスクが高くなることを発見した。

例えば、NCIとノルウェーの混合コホートでは、術後補助化学療法を受けていない患者が5年以内に肺がんで死亡するリスクは、3種類のマーカーがすべて陰性の患者と比較して、陽性の数が1種類の場合は2倍、2種類の場合は5倍、すべて陽性の場合は43倍に上昇した。

Robles博士によれば、ステージ1のがん患者の予後を正確に判断する検査法が確立されれば、重要な臨床的意義をもたらす可能性があるという。このほど、米国公的保険であるメディケア・メディケイド・サービスセンター(Centers for Medicare and Medicaid Services)は、ハイリスク患者の肺がんスクリーニングに、低線量コンピュータ断層撮影法(CT)を追加することを決定しており、すでに運用が進んでいる。結果的に「ステージ1のがんと診断される患者はもっと多くなるだろう」とRobles博士はいう。

Harris医師の研究室では、3種類の遺伝子マーカーを統合し、予測的バリデーション試験に利用可能な検査法の開発が進行中だという。また、将来的に臨床応用が可能な検査法を他にも開発するため、診断薬メーカーとの話し合いも進んでいる。

<画像注釈:遺伝子マーカーパネルにより、予後不良なステージ1肺がん患者の特定が可能となる。これは、こうした患者が術後補助化学療法の利益を得られる可能性を示唆している。>

原文

翻訳担当者 前田愛美 

監修 後藤悌(呼吸器内科/国立がん研究センター)

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