切除可能肺がん(NSCLC)に術前ニボ+イピは、化学療法より良好な長期臨床効果

CheckMate 816試験の結果

無作為化、非盲検、国際共同第3相CheckMate 816試験の探索的解析において、以下の結果が得られた。切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、術前ニボルマブ(販売名:オプジーボ)とイピリムマブ(販売名:ヤーボイ)の併用療法は化学療法と比較して、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)、病理学的完全奏効(pCR)、主要病理学的奏効(MPR)率が数値的に改善され、病理学的奏効の深さがより深かった。術前ニボルマブ+イピリムマブの安全性プロファイルは、これまでの報告と同様であった。
 
しかし、無イベント生存期間(EFS)の早期イベント発生率が高いため、日常診療では術前ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は使用できず、切除可能な非小細胞肺がんの適格患者に対しては、ニボルマブ+化学療法が依然として標準的な術前療法であるとの研究結果を、Mark M. Awad博士(ダナファーバーがん研究所、米国マサチューセッツ州ボストン)らは2025年1月8日付のJCO誌に発表した
 
CheckMate 816試験では、術前ニボルマブ+化学療法は、術前化学療法と比較して、無イベント生存期間((ハザード比[HR] 0.63、97.38%信頼区間[CI] 0.43~0.91、p = 0.005)および病理学的完全奏効(24.0%対2.2%、オッズ比[OR] 13.94、99% CI 3.49~55.75、p < 0.001)において統計的に有意な改善を示した。4年間の追跡調査の結果、術前ニボルマブと化学療法の併用は化学療法単独と比較して、持続的かつ臨床的に意義のある全生存期間(OS)の改善を示した(HR 0.71、98.36% CI 0.47~1.07)。
 
ニボルマブとイピリムマブ併用療法は、非小細胞肺がん(NSCLC)を含む進行がん患者を対象に実施されたいくつかの第3相試験において、長期的かつ持続的な生存率の向上を示した。さらに、第2相NEOSTAR試験では、化学療法併用の有無にかかわらず、術前ニボルマブとイピリムマブ併用が、切除可能なNSCLC患者において有望な結果を示した。
 
JCO誌に掲載された最新論文では、切除可能な非小細胞肺がん患者を対象に実施された第3相CheckMate 816試験から、有効性、手術成績、ctDNA(血中循環腫瘍DNA)レベルや4遺伝子炎症スコアなどのバイオマーカー解析、術前ニボルマブとイピリムマブ併用療法と化学療法との安全性データの比較などが探索的に報告されている。
 
IB-IIIA期(AJCC第7版)の切除可能な非小細胞肺がん成人患者を対象に、ニボルマブを2週間に1回3サイクル+イピリムマブを1サイクル、または化学療法を3サイクル(各3週間サイクルの1日目または1日目と8日目)を行った後、手術を行った。解析には、無イベント生存期間、全生存期間、病理学的奏効、手術成績、バイオマーカー解析、安全性が含まれた。
 
合計113人の患者が術前ニボルマブ+イピリムマブ併用療法に、108人が化学療法に無作為に割り付けられた。追跡期間中央値49.2カ月の時点で、無イベント生存期間中央値は術前ニボルマブ+イピリムマブ群で54.8カ月(95% CI 24.4~未到達[NR])、化学療法群で20.9カ月(95% CI 14.2~未到達[NR])であった(HR 0.77、95% CI 0.51~1.15)。3年無イベント生存率は56%対44%であった。
 
当初は無イベント生存期間のイベント発生率が高かったが、後に術前ニボルマブ+イピリムマブ併用が有利となった。3年生存率はニボルマブ+イピリムマブ群で73%であったのに対して化学療法群で61%(HR 0.73、95% CI 0.47~1.14)、病理学的完全奏効率はそれぞれ20.4%対4.6%であった。各群で、83人(74%)と82人(76%)の患者が根治手術を受けた。グレード3~4の治療関連有害事象は、ニボルマブ+イピリムマブ群で14%、化学療法群で36%に発生した。
 
ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性と安全性のデータは、本試験で観察された手術成績と比較検討されるべきである。手術を妨げる病勢進行率は、ニボルマブとイピリムマブ群では化学療法群と比較して数値的に高く、抗PD-(L)1薬と化学療法とのこれまでの報告と比較しても高かったが、試験間の比較は慎重に行う必要がある。
 
注目すべきは、ニボルマブ+イピリムマブ群で手術がキャンセルされた患者29人中18人(62%)に病勢進行がみられたのに対し、化学療法群では21人中9人(43%)であったことである。しかし、化学療法群における手術キャンセルは、多くが病勢進行以外の理由によるものであった。
 
手術を受けた患者では、完全切除(R0)率はニボルマブ+イピリムマブ併用群(80%)の方が化学療法群(71%)よりも高く、手術後の再発率も低く(23%対44%)、中枢神経系での遠隔再発も2%対13%であった。
 
したがって、ニボルマブとイピリムマブの併用療法において重要なことは、最適な結果を得るためには外科的切除が必要であるため、当初切除可能であった病変を有する患者の場合、手術を妨げる可能性のある病勢進行のリスクを最小限に抑えることである。
 
ニボルマブとイピリムマブの併用療法では、病理学的完全奏効と無イベント生存期間延長との関連が観察された。これは、切除可能な非小細胞肺がん患者に対する他の免疫療法ベースのレジメンで以前に報告された結果と一致しており、術前療法を受けている患者における生存利益の新たな代替指標として病理学的反応が注目されていることを裏付けている。
 
CheckMate 816試験では、評価可能なctDNA(血中循環腫瘍DNA)値を示した患者は、ニボルマブ+イピリムマブ群で32%、化学療法群では28%であった。両群とも術前療法後にctDNA値は低下したが、ctDNAクリアランス(循環腫瘍DNAがリキッドバイオプシーで検出されない状態)の割合はニボルマブ+イピリムマブ併用療法が化学療法より低いという驚くべき結果であった。対照的に、抗PD-(L)1薬と化学療法を併用した治療レジメンでは、術前および周術期の研究において、化学療法単独より高いctDNAクリアランスを示している。
 
これらの知見から、切除可能な非小細胞肺がん患者のほとんどにおいて、ctDNAクリアランスを誘導するには化学療法が必要であり、抗PD-(L)1抗体薬が一旦誘導されたctDNAクリアランスを増強することが示唆される。しかし、CheckMate 816試験ではctDNAレベルは術前療法の段階でのみ評価された。術前免疫療法の有益性の予測因子としてのctDNA値の役割を十分に理解するためには、長期的な臨床研究が必要である。
 
CheckMate 816試験でニボルマブとイピリムマブ併用療法を受けた患者において、ベースラインの4遺伝子炎症スコア(腫瘍微小環境における炎症表現型を示す)が高いほど、ベースラインの炎症シグネチャースコアが低い患者と比較して、病理学的完全奏効(pCR)および主要病理学的奏効(MPR)の割合が高く、無イベント生存期間(EFS)の改善と関連していた。これらの結果は進行がんの臨床研究と一致しており、ベースラインの4遺伝子炎症シグネチャースコアが高いほど、ベースラインのスコアが低い場合と比較して、奏効率/生存率が改善する傾向があることが示された。対照的に、化学療法を受けた患者では、ベースラインの4遺伝子炎症スコアとEFSとの間に関連はみられなかった。pCRまたはMPRの患者数が少なすぎたため解釈ができなかった。
 
報告された探索的解析は、CheckMate 816におけるニボルマブ+イピリムマブ群から得られたものであり、ニボルマブ+化学療法群または化学療法群のいずれとも比較するための検出力はなかった。一部の解析では対象とする患者数が少ないため、結果の解釈には注意が必要である。
 
これらの限界はあるものの、本試験は大規模コホート(患者群)において術前ニボルマブ+イピリムマブ併用療法と化学療法を比較評価した最初のランダム化第3相試験である。この報告では、術前ニボルマブとイピリムマブの併用で早期の腫瘍進行率が高く、高い病理学的完全奏効(pCR)率、低グレード3/4の治療関連有害事象、長期的な臨床的有用性のエビデンスなど、術前免疫チェックポイント阻害薬による治療の複雑さを浮き彫りにしている。
 
本試験は欧州臨床腫瘍学会(ESMO2023)で一部発表されている。

本試験は、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社および小野薬品工業株式会社より助成を受けた。
 
参考文献
Awad MM, Forde PM, Girard N, et al. Neoadjuvant Nivolumab Plus Ipilimumab Versus Chemotherapy in Resectable Lung Cancer. JCO; Published online 8 January 2025. DOI: https://doi.org/10.1200/JCO-24-02

  • 監修 高濱隆幸(腫瘍内科・呼吸器内科/近畿大学病院 ゲノム医療センター)
  • 記事担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2025/02/24

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