進行/転移性肺がん(NSCLC)におけるダトポタマブ デルクステカンの有効性と安全性

TROPION-Lung05研究の結果

国際共同第2相単群非盲検TROPION-Lung05試験において、TROP2を標的とする新規の抗体薬物複合体ダトポタマブ デルクステカン(販売名:ダトロウェイ)は、EGFR変異およびALK再構成を伴う2つの主要なサブグループを含む、標的治療に適合可能な遺伝子変異を有し、複数の治療歴のある進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、有望な客観的奏効率(ORR)、持続的な奏効、許容可能な安全性プロファイルを示した。
 
これらの結果は、治療歴のある進行/転移性NSCLC患者を対象にダトポタマブ デルクステカンとドセタキセルを比較した重要なTROPION-Lung01試験の最近の知見を裏付けるものであった。同試験では、標的治療に適合可能な遺伝子変異の有無にかかわらず、非扁平上皮NSCLC患者に臨床的に意義のあるベネフィットが示された。TROPION-Lung05試験の知見は、米国マサチューセッツ州ボストンのダナファーバーがん研究所のJacob Sands医師らによって2025年1月6日にJCO誌に発表された。
 
標的治療に適合可能な遺伝子変異を伴うNSCLCに対する一次および二次治療法は、主にチロシンキナーゼ阻害剤による標的治療である。標的治療は従来の化学療法と比較して治療成績が大幅に改善されているが、最終的には耐性が生じ、その後の治療選択肢は限られている。
 
TROP2は、非小細胞肺がん(NSCLC)を含むさまざまな腫瘍型で広く発現している。ヒトに初めて投与するTROPION-PanTumor01試験では、標的治療に適合可能な遺伝子変異のある患者を含むNSCLC患者においてダトポタマブ デルクステカンには有望な有効性と管理可能な安全性があることが示された。JCO誌に掲載された最新の論文では、第2相TROPION-Lung05試験に登録され、治療歴があり、進行/転移性NSCLCで標的治療に適合可能な遺伝子変異を有し、標的療法およびプラチナベースの化学療法中または治療後に進行した患者におけるダトポタマブ デルクステカンの有効性と安全性について研究者らが述べている
 
患者に対し、ダトポタマブ デルクステカン6 mg/kgを3週間に1回投与した。主要評価項目は、盲検独立中央判定による客観的奏効率であった。副次評価項目は、奏効期間(DoR)、安全性、忍容性、および生存期間であった。ダトポタマブ デルクステカンを少なくとも1回投与された患者137人のうち、71.5%が進行/転移性疾患に対して3次治療以上の前治療を受けていた。全体で、56.9%にEGFR変異があり、24.8%にALK再構成があった。治療期間の中央値は4.4カ月(範囲、0.7~20.6)であった。
 
確定された客観的奏効率は全体で35.8%(95%信頼区間[CI]27.8~44.4)、EGFR変異およびALK再構成を有する患者ではそれぞれ43.6%(95% CI 32.4~55.3)および23.5%(95% CI 10.7~41.2)であった。DoRの中央値は7.0カ月(95% CI 4.2~9.8)、全体の病勢制御率は78.8%(95% CI 71.0~85.3)であった。無増悪生存期間の中央値は5.4カ月、全生存期間の中央値は13.6カ月であった。
 
ダトポタマブ デルクステカンは、非小細胞肺がん(NSCLC)患者で以前に報告されたデータと一致して、管理可能な安全性プロファイルを示し、新たな安全性シグナルは確認されなかった。グレード3以上の治療関連有害事象(TRAE)は、患者の28.5%に発生した。特に多くみられたTRAEは口内炎(あらゆるグレードが56.2%、グレード3以上9.5%)であった。患者5人(3.6%)が、治療関連と判定された間質性肺疾患/肺臓炎を発症し、そのうち1件(0.7%)がグレード5であった。
 
これらの結果は、この新しいTROP2を標的とした抗体薬物複合体が、予後不良で有効な治療法がない治療困難な患者集団に臨床的に意味のあるベネフィットをもたらす可能性があることを示唆している。現在、トラスツズマブ デルクステカンは、活性化HER2変異を持つ患者に適応される、非小細胞肺がん(NSCLC)で承認されている唯一の抗体薬物複合体である。他のいくつかの抗体薬物複合体が臨床試験中である。
 
サシツズマブ ゴビテカン(販売名:トロデルビ)とSKB-264は、TROP2を標的としたその他の抗体薬物複合体であり、現在、標的治療に適合可能な遺伝子変異の有無を問わず、NSCLC患者を対象に評価されている。Patritumab deruxtecan(パトリツマブ デルクステカン)は、 EGFR変異NSCLC患者を対象に研究されているHER3を標的とした抗体薬物複合体である。さらに、EGFR × HER3二重特異性抗体薬物複合体 BL-B01D1は、EGFR変異NSCLC患者を含む局所進行/転移性腫瘍を対象に第1相試験で検討されている。
 
TROPION-Lung05試験の結果は、以前ESMO 2023会議で発表された。
 
この研究は第一三共株式会社の支援を受けている。2020年7月、AstraZeneca社は第一三共株式会社とダトポタマブ デルクステカンの世界的な開発および商業化に関する協力契約を締結した。

参考文献
Sands J, Ahn M-J, Lisberg A, et al. Datopotamab Deruxtecan in Advanced or Metastatic Non–Small Cell Lung Cancer With Actionable Genomic Alterations: Results From the Phase II TROPION-Lung05 StudyJCO; Published online 6 January 2025. DOI: https://doi.org/10.1200/JCO-24-01349

  • 監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)
  • 記事担当者 仲里芳子
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  • 原文掲載日 2025/01/27

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