医療従事者への共感研修で肺がんへの偏見をなくす

喫煙歴のある人が肺がんと診断されると、この病気にしばしば関連するスティグマ(偏見、差別)のために、罪悪感や羞恥心を抱くことがあります。このスティグマによって、患者と医療従事者の間の率直な会話が妨げられたり、患者が禁煙カウンセリングを利用する妨げとなる可能性があります。スローンケタリング記念がんセンターの研究者は、医療従事者が肺がんに伴うスティグマをなくすようにする研修プログラムを開発しました。本インタビューでは、この試験を主導したSmita Banerjee博士(行動科学者)とJamie Ostroff博士(心理学者)が、肺がん患者へのスティグマの影響と、この研修プログラムを評価するNCI支援の臨床試験について語ります。

まず、スティグマとはどういう意味なのでしょうか?

Banerjee博士: スティグマの古典的定義は、個人を他者から区別する不名誉の烙印です。私たちの研究ではスティグマを、肺がん患者が肺がんの診断をきっかけとして心の内に秘める、他者からの否定的な評価と定義しています。

肺がん患者がスティグマを経験する頻度はどのくらいですか? 

Ostroff博士: 調査によると、肺がん患者のほぼ全員が医師や知人からのスティグマを感じたと答えています。また、肺がん患者のほぼ半数が、通常の喫煙歴評価の際など、医療機関受診中にスティグマを経験したと答えています。 

Banerjee博士: こうした会話の間、患者は、自分がとった特定の行動のせいで、家族にがん介護という経験をさせてしまっていることに、すでに罪悪感を抱いているかもしれません。医療従事者は、患者を傷つける意図はないとしても、「20年間もタバコを吸っていたなんて!わかっていたことでしょう?」「自分で招いた結果だ」などと言って、患者の羞恥心や罪悪感を増幅させてしまうことがあります。表情さえも、否定的なメッセージを伝えることがあります。 

スティグマが原因と考えられる害にはどのようなものがありますか? 

Ostroff博士: 研究によると、スティグマが原因となって肺がん患者がうつ病に陥ったり、友人や家族から遠ざかったり、禁煙の支援を拒否したりすることもあります。また、喫煙について説教されたくないという理由で、友人や家族に診断結果を知らせるのをためらう人もいます。これは残念なことです。なぜなら、肺がんの診断結果を周りの人に知らせなければ、社会的支援を受けられない可能性があるからです。社会的支援は、がんと診断されたすべての患者にとって非常に重要であることがわかっています。

肺がんスティグマが招く予想外の結果もありますか?

Ostroff博士: 肺がん治療の加速的進歩に伴い、肺がん患者支援グループが拡大しています。多くの場合、こうした支援者はタバコ依存に悩まされたことのない人々です。スティグマのせいで喫煙者や喫煙経験者を「よそ者」扱いすることになり、支援者コミュニティを分断しているように思います。

医療従事者向けの肺がん研修を開発しようと思ったきっかけは何ですか? 

Banerjee博士: 喫煙は、肺がんとそれ以外の13種類のがん、そして数え切れないほどの慢性疾患の予防可能な原因の第1位であることがわかっています。支援者たちは、ニコチン依存症やタバコ依存症に苦しむ人々に対して思いやり、敬意、支援を示しつつ喫煙を減らすことの重要性を伝えるよう私たちに強く求めてきました。私たちは、この研究課題に気づかせてくれた支援者たちに感謝しています。

今回の試験について教えていただけますか? 

Ostroff博士: 私たちの先行研究を基に、この研修では、医療従事者がスティグマとなるような言葉を使わずに喫煙歴のある人と効果的にコミュニケーションをとるための方策を提供します。全国16カ所で、私たちが「共感的コミュニケーションスキル」研修と呼んでいるものをランダム化試験で検証します。

研修は仮想体験で行われます。参加者は、患者・介護者の役を演じる俳優を含む小グループでスキルを練習できます。熟練ファシリテーターが、状況に応じたフィードバックを提供します。医療従事者の共感的なコミュニケーションには、患者の視点を理解していることを伝えることが含まれます。これは、自分の気持ちを表現するよう相手を励ますと同時に、相手の気持ちを認め、承認することにもなります。

Banerjee博士: ロールプレイは、客観的臨床能力試験 (Observed Structured Clinical Examination: OSCE) と呼ばれる医学教育の中の標準内容を思い起こさせます。OSCEは、模擬医療環境で学生の臨床能力を評価する方法です。私たちが強調したい重要ポイントは、私たちが提供するのは医療従事者向けの台本ではなく、患者と関わるための青写真であり、自分と患者にとって効果的なアプローチを作り出せるかどうかは本人次第ということです。

試験の成功はどうやって評価しますか?

Ostroff博士: 私たちは、共感的コミュニケーションスキル研修が医療従事者のコミュニケーションスキルと共感スキルの習得に及ぼす影響を評価することで、この試験の成功を立証します。また、肺がんスティグマの認識や治療に対する満足度についての患者の反応も調べます。

Banerjee博士: 私たちの仮説は、共感的コミュニケーションスキル研修を受けた臨床医は、患者とよりうまく関われるようになる、例えば喫煙歴について尋ねる場合に患者が禁煙プログラムに参加する可能性が高まるような尋ね方ができるというものです。臨床医は多忙です。彼らには、喫煙歴聞き取りの最良実施例に関するエビデンスに基づくガイダンスが必要であり、私たちの研修がそのニーズを満たすのに役立つことを願っています。

喫煙歴のある肺がん患者と医療従事者とのコミュニケーションについて、覚えておくべきメッセージはありますか? 

Banerjee博士: この試験は、肺がんに関する対話を変えるための国内および国際的な運動の一環です。言葉が重要であることはわかっています。言葉は患者にとって重要です。医療相談室にスティグマが入り込むと、推奨されるがん治療を医療従事者が提供できなくなる可能性があります。 

Ostroff博士: 喫煙歴の聞き取りは、痛みを伴う医療手順である必要はまったくありません。所定のコミュニケーションスキルを習得することで、聞き取り体験が改善され、最終的には人々の健康増進につながると私たちは考えています。 

  • 監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2025/01/15

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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