肺癌患者に対する化学療法の個別化医療ー2つの最新研究による新たな第2相試験データ
有望な予測的バイオマーカーとしてチミジル酸シンターゼを用いた研究と、葉酸受容体を標的とする薬剤の研究についての報告
DNA合成に関連する酵素発現量を測定することで、特定の治療への肺癌の反応を予測できるという韓国の研究結果が、マドリードで開催された2014年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表された。
ランダム化第2相試験で、チミジル酸シンターゼといわれる酵素が腫瘍に低レベルで発現した肺癌患者は、高レベルで発現した患者よりも、ペメトレキセドとシスプラチンの併用療法によって大きなベネフィットが得られたことを研究者は示した。
「チミジル酸シンターゼは、非扁平非小細胞肺癌(NSCLC)の治療で最も広く使われている化学療法であるペメトレキセドが標的とするタンパク質の1つです」と研究著者で韓国のサムソンメディカルセンター成均館大学校医科大学血液腫瘍科のMyung-Ju Ahn教授は説明する。
「本研究では、非扁平NSCLC患者を対象とし、チミジル酸シンターゼの発現が予測因子になるかどうかを、ペメトレキセド+シスプラチンの併用療法とゲムシタビン+シスプラチンの併用療法を比較して評価しました」。
奏効率と無増悪生存期間では、他の治療法と比べてペメトレキセド併用療法の臨床的なベネフィットが、チミジル酸シンターゼ分子の発現が低レベルの患者で顕著であったとAhn氏は述べた。
「これはチミジル酸シンターゼを予測的バイオマーカーとして使用できることを示唆しています。また、チミジル酸シンターゼの低レベルの発現は、患者が受けた化学療法の種類とは関係なく、全生存期間の延長と関連することもわかっており、チミジル酸シンターゼの発現が予後バイオマーカーとしての役割も果たすことを示唆しています」。
本研究では、腫瘍細胞の10%超がチミジル酸シンターゼを発現している患者を「TS陽性」、発現が10%以下の患者を「TS陰性」と分類した。315人のうち、ペメトレキセド併用療法およびゲムシタビン併用療法の奏効率はTS陰性患者でそれぞれ47.0%と21.1%、TS陽性患者では40.3%と39.2%であった。ペメトレキセド併用療法およびゲムシタビン併用療法での無増悪生存期間中央値は、TS陰性群でそれぞれ6.4カ月と5.5カ月、TS陽性群で5.9カ月と5.3カ月であった。
ペメトレキセド併用療法およびゲムシタビン併用療法での全生存期間中央値は、TS陽性群とTS陰性群間で大差はなかったが、TS陰性患者は生存期間が長い傾向にあった。
重要であるのは、チミジル酸シンターゼはこの設定下では有効なバイオマーカーであるこということであるとAhn氏は述べる。
「非扁平NSCLCでは、チミジル酸シンターゼ陰性患者はペメトレキセド/シスプラチン併用療法のより大きな臨床的ベネフィットを得ています。さらに、本研究の多変量解析では、TS発現陰性は、若年齢およびEGFR変異と同様に、生存期間延長と有意に関連していると示されており、TS発現陰性が、良好な独立した予後マーカーであることを示唆しています」。
「本研究は、進行性NSCLCでのチミジル酸シンターゼ(TS)による個別化化学療法への道を開きました」とスペインCatalan Institute of Oncology のCancer Biology and Precision Medicine Program責任者Rafael Rosell博士は述べた。
「彼らは非扁平NSCLC患者に研究の焦点を当て、TS低発現患者は、ペメトレキセドまたはゲムシタビンのいずれもシスプラチンとの併用で、奏効率および転帰が有意に良好であると示しています」。
「TSの過剰発現は癌遺伝子として働くため、TSは代謝拮抗薬への反応の予測マーカーであるだけでなく予後マーカーでもあります」とRosell氏は述べた。「そのため、総合的バイオマーカーとしてのTSの使用が化学療法の転帰予測とどのように関連するかを検討することは興味深いです。マスター癌遺伝子である星状膠細胞増加遺伝子-1(AEG-1)がTSの発現を直接増加させる転写因子LSF(後期SV40因子)を誘発することがわかっているため、TSの発現増加のメカニズムについてさらなる洞察を得ることは非常に重要でしょう(Cancer Res 2009; 69:8529)」。
葉酸標的薬剤のベネフィットを得る肺癌患者の特定がスキャンで可能
腫瘍細胞の葉酸受容体発現を測定する非侵襲的な方法で、試験薬vintafolideを用いた併用化学療法のベネフィットを得られる可能性の高い進行性肺癌患者を特定できるとESMO2014で報告されている。
会議では、ロンドンのGuy’s & St Thomas’ NHS財団の腫瘍内科医Rohit Lal医師が第2相TARGET試験の結果を報告した。同試験は他の薬剤での治療歴があり、腫瘍がすべて葉酸受容体を発現している199人の非小細胞肺癌患者を対象とした。
葉酸および葉酸塩はDNAとRNAの合成に重要であり、葉酸経路および葉酸受容体の異常は肺癌などの多くの癌に関連しているとLal氏は説明する。
Vintafolideは葉酸受容体を標的とする薬剤で、腫瘍の葉酸受容体発現の非侵襲的な画像診断を可能にする造影剤とともに開発されている。
「私たちの研究結果では、葉酸受容体に対するイメージングバイオマーカーで選択した進行性肺腺癌患者をvintafolideおよびドセタキセルで治療したとき、全生存期間の統計的な改善と有望な無増悪生存シグナルが示されています。これらの患者は、放射線による疾患制御率も高いことが認められました。Vintafolide併用療法を受けた患者は、より用量調整を必要としました。この結果は第3相試験での確認が必要です」とLal氏は述べた。
「この第2相試験で、vintafolide併用療法を受けた肺腺癌患者では、ドセタキセル群の患者に比べて肺腺癌による死亡率が半減しました。これらの結果は第3相試験で検証する必要があります」とLal氏は述べた。
「腫瘍生検に基づく治療の選択は定着しています。進行性肺腺癌患者の二次治療に対する前向きな結果が示され、スキャンを使用することで、併用化学療法のベネフィットを得ることができる進行期の肺癌患者を選択できるとTARGET試験の結果で示唆されています」。
「この患者群では、非侵襲的な方法を用いて非小細胞肺癌細胞の葉酸受容体発現を検出する画期的な研究結果と、葉酸受容体を標的とするvintafolideによる治療との関連性が報告されています」とRosell氏は述べた。「予備結果は有望であり、vintafolideとドセタキセルの併用療法が、葉酸受容体に対するイメージングトレーサーによって選択した進行性肺腺癌患者で有効であることを示しています」。
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