肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究

ASCOの見解

「過去15年間にわたり、ミシシッピ・デルタ中心部における質改善の取り組みは、この高リスク集団の肺がん転帰の現状変革に向けて着実に進歩を遂げてきました。彼らの一貫した努力により、術後120日死亡率は半減し、3年および5年全生存率も改善しました」。
Fumiko Chino医師(MDアンダーソンがんセンター放射線腫瘍医)

試験要旨

目的手術で治療可能な肺がん 
対象者ミシシッピ・デルタ地域の病院で行われた7,240件の肺がん手術
結果肺がん手術と腫瘍病理診断の質向上によって、手術後の患者の生存率が上昇した。
意義・手術で治療できる肺がんは、この病気の中でもっとも治癒の可能性が高い病態である。しかし、かつては診断後5年以上生存した患者は半数以下であった。
・ミシシッピ、アーカンソー、テネシーを含む、米国のミシシッピ・デルタ地域は、米国の他の地域よりも肺がんの発生率が高く、死亡率も高い。

新たな研究により、外科的および病理学的手技を改善することで、肺がん高リスク患者集団の全生存を改善できることが示された。これらの知見は、2024年9月27日から28日までカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)クオリティ・ケア・シンポジウムで発表された。 

研究について

ミシシッピ・デルタ地域の特定集団における肺がん手術のほとんどすべてをカバーする14の病院において、研究者らは手術の質とリンパ節検査を改善するために、4期にわたって2つの介入を実施した:
 
・リンパ節標本採取キット。このキットは、手術中に肺門リンパ節と特定の縦隔リンパ節を採取するよう外科医に注意喚起しするとともに、採取したリンパ節について病理チームへの連絡と輸送を標準化するのに役立った。肺門リンパ節と縦隔リンパ節は肺がんの病期分類において重要な役割を果たし、これらを調べることは手術後の治療指針に役立つ。

・新たな肉眼的解剖プロトコル。このプロトコルは、病理チームが肺標本から肺内リンパ節をより多く採取し、検査するのに役立った。これらのリンパ節を調べることは、手術後の病期分類や治療指針に役立つ。

第1期間(2004年から2008年)は、介入を行わずベースラインデータを収集した。第2期間(2009年~2013年)には、継続的な質のフィードバックとモニタリングを導入し、リンパ節標本採取キットの導入を開始した。第3期間(2014年から2018年)では、毎年5件以上の肺がん手術実績のあった地域内すべての病院でリンパ節標本採取キットが導入された。第4期(2019年から2023年)には、肉眼的解剖プロトコルが実施された。

主な知見

  • 上記4期間中、参加病院で7,240件の肺がん手術が行われた。各期間ごとに、完全切除(厳格な定義による)の数は第1期間の0%から、第2~4期間でそれぞれ9%、21%、32%に増加した。
  • 手術の質は、American College of Surgeons Operative Standard(米国外科学会手術基準)5.8に則して判定した。この基準を満たした手術の数は、各期間を通じて増加した(第1期の4%から、それぞれ24%、50%、67%)。
  • 術後120日(約4カ月)以内に死亡した患者の数も減少し、第1期の10%から第4期では4%まで低下した。
     (※サイト注:日本の治療成績については、ページ下「監修者注」参照)
  • 第1期から第4期までの3年全生存率はそれぞれ60%、64%、70%、79%、5年全生存率はそれぞれ48%、52%、58%、70%であった。
  • 介入は患者の死亡リスクも経時的に低下させた。ベースライン時期と比較すると、死亡率は2013年までに9%低下し、2023年までに51%低下した。
  • 手術の質の向上と病理学的実践は、手術中や手術後のケアの合理化など、医師による肺がん患者ケアの改善に役立った。


「今回の知見は、肺がん患者における手術成績が年月の経過とともに劇的に改善される可能性を示すものとして重要です。本研究でみられた改善はおそらく多因子によるものですが、中でも最も強力な要因は、治療の質の改善に関連しています。われわれが行っている具体的な質改善取り組みの普及が患者の転帰改善に及ぼす影響に着目し、肺がん患者への外科治療の集団レベルでの質と転帰について期待を新たにしました」と、本研究筆頭著者であるOlawale Akinbobola氏(公衆衛生学修士、研究員、アナリスト。テネシー州メンフィス、バプティストがんセンター胸部腫瘍研究部門)は、述べた。

次のステップ

研究者たちは、今回の生存改善に関与する生物学的因子と、術前・術後の追加治療が有効と思われる患者を決定する方法を研究する予定である。

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)から資金提供を受けた。

監修者注: 我が国での肺がん手術の水準は高く、本記事に記載のリンパ節検査等は一般的に行われています。また、肺がん手術後の合併症などによる死亡率も本記事の4%(10%から改善)よりはるかに低く、1%未満です。)

  • 監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)
  • 記事担当者 山田登志子
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2024/09/23

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