Lung-MAP開始: NCI臨床試験ネットワークを利用した初の高精度臨床試験
米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース
原文掲載日 :2014年6月16日
米国国立衛生研究所(NIH)傘下の米国国立癌研究所(NCI)、SWOG Cancer Research、Friends of Cancer Research、NIH財団(the Foundation for the National Institutes of Health, FNIH)、製薬会社5社(アムジェン、Genentech社、ファイザー、アストラゼネカと同社の国際的バイオ医薬品研究開発部門であるMedImmune社)およびFoundation Medicineは、画期的な肺癌統一プロトコル(Lung Cancer Master Protocol, Lung-MAP)を用いた官民共同の臨床試験を開始すると本日発表した。
Lung-MAP試験は、進行肺扁平上皮癌患者を対象にした、多剤、多群、バイオマーカーを用いて選択する臨床試験である。扁平上皮癌は肺癌全体の約1/4を占めるが、手術を超える治療選択肢はほとんどないのが現状である。試験では遺伝子プロファイリングを利用し、癌増殖に関与する遺伝子変異を標的とする数種類の試験治療薬の1つと患者をマッチングさせる。臨床試験に対するこのような革新的手法は、患者にとって有望な薬剤を利用しやすくすると共に従来の臨床試験での患者募集やインフラの面における研究者の負担を軽減することになる。
「こうした広範な共同研究と主要な肺癌アドボカシー組織からの支援により、患者、医師、製薬会社、そして規制当局のニーズすべてが考慮され、試験デザインと遂行に反映されます」と、Ellen Sigal博士(Friends of Cancer Research設立者兼代表)は語った。
本試験は開始時点で5種類の試験薬(標的治療薬4種、抗PD-L1免疫治療薬1種)を検討する。予定では、毎年500〜1000人の患者を対象に200以上ある癌関連遺伝子変異のスクリーニングを行う。スクリーニング結果により各患者は癌の遺伝子プロファイルに最も適した試験群へと割り当てられる。
「Lung-MAP試験は、NCIが新たに構築したNCI臨床試験ネットワーク(National Clinical Trials Network, NCTN)を利用し、遺伝子を用いて選択する大規模試験の中で、最初に行われるものです」と、Jeff Abrams医師(NCI癌治療評価プログラム副ディレクター)は語った。「NCIの大規模治療試験プログラムの統合と再編の結果、NCTNが構築されたのが非常によいタイミングです。NCTNのおかげで、より正確な分子診断から得られる恩恵を地域の大小に関わらず患者に与えられる理想的な機会を提供できるからです」。
「扁平上皮肺癌は他のさまざまな悪性新生物と同様、比較的稀な遺伝子の一群(サブセット)を持つ細胞からなるという認識が高まっており、サブセットごとに異なる標的治療薬による治療が必要になるのです」と、Charles Blanke博士(SWOG Cancer Research代表)は語った。「Lung-MAP S1400試験は、ひとつのマスタープロトコルのもとでこうした稀な扁平上皮癌サブセットの大規模研究を効率的に行う方法のモデルになります」。
Lung-MAP試験の目標は、患者と製薬会社の双方のニーズをより効率的に満たす臨床試験モデルの確立である。従来の標的治療の臨床試験では各患者に対して1つのバイオマーカーの有無を検査し、組み入れはごく一部の患者(きわめて少人数の場合もある)のみだが、Lung-MAP試験では、特定の塩基置換、小規模な挿入または欠失、遺伝子融合、および遺伝子増幅などさまざまなバイオマーカーの検査を同時に患者に行い、数種類の被験薬への適合性を評価する。検査を受けた患者は全員Lung-MAP試験で扱う5つの試験群のいずれかに組み入れられる。
「従来の臨床試験は患者募集とインフラの面で研究者と患者に対してずっと多大な負担を強いてきました。その上、腹立たしいくらい結果が出るのが遅いのです。」と、Maria Freire博士(FNIH理事長兼総括責任者)は語った。「こうした統一プロトコルを使用することで、一度の検査で複数の選択肢を検討し、最も治療効果が高いと思われる治療群に割り当てることができます。大半の患者が適合しない試験ごとに個別の検査を行うのではありません。この方略はバイオマーカーの意義を検証し、ひとつのインフラでの医薬品開発を促進し、より迅速に、より安全でより効果的な治療を患者に提供できます」。
Lung-MAPは患者と研究者のマッチングも容易にする。また従来の臨床試験モデルより柔軟な対応が可能となる。従来の臨床試験では新しい被験薬ごとにプロトコルを作成する必要があった。だがLung-MAPを用いた試験では、薬剤の登録や終了に応じて修正が可能な単一の「マスタープロトコル」を利用し、インフラと患者募集に必要な労力の節約につながる。
試験はSWOG主導のもとNCTNを通じて200を超える医療機関で行われ、資金の一部はNCIから癌治療評価プログラムを通じて提供される。FNIH管理のもと参加企業より多額の資金がパートナーシップの一環として提供され、また米国食品医薬品局(FDA)、Friends of Cancer Researchをはじめとする患者アドボカシー組織も関与する。インフラでは今後5年間であと5~7種類の薬剤の試験が可能であり、予算は1億6000万ドルに達する見通しである。
Vincent Miller医師(Foundation Medicine最高医務責任者)は、「肺扁平上皮癌は致死率の高い癌であり、他の一般的な固形腫瘍と同様、たとえいくつかの遺伝子を解析しても、標的治療を受ける患者の抗腫瘍評価において高い有効性を示唆する患者群を同定できるような特徴ある癌遺伝子変異を見いだすことは困難です。逆に、多数の遺伝子は1クラス以上のDNA変化によって変異し、どの患者でも予測できないような形で同時に変異が発生することがよくあるのです。FoundationOneの包括的で広範囲な検査手法によって、これまでにない多岐にわたる効果予測バイオマーカーの信頼ある結果を臨床的に適切な期間内に提供することができ、明確な治療標的と共に、関心のある多くの製薬会社を引きつけることになるのです」と語った。
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
肺がんに関連する記事
STK11/KEAP1変異肺がんに免疫療法薬2剤+化学療法が有効
2024年11月18日
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、腫瘍抑制遺伝子であるSTK11/KEAP1に...
先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる
2024年11月7日
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)
2024年10月17日
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長
2024年10月16日