新たなTIL免疫療法薬リフィリューセルが進行肺がんに有望

オハイオ州立大学総合がんセンター・アーサーG・ジェームズがん病院・リチャードJ・ソロブ研究所(OSUCCC – James)の研究者らは、第2相多施設臨床試験の結果を発表した。それによれば、以前に他の治療法を受けたが、それに対する耐性が生じたステージ4肺がん患者に対して、新しいタイプの細胞療法が有望な治療選択肢となる可能性があるとのことである。

肺がんを対象としたリフィリューセル[lifileucel]の初の国際共同第2相臨床試験において、腫瘍医らは、このアプローチが転移を伴う非小細胞肺がん(肺がんの中で最も一般的なタイプ)の治療として安全かつ有効であることを示した。リフィリューセルは、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法として知られる細胞療法の一種で、患者のリンパ球を使ってがんと闘う。第2相臨床試験の結果はCancer Discovery誌に掲載された。

肺がんは米国ではがん死因の1位であり、がん死亡者の5人に1人を占める。米国がん協会によれば、2024年には12万5千人以上が肺がんで死亡し、肺がんと診断される人はその2倍近くになると推定される。がんが他の臓器に転移した進行期の患者には、免疫チェックポイント阻害薬(免疫系ががん細胞と闘うのを阻止する特定のタンパク質をブロックする薬)による治療が一般的である。

OSUCCC-James胸部腫瘍医であり、本研究の筆頭著者であるKai He医師(細胞療法プログラムおよびペロトニア免疫腫瘍学研究所で固形腫瘍の細胞療法を担当)は、「このような患者、特にステージ4または転移を伴うがんの患者のほとんどは、いずれは免疫チェックポイント阻害薬に対して耐性が生じてしまいます」と言う。「こうなると治療の選択肢は限られ、生存期間を延長して生活の質を維持するためには、新たな免疫療法を開発することが極めて重要です。リフィリューセルはその方向への一歩です」。

2024年2月、FDAはリフィリューセルを皮膚がん(メラノーマ)の治療薬として初めて承認した。今回の研究は、この治療法を肺がんに用いる最初の国際的第2相臨床試験であり、米国と欧州の多くの病院で患者が参加している。その後、子宮頸がんや頭頸部がんに対しても抗腫瘍活性が示されている。

この細胞療法の仕組み

リフィリューセルは、がん患者のT細胞(免疫細胞の一種)を手術によって腫瘍から取り出して使用する。T細胞は研究室に送られ、そこで培養され、がん細胞を攻撃する強力な細胞となる。大量の新細胞を注入する前に患者に化学療法薬を投与して、体内の機能していないT細胞を死滅させる。患者にはサイトカイン(免疫系を制御するタンパク質)も投与して、新たなT細胞の注入後の抗腫瘍能力を高める。

「これは、患者自身の免疫細胞の集団を使って自分のがんを攻撃するというユニークな治療法です」と話すHe医師は、OSUCCC-Jamesトランスレーショナル治療研究プログラムメンバーであり、ペロトニア免疫腫瘍学研究所の研究者でもある。「これは、精密あるいは個別化免疫腫瘍学と呼ばれるものです」。

研究方法と結果

進行肺がんに対して化学療法と免疫チェックポイント阻害薬(別のタイプの免疫療法)による治療を受けたが、それらへの耐性が生じていた28人の患者を対象として、2019年から2021年にかけてリフィリューセルの試験が行われた。治療用のT細胞は、肺をはじめとしてさまざまな部位の腫瘍から抽出され、数週間で製造に成功した。製造した新たな細胞は、1回限りの化学療法を受けた患者に再び注入された。その後、研究者らは治療を受けた患者のがんの反応を調べた。

研究の結果、リフィリューセルは安全であり、想定外の副作用はなかった。治療を受けた患者のうち19人において、治療後に腫瘍の大きさが縮小し、この治療法が転移性肺がんに対して有効であることが示された。

「これまでのところ、この結果は非常に心強く、有望なものです」と話すHe医師によれば、研究チームでは、この知見を検証するため、より多くの患者を対象とした追加臨床試験を実施中とのことである。もし成功すれば、非小細胞肺がん治療に対するリフィリューセルの使用がFDAに承認される根拠となるであろう。他のがんに対するTIL療法の臨床試験も進行中である。

洗練された初の試み

化学製剤とは異なり、この治療法では生きた細胞を使用する。これらの細胞は慎重に抽出され、汚染されることなく研究室で培養された後、病院に返送し、患者に注入しなければならない。患者自身の免疫細胞を使ってがんと闘うというアイデアが最初に提案されたのは1980年代後半であったが、科学者たちは数十年にわたり、この療法に関わるさまざまなプロセスを完成させてきた。リフィリューセル療法を成功させるには、さまざまな研究機関の科学者、腫瘍医、外科医、細胞の専門家、内科医、そしてT細胞製造施設が連携して取り組む必要がある。

今回の試験には、米国とヨーロッパの9施設のがん研究所と病院の患者と研究者が参加した。生きた細胞を米国内の中央製造施設に輸送し、病院やがんセンターに配布する必要があったが、これは最近まで考えられなかったことだとHe医師は言う。「これは複雑な共同取り組みであり、私はOSUCCC-Jamesのチーム、私の共同研究者たちとそれぞれが所属する研究機関、そしてこの試験に参加した患者とその家族を非常に誇りに思っています」。

  • 監修 高濱隆幸(腫瘍内科・呼吸器内科/近畿大学病院 ゲノム医療センター)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/05/08

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