ロルラチニブはALK陽性肺がんの増殖を抑制:脳転移予防の可能性も

ALK遺伝子変異を有する進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の初回治療として、ロルラチニブ(販売名:ローブレナ)はクリゾチニブ(販売名:ザーコリ)よりも優れていることが、国際共同臨床試験の新たな結果で明らかになった。

この知見はCROWN試験の最新結果である。参加者は、ALK遺伝子変異を有する(ALK陽性)進行肺がんの治療薬として、ロルラチニブまたはクリゾチニブのいずれかを投与する群に無作為に割り付けられた。

数年前、ロルラチニブを投与された患者はクリゾチニブを投与された患者よりも、無増悪生存期間(病状悪化なく生存した期間)が長いことが研究者らにより報告された。

これらの中間結果に基づき、食品医薬品局(FDA)は転移ALK陽性NSCLC患者を対象にロルラチニブを承認した。クリゾチニブはそれより前に、同種の肺がんに対して承認されていた。

5年間の追跡調査の結果、ロルラチニブ群では60%が病勢を悪化させることなく生存していたのに対し、クリゾチニブ群ではわずか8%であった。

さらに、肺がんが脳に転移している患者では、ロルラチニブはクリゾチニブと比べて腫瘍の進行リスクを抑え、新たな脳転移の予防に役立った。

「ロルラチニブは、進行ALK陽性NSCLC患者の転帰に前例のない改善をもたらします」と、本試験責任医師のBenjamin Solomon氏(M.B.B.S.、Ph.D.、ピーターマッカラムがんセンター、オーストラリア・メルボルン)は述べた。

Solomon医師はこの結果を、5月31日にシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表した。同知見は同時にJournal of Clinical Oncology誌でも公表された。

「この最新結果は、ALK陽性非小細胞肺がんに対する診療を変えたCROWN試験からの重要なアップデートです」と、NCIがん研究センターのChen Zhao医師は言う。同医師は本試験に関与していない。

「ロルラチニブが進行ALK陽性肺がん患者に有効で安全であるというエビデンスが追加されました」とZhao医師は続け、より長期的な結果から、これまで知られていなかった副作用は認められなかったと指摘した。

第3世代ALK阻害薬の試験

NSCLC患者の約5%がALKに変異を有する。これらの患者は通常、他のタイプの肺がん患者よりも若く、喫煙量が少ないか、喫煙歴がまったくない傾向にある。

CROWN試験が開始された2017年当時、クリゾチニブはALK陽性肺がんの初回標準治療薬であったため、研究者らはロルラチニブを評価するための比較対象としてこの薬剤を用いた。

それ以来、クリゾチニブやロルラチニブのように、変異したALKタンパク質の活性を阻害する他の薬剤が、ALK陽性NSCLCに対して承認されている。これらには、いわゆる第2世代ALK阻害薬であるセリチニブ(販売名:ジカディア)とアレクチニブ(販売名:アレセンサ)が含まれる。

研究者らは、第3世代のALK阻害薬であるロルラチニブを、第1世代および第2世代のALK阻害薬に反応しなくなった腫瘍に対して有効で、血液脳関門を通過するように設計した。

ALK陽性肺がんは脳に転移する傾向があるため、薬剤が脳に到達できるかどうかは重要である。実際、この病気の患者の最大40%が、診断から2年以内に脳転移を起こす。

史上最長の無増悪生存期間、脳転移を防ぐ

CROWN試験を実施するため、研究者らは23カ国296人の参加者をロルラチニブまたはクリゾチニブのいずれかを投与する群に無作為に割り付けた。ロルラチニブの製造元であるファイザー社がこの試験に資金を提供した。

5年間の追跡調査後、ロルラチニブ群の無増悪生存期間中央値は未到達であった。つまり、ロルラチニブを投与された人の半数以上は、その調査期間中に病勢が進行したり死亡したりしなかった。クリゾチニブ群の無増悪生存期間中央値は9カ月であった。

研究者らによれば、この結果は、これまでに報告された進行NSCLC患者における最長の無増悪生存期間に匹敵する。

CROWN試験参加者の約25%は試験開始時に脳転移があった。5年間の追跡調査において、ロルラチニブ治療を受けた脳転移患者のうち、疾患が進行した患者の割合はわずか8%であったのに対して、クリゾチニブ治療を受けた脳転移患者では79%であった。

試験開始時に脳転移のなかったロルラチニブ群114人のうち、脳転移を発症したのはわずか4人であった。これらの結果は、ロルラチニブが(既にある)脳転移巣を制御するだけでなく、脳転移が新たに生じる予防にも役立つことを示唆している、と研究者らは記している。

ロルラチニブの副作用の管理

治療に関連した副作用は、ロルラチニブ群がクリゾチニブ群よりも多かった(77%対57%)。最も多くみられた副作用は、組織に水分が溜まることによる腫れ(浮腫)、高コレステロール、血中脂肪値の上昇(高脂血症)であった。

しかし、ロルラチニブ群では副作用のために治療を中止した参加者はわずか5%であり、クリゾチニブ群では6%であった。ロルラチニブ群の一部の参加者は、注意力や思考力の問題、高脂血症、心臓の問題などの副作用のために治療を中止した。

「ほとんどの副作用は、必要であれば用量を変更することで対処可能でした」と、Jessica J. Lin医師(マサチューセッツ総合病院、肺がん専門医)はASCO会議のパネルディスカッションでCROWNの結果についてコメントした。

副作用を管理するために治療開始後16週間はロルラチニブの投与量を減らしても、薬剤の有効性は低下しなかったとLin医師は付け加えた。

しかし、認知機能や情緒不安定など、薬剤の慢性的な副作用は、一部の患者のQOLに大きな影響を与える可能性があることをLin医師は指摘した。「従って、このような副作用に対する認識、適切なカウンセリング、モニタリング、管理が不可欠です」とLin医師は述べた。

進歩とさらなる課題

患者と医療従事者の双方にとって悩ましいのは、進行ALK陽性NSCLCの初回治療として、ロルラチニブを使用するか、アレクチニブなどの他のALK阻害薬を使用するかであるとZhao医師は述べた。

Zhao医師は、その決定はおそらく、医師がその薬剤を使用したことがあるかどうか、これらの薬剤が入手可能かどうか、患者が健康保険に加入しているかどうかなどの要因に左右されるだろうと続けた。ALK阻害薬を比較する今後の研究が、その判断の一助となるだろうとも付け加えた。

ASCO年次総会でSolomon医師は、ALK阻害薬が多くのALK陽性肺がん患者に与えた影響について振り返った。

Solomon医師が20年前に医学の研修を始めた頃は、転移肺がん患者のほとんどは1年以上生きられなかったという。「今は、10年以上経っても存命でいらっしゃる患者さんを見ることができ、すばらしいことです」。

  • 監訳 川上正敬(肺癌・分子生物学/東京大学医学部附属病院 呼吸器内科)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/07/10

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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