OncoLog2014年3月号◆肺癌検診プログラム改良への努力

MDアンダーソン OncoLog 2014年3月号(Volume 59 / Number 3)

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肺癌検診プログラム改良への努力

肺癌検診で低線量のコンピューター断層撮影(CT)を用いることで、肺癌リスクのある人々において、肺癌に特異的な死亡率が低下することが示されている。

全米肺検診臨床試験(NLST)の3年後にこのことが明らかになり、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの医師や研究者は、NLSTの結果を検診プログラムで実践し、検診により最も大きな利益を受ける個人を特定する方法を新たに検討している。

「どの個人に検診が必要で、異常が確認されたら何をすべきかをよりよく理解するための努力をしています」と、がん予防センター教授のTherese Bevers医師は言う。

MDアンダーソンのCT検診プログラム

2011年にNLSTの最初の研究結果が発表される直前に設立された、MDアンダーソン肺癌検診クリニックのCT検診プログラムでは、画期的とも言えるNLST研究で示された基準に準拠している。毎年の肺癌検診は低線量マルチスライスCTを用い、肺癌に高リスクで無症状の個人に推奨される。すなわち、 総喫煙量30 pack-year【*訳注 “pack-year”:1日の喫煙本数÷20×喫煙年数】の喫煙歴がある55歳から74歳で、現在も喫煙中、または15年以内にタバコをやめた元喫煙者である。現在まで喫煙歴のない低リスクの個人には推奨されない。

肺癌に中リスクがある個人(高リスクでなく低リスクでもない個人)の検診については、最終的な判断はかかりつけ医にゆだねられる。中リスク対象者はNLSTが定めた検診基準に適合しないが、リスク因子の一定の組み合わせを有する個人においては、検診の利益がリスクを上回る可能性がある。

Bevers医師は「中リスクの個人には、まだ50歳であっても過去には総喫煙量40 pack-yearの喫煙歴があった人、あるいは20年前にタバコを辞めた人でも以前に総喫煙量50 pack-yearの喫煙歴があったなどが含まれる。このような人は、NLSTが定めた高リスク基準に当てはまらないので中リスクと分類されますが、過去に膨大な喫煙歴があるため、肺癌リスクは大きいです」と話す。

喫煙に関連した肺癌以外の癌の既往歴がある人は、中リスク群に含まれる。喫煙の結果、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹患した人は肺癌のリスクが高くなるという多くの根拠を考慮すると、Bevers医師はそれらの人々も中リスク群に加えるべきだと提案する。

NLSTは、CTを用いた3年間の検診を通してそのベネフィットを見いだしたが、MDアンダーソンでは肺癌に高リスクである個人は、健康である限り毎年低線量CTスキャンを受け、肺癌が見つかった場合、その後の医療行為を受けることを推奨する。さらに、MDアンダーソンはタバコ治療プログラムの一環として、施設の全患者を対象に、現喫煙者や過去にタバコを辞めた元喫煙者への禁煙サービスを提供する。

MDアンダーソンでは、肺癌検診を受ける際には、患者は医師の許可が必要で、その結果は医師に送られるようになっている。Bevers医師は、かかりつけ医がいない場合、また、かかりつけ医がCTスキャンの診断にあまり精通していない場合は、自身を含むがん予防センターの医師が検診を指示することができると話す。

費用と保険の適用範囲

現在、ほとんどの保険が肺癌検診を補償の対象としていないため、多くの人にとって、肺癌検診の費用は自己負担となる。MDアンダーソンの場合は、CTの撮影および放射線科医によるCT画像の読影を含めて、検診に250ドルかかる。多くの人にとって、この費用は法外なものである。

しかし、この状況はまもなく変わる可能性がある。米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、昨年12月末、NLST試験の条件を満たす成人には、低線量CTによる年1回の肺癌検診を推奨する声明を出した。2010年に医療費負担適正化法(Affordable Care Act)が成立し、この法律によって設置された医療保険市場(Health Insurance Marketplace)に参加する民間保険会社は、委員会が推奨する医療には、患者の自己負担なしに費用を補償しなければならないことになった。

Bevers医師は、保険の適用範囲が拡大したことにより、検診プログラムを受診する人が急増するとみている。「ほかの検診の場合もそうでしたが、いったん保険が適用されると、人々はプログラムに参加するようになる傾向にあります」。

また、メディケアやメディケイド、さらにエクスチェンジ(保険市場)に参加していない民間保険会社に法的義務はないものの、この検診が費用対効果に優れていることが示されれば、いずれは保険適用を認めるようになるだろうと言う。

検診の改善点

肺癌検診にリスクがないわけではない。低線量CTの放射線被爆量(1.5mSv)は、診断用CTの被爆量(7mSv)よりもはるかに少なく、さらに自然放射線の年間被爆量(3~5mSv)に比べても少ないが、集まりつつある証拠から、累積放射線のもつ作用には、癌リスクの増大など、有害なものがある可能性が示唆されている。

さらに、検診は完全ではない。NLST試験では、主に良性病変の検出による偽陽性率が高いことが明らかになった。CT所見が陽性であった患者の多くが、フォローアップCT検査を実施しながら行った慎重な経過観察で変化を認めず、肺癌でないことが確認されたが、その他は介入が必要となった。

「最悪の場合は、癌があるかどうかを確認するために、最終的に針生検を受けなければならなくなることもあります」とBevers医師は言う。

MDアンダーソンでは、このような問題に対処するため、肺癌検診でCT上に異常所見が認められた場合の意思決定の指針となる血液検査の開発に取り組んでいる。血液検査には、肺癌リスクの増大との関連が明らかになっている一連のバイオマーカーが含まれる。この血液検査の臨床試験が、MDアンダーソンで肺癌検診を受ける患者を対象にまもなく登録を開始する。

「癌と癌ではないものを区別する血液検査があれば、多くの不要な処置を回避することができますし、CT検診を受診するように勧めることが容易になります」と、臨床癌予防部門教授のSamir Hanash医学博士は語り、このような血液検査が実施されれば、偽陽性の所見のせいで、不要な処置を受けることになるのではないかという人々の懸念をやわらげることができると述べた。

「NLST試験に則った肺癌CT検診の結果によれば、死亡率が20%低下することがすでに明らかになっています。今後は、血液を元にした検査が、肺癌検診にどれだけ付加価値をつけるかを検討していかなくてはなりません」とHanash氏は言う。

氏によると、米国内外の研究機関に働きかけ、試験の規模を拡大する計画があるという。検査が評価され、精度が向上するに従って、肺癌検診に果たす役割が変化する可能性がある。

「検査が癌の検出に有用であることがわかれば、まず血液検査を実施して、その結果が陽性であれば、CT検査の適応とする方が、将来的には理にかなっていると考えられるでしょう」とHanash医師は言う。「しかし、われわれは、まだその段階に至っていません。歩けるようになるには、まず、はいはいができなければなりませんし、歩けるようになってこそ、走ることができるのです。われわれがいま取り組むべきは、CT検診の改善方法を探ることなのです」。

【画像キャプション訳】
低線量コンピューター断層撮影(左)では左肺上葉に腫瘍がみられるが、同患者の後前方向の胸部X線検査(右)では、肺腫瘍がみられない。

【中段引用部分訳】
NLST試験に則った肺癌CT検診の結果によれば、死亡率が20%低下することがすでに明らかになっています。今後は、血液を元にした検査が、肺癌検診にどれだけ付加価値をつけるかを検討していかなくてはなりません。— Smair Hanash医師

【下段引用部分訳】
どの患者に検診が必要で、異常が確認されたら何をすべきかをよりよく理解するための努力をしています。 — Therese Bevers医師

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翻訳担当者 林 さやか、中村幸子

監修 廣田 裕 (呼吸器外科/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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