非小細胞肺がん、アロステリックEGFR阻害による薬剤耐性克服の可能性

ダナファーバーがん研究所

  • アロステリック阻害薬EAI-432は、EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する新たな治療法を提供する
  • EAI-432は、ATPポケット以外の部位に結合することによって、現在の標準治療薬である第3世代EGFR阻害薬と共に結合する。これは特異な2剤併用戦略となる
  • EAI-432は特にL858R変異に対して開発されたが、野生型EGFRに選択性を有する
  • 治験開始申請(IND)に必要な試験は現在進行中で、2024年後半に完了予定

ダナファーバーがん研究所の研究者らは、EGFR遺伝子の変異(特に L858R変異)に起因する非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に向けて、有望な新薬候補であるEAI-432を開発した。L858R変異はNSCLCの約3分の1に存在する。EAI-432は、L858R変異とそれに続く臨床的耐性変異に対して高い選択性を有するアロステリック阻害剤であり、今のところ承認された標的治療薬がないNSCLCに対する新しい治療法となる可能性がある。現在のフロントライン治療との併用も、この患者集団における耐性の出現を遅らせ、転帰を向上させる可能性がある。

現在承認されているEGFR阻害剤は、標的EGFRの活性部位(ATP結合ポケットと呼ばれる)に結合する。EAI-432は、他の開発中の第4世代化合物とは異なり、EGFR上の活性ATPポケットとは別の部位に結合し、コンフォメーション変化を引き起こして効果的にEGFRを阻害する。

10月のAACR-NCI-EORTC会議で発表された前臨床試験において、EAI-432は他のEGFR標的阻害剤と共に結合することが明らかとなり、よって患者の転帰改善に向けた戦略となり得ることが示された。ポスター発表でダナファーバーの研究者らは、EAI-432がEGFR遺伝子変異陽性患者の標準治療薬である第3世代EGFR阻害剤オシメルチニブ(販売名:タグリッソ)と共に結合することを明らかにした。EAI-432は経口薬物動態が良好で、脳内浸透性があり、異種移植モデルマウスで良好な有効性を示している。

「EAI-432は他のEGFR阻害剤と異なるポケットに結合するため、出現する耐性機序の多くに対処できるはずであり、標準治療に耐性を獲得した患者に対する新たな治療法となる可能性があります」と、ダナファーバーMedicinal Chemistry Coreの責任者、David Scott博士は述べた。この化合物はまた、L858R変異陽性患者の初回治療として、オシメルチニブなど現在使用されているEGFR阻害剤との併用にも有効かもしれない。

「われわれのアプローチは2剤の結合戦略、実際はEAI-432とオシメルチニブとの2剤投与であり、これにより耐性の出現を遅らせることができるかもしれません」と、過去15年間アロステリックEGFRの研究を牽引してきたダナファーバーの生物化学・分子薬理学教授、Michael Eck医学博士は付け加えた。 「また、2つの薬剤を組み合わせることで、標的に対する全体的なインパクトが向上し、より強く作用する可能性があると考えています」。アロステリック+ATPサイトのアプローチでは、両方の阻害剤が同時に結合することができ、一方が分離しても受容体は阻害されたままである。

オシメルチニブはEGFR変異陽性NSCLCに対する主要な治療薬であるが、L858R/C797SやL858R/T790M/C797Sなどの耐性変異が臨床で出現している。これらの変異を有するNSCLC患者に対する標的治療薬は承認されておらず、治療開発が強く望まれている。

「EAI-432は、オシメルチニブに耐性を獲得した変異を有するNSCLC患者を治療できる可能性があります」と、ダナファーバーの胸部腫瘍学ロウセンター所長Pasi-Jänne医学博士は説明し、今のところ臨床で使用されるアロステリックなEGFR阻害剤はない、と付け加えた。「アロステリックなアプローチのみが、この変異受容体に対する2剤併用を可能にし、新たな変異状態を持つ患者集団にとって重要な進歩となり得るのです」。

ダナファーバーにおけるEAI-432の開発は15年以上前に始まり、学界および産業界の協力を得てきた。現在では、Michael Eck、David Scott、Pasi Jänneの各研究室が中心となっている。IND申請に必要な研究のための主な資金と科学的インプットはマークがん研究財団(MFCR)が提供し、ダナファーバーのアクセラレータープログラムとブラバトニクファミリー財団も資金を提供している。

EAI-432について 
EAI-432は、経口投与が可能で中枢神経系(CNS)浸透性のある第4世代のアロステリックEGFR阻害剤であり、EGFR(L858R)変異がんを標的として、単剤、または標準治療EGFR阻害剤との併用による治療を想定して設計されている。EAI-432は、第1世代薬剤(ゲフィチニブ)および第3世代薬剤(オシメルチニブ)に耐性を示す変異体に対して効果を示す。現在、2024年後半の完了を目指して、IND申請に必要な研究が行われている。

  • 高濱隆幸(腫瘍内科・呼吸器内科/近畿大学病院 ゲノム医療センター)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2023/11/30

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