肺癌死亡率の持続的な低下により全癌死亡率が低下
米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース
原文掲載日 :2013年12月16日
肺癌死亡率の持続的な低下により全癌死亡率が低下:国内年次報告書では患者の生存率に対するその他の疾患の影響を特集
1975~2010年の癌の状況に関する国内年次報告書(The Annual Report to the Nation on the Status of Cancer)によれば、死亡原因とされる4大癌の1つである肺癌の死亡率が、それまでの年を上回る速さで低下した。この肺癌死の大幅な減少は、長年にわたる喫煙普及率の低下の結果と考えられ、また現在の死亡傾向を反映している。肺癌死亡率の低下は、大腸癌、乳癌および前立腺癌の死亡率低下と同様に、あらゆる癌の種類を併合した死亡率の低下の一因となっており、この傾向は約20年前に始まった。これらの4種の癌の死亡率低下は、2001~2010年における癌死亡率の全般的な低下の3分の2以上を占めた。しかし、報告書によるとここ10年間で死亡率が上昇している癌がいくつかあり、男女については肝臓癌および膵臓癌、女性のみについては子宮癌、男性のみについては皮膚の黒色腫および軟部組織癌があげられている。
今年度の報告書では、65歳以上の癌患者におけるその他の疾患(糖尿病、慢性肺疾患、心血管疾患、その他13種)やそれらが生存率に対してどのように影響しているかを特集している。併存疾患の研究は特に重要である。なぜならば、癌は主に高齢化に伴う疾患であり、併存疾患の有病率も加齢と共に上昇するからである。併存疾患とは、同時に複数の疾患を発病することと定義されている。同報告書によると、今回の試験対象集団において3分の1の患者が併存疾患を発病しており、肺癌や大腸癌の患者でその頻度が高まった。また、生存率はその他の疾患の存在、癌の種類、診断時の病期および年齢に影響されている。
死亡率
最新の報告書には、完全なデータが掲載されている最近の年である2010年以前の死亡率データが含まれている。2001~2010年において、あらゆる種類の癌を併合した死亡率が、男性で1年当たり1.8%、女性で1年当たり1.4%低下した。14歳以下の小児の死亡率は1年当たり1.9%低下した。男性の死亡率は、最もよくみられる17種の癌のうち11種(肺、前立腺、結腸および直腸、白血病、非ホジキンリンパ腫、食道、腎臓、胃、骨髄腫、口腔および咽頭、喉頭)で低下し、皮膚の黒色腫、軟部組織癌、膵臓癌および肝臓癌で上昇した。同10年間で、女性の死亡率は、最もよくみられる18種の癌のうち15種(肺、乳房、結腸および直腸、卵巣、白血病、非ホジキンリンパ腫、脳、骨髄腫、腎臓、胃、頸部、膀胱、食道、口腔および咽頭、胆嚢)で低下し、子宮、膵臓および肝臓で上昇した。
同報告書によると、男性の肺癌死亡率は1993~2005年で1年当たり1.9%、2005~2010年で1年当たり2.9%低下した。女性の肺癌死亡率は、1994~2004年での1年当たり0.3%上昇から転じ、2004~2010年で1年当たり1.4%低下した。これらの転換は、米国での喫煙普及率を低下させた多くの要因による。女性での肺癌死亡率の低下が緩慢であることは特に注目すべきであるが、最も考えられる要因は女性での喫煙率の低下が遅れていることである。
NCI総長のHarold Varmus医師は、「大半の癌における持続的な死亡率低下は、複雑な疾患群のコントロールが成功していることを示す重要な指標となるが、われわれが望んでいるほど速くはない。また、この報告書で強調されているのは、癌患者の全体的な健康状態を考慮する必要性である。なぜならば、多くの患者は生存率に影響を与え得るその他の重大な疾患を呈しているからである」と述べた。
発症率
新たな症例を示す癌発症率は、複数の要因に基づいて変化し、疾患負荷の重要な指標と考えられている一方、死亡率は癌コントロールにおける進歩の主要な指標である。発症率は、死亡アウトカムにおける変化を予測し得る。2001~2010年では、全癌発症率は男性で1年当たり0.6%低下、女性では変わらず、小児(0~14歳)では1年当たり0.8%上昇しており、最新の年次報告書でみられる傾向が持続している。2001~2010年では、男性での発症率は最もよくみられる17種の癌のうち6種(前立腺、肺、大腸、胃、喉頭、脳、その他の神経系)で低下し、その他の8種(腎臓、膵臓、肝臓、非ホジキンリンパ腫、甲状腺、白血病、皮膚の黒色腫、骨髄腫)で上昇した。女性での発症率は最もよくみられる18種の癌のうち6種(結腸および直腸、膀胱、頸部、口腔および咽頭、卵巣、胃)で低下し、その他の8種(甲状腺、皮膚の黒色腫、腎臓、膵臓、白血病、肝臓、骨髄腫、子宮)で上昇した。
米国癌協会の最高責任者であるJohn R. Seffrin博士は、「死亡率と同様、男性での癌発症率の全般的な低下は、一部には肺癌の減少によるものであり、喫煙コントロールの介入が成功したことを反映している。2005~2010年の最近の期間において女性での肺癌発症率が低下したことは特に喜ばしい。それでも、肺癌は男女ともに癌死亡の主因であり続けている」と述べた。
併存疾患および癌
同報告書では、肺癌、大腸癌、乳癌および前立腺癌を伴うメディケア受給者での併存疾患の有病率およびそれらの状態が癌やその他の疾患による生存率にどのように影響するかを特集している。これらの4種の癌のいずれかを伴う66歳以上の患者の40%が1種以上の併存疾患を発病していた。
併存疾患の評価は、複数の疾患が同時にアウトカムに対してどのように影響するかを理解する上で役立つ。癌患者にとって、治療計画に併存疾患の評価を取り入れれば、治療選択肢のリスクやベネフィットについて最適な判断ができるであろう。
この分析では、NCIの癌登録データとメディケア申請データを照合し、66歳以上の患者の癌診断1年前における併存疾患の有無を特定した。進行後の癌患者では併存疾患を考慮しても初期の癌患者より死亡率が高まるため、癌の病期をこの生存モデルに含めた。
CDC代表のTom Frieden医師は、「米国人はますます癌との戦いに勝利し、長く、健康的かつ生産的な生活を送るようになっている。しかし、糖尿病など基礎疾患のある癌患者には特別な困難がある。医療従事者が患者の健康状態を完全に把握することで、患者およびその癌に対して最善と考えられる治療を提供できる」と述べた。
併存疾患の有病率の高い癌は肺癌(52.9%)および大腸癌(40.7%)であるが、乳癌(32.2%)および前立腺癌(30.5%)では併存疾患の有病率は非癌患者(31.8%)と同程度である。16種の併存疾患が癌診断1年前での患者で特定されており、急性心筋梗塞(心臓発作)、AIDS、脳卒中、慢性腎不全、慢性肝炎、およびその他が挙げられる。最もよくみられる併存疾患は4種あり、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、うっ血性心不全および心血管疾患である。
併存疾患と生存率におけるより注目すべき関連性をいくつか下記に述べる:
・初期で診断された乳癌女性では、5年生存率は年齢および併存疾患の重症度ごとに異なる。例えば、初期乳癌の66~74歳の女性では、併存疾患が軽度または中等度の場合に死亡率が併存疾患のない女性と比較してほ ぼ2倍になるが、併存疾患が重度の場合では併存疾患のない女性と比較してほぼ3倍になる。併存疾患の重症度は、初期で診断された66~74歳の前立腺癌男性における5年生存率にも同様に影響している。一方、進行 後に乳癌や前立腺癌と診断された女性や男性の生存率に対しては、併存疾患の重症度の影響はほとんどないかまたは軽度である。
・大腸癌については、併存疾患および年齢は初期癌の男性および女性での5年生存率低下と関連していたが、進行後の患者では関連していなかった。
・肺癌については、生存率に対する併存疾患の影響は比較的小さく、これは恐らく初期癌の場合診断があいまいな場合が多いためである。
NAACCR代表のBetsy Kohler氏は、「癌の新規発症率および死亡率は低下し続けており、これは確かによいことである。しかし、癌発症率を逆転させるための努力を要する癌の種類が依然として数多くあるため、癌のあらゆる形態に対して真の進歩を遂げる必要がある」と述べた。
*図訳(1つ目)
4種の主要な癌による死亡率が2001~2010年の米国での癌死亡率の下降傾向にどのように影響しているか。
肺および気管支(全低下の割合)
直腸および結腸
女性乳房
前立腺
*図訳(2つ目)
66歳以上の患者における一部の併存疾患の有病率(1992~2005年)
全癌、 乳房(女性)、 大腸
肺、 前立腺、 非癌患者
併存疾患なし、 1種の併存疾患、 複数
参考文献
Edwards BK, et al. Annual Report to the Nation on the Status of Cancer, 1975-2010, Featuring Prevalence of Comorbidity and Impact on Survival among Persons with Lung, Colorectal, Breast or Prostate Cancer. Cancer. Online Dec. 16, 2013. DOI: 10.1002/cncr.28509. Online at www.wileyonlinelibrary.com/journal/cancer-report2014
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