進行期肺癌の一次治療として標的薬の投与前にEGFR変異検査の実施を推奨するProvisional Clinical Opinionを発表

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は今日、上皮増殖因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤として知られる標的薬から恩恵を得られる進行期肺癌患者を特定するために、EGFR変異検査を臨床で使用することに関してprovisional clinical opinion(PCO)を発表した。このような治療薬にはゲフィチニブ(イレッサ)およびエルロチニブ(タルセバ)がある。本PCOは最新のランダム化臨床試験5件の成績に基づいており、(以前に化学療法をはじめとする抗癌剤治療を受けていない患者に対する)一次治療にEGFRチロシンキナーゼ阻害剤を検討している進行期非小細胞肺癌患者には、腫瘍のEGFR変異検査を最初に実施することを推奨するものである。現在、教育機関の医療センターおよび一部の地域医療センターのいずれもこの検査を実施している。

ASCOが召集したPCOパネルが、その構成員の提案に加えて、医学研究文献を再調査して集めたエビデンスを検討して今回の推奨案をまとめた。このPCOは今日、Journal of Clinical Oncology (JCO)のオンライン版に発表されることになっている。

テネシー州ナッシュビルにあるバンダービルト・イングラムがんセンターの医学部助教授でありパネル共同司会者のVicki Keedy医師は、「EGFR検査のおかげで、患者一人ひとりに合わせた癌治療という目標に近づくことになります」と述べている。「非小細胞肺癌は、実は遺伝的に明確に識別できる疾患の集合体であることが長年の間にわかってきました。われわれはどんな腫瘍にも適用できる方法よりも、腫瘍のドライバーとなる特定の分子を標的とする薬剤で患者を治療したいと思います。ただ、この方法が患者の全体的な転帰にどのように影響するかはまだ定かではありません」。

アメリカでは2010年に肺癌が新たに約220,500例発生しており、このうち約80%が非小細胞肺癌である。非小細胞肺癌の一種である肺腺癌のアメリカの患者約15%にEGFR遺伝子の変異がある。EGFRは細胞の増殖や分裂に影響を及ぼすため、この遺伝子が変異すると制御不能な細胞分裂や癌化につながる。臨床試験では、ゲフィチニブおよびエルロチニブを一次治療に受けたEGFR変異のある患者に、腫瘍縮小効果および無増悪生存期間(PFS)の点で薬剤の効果がみとめられるが、全生存期間には効果がみとめられないことが示された。いずれの薬剤も、肺癌の一次療法としては米国食品医薬品局(FDA)未承認である。

PCOパネルは、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤をカルボプラチンとパクリタキセルの標準併用化学療法と比較した臨床試験で、非小細胞肺癌の一次療法にEGFR変異検査を使用することを検討した。その大きな契機となったのはイレッサ汎アジア試験(IPASS)であった。この試験は、進行期の非小細胞肺癌に罹患し、禁煙者または軽度喫煙者である東アジア在住の患者を対象に、一次治療としてゲフィチニブ単剤をカルボプラチンとパクリタキセルの標準併用化学療法と比較した第Ⅲ相多施設共同試験である。ASCOが米国国立癌研究所(NCI)の成人の癌に関するデータベース(Physician Data Query: PDQ)編集委員会にIPASS試験の評価を要請したところ、初回治療としてゲフィチニブ投与を受けた患者の方が、化学療法を受けた患者よりも全体的にPFSが良好であったことが示された、という報告があった。

IPASS試験では、EGFR変異検査が陰性の患者では化学療法治療群の方がPFSおよび奏効率が良好であり、EGFR変異のある患者ではゲフィチニブで治療したときの方がPFSおよび奏効率が良好であった。本試験はアジア人患者を対象に実施されたものであるが、EGFR変異のある患者であれば人種を超えて同じ治療効果が得られると思われる。これより小規模ではあるが、一次治療としてゲフィチニブ(一部にエルロチニブ)の使用を検討した試験4件でも同じ成績が報告されている。EGFR変異検査が陰性と陽性の患者の間で、全生存期間の差が示された試験はなかった。

PCOパネルは概説の中で、アメリカでは二次療法として承認されているエルロチニブの効果が、二次療法に限定承認されていて、すぐに投与できないゲフィチニブによる効果にきわめて類似していることを認めた。EGFR変異陽性患者では、ゲフィチニブやエルロチニブのような薬剤が、腫瘍の増殖源となっている変異を化学療法よりもさらに特異的に標的として攻撃するのである。

パネル共同司会者のNCI腫瘍内科学部門長Giuseppe Giaccone医学博士は次のように話している。「EGFR変異のある患者のうち、標準化学療法が奏効するのはごくわずかです。また、多少延命効果があるにしても、期待するほどのものではありません。EGFR変異患者にとって、ゲフィチニブやエルロチニブなどのさらに新しい分子標的薬が優れた選択肢になることがわかりつつあります」。「一方、変異のない患者に対してエルロチニブを最初に投与するべきではありません。そのような患者にはそれほど効果がありませんし、化学療法を投与する機会を失うことになりかねません。臨床試験では、化学療法の方が有効であることが明らかになっています」。

Keedy医師は、EGFR変異検査が陰性の患者を最初にチロシンキナーゼ阻害剤で治療することが、無効の可能性が高いとはいえ、化学療法の導入を遅延させ、転帰に影響を与えるかどうかを明らかにする臨床試験をデザインすることが重要であると強調した。研究者らはまた、無効の可能性がある化学療法を受けて、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤治療をすぐに受けないEGFR変異陽性患者の転帰に影響があるのかどうか知見を得たいとしている。PCOにはこのほか、EGFR変異陽性患者でもエルロチニブとゲフィチニブの間に臨床的な有意差があるかどうかなど、アメリカではゲフィチニブがFDA未承認であることから優先するべき研究がいくつか示されている。

翻訳担当者 佐治 京子

監修 田中 謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/M.D.アンダーソンがんセンター免疫学部門)

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