2012/10/16号◆特別リポート「新バイオマーカーによって中皮腫の早期診断が可能に」
NCI Cancer Bulletin2012年10月16日号(Volume 9 / Number 20)
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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇
新バイオマーカーによって中皮腫の早期診断が可能に
フィブリン-3(fibulin-3)タンパク質によって、類似疾患の患者や健康な人から中皮腫患者を鑑別(区別)することが可能になるかもしれないことが明らかになった。この結果は、予備研究の段階ではあるが、このタンパク質が中皮腫の診断や場合によっては予後を示す有望な新バイオマーカーになる可能性を示唆している。この研究はNew England Journal of Medicine誌10月11日号に発表された。
胸膜中皮腫は、胸腔の内面および肺(胸膜)を覆っている組織の疾患であり、アスベスト曝露に起因することが多い高悪性度の腫瘍である。胸膜中皮腫の診断を受けた患者では、生存期間中央値が1年である。
治療が最も効果的となると思われる早期に中皮腫の診断をつけることは、潜伏期が長く、この疾患を早期に検出できる信頼性のある方法がないため、困難である。最もよく研究されている中皮腫のバイオマーカーは可溶型メソテリン関連タンパクと呼ばれるタンパク質であるが、検査の感度が低いため、罹患患者であっても中皮腫を検出できないことがある。
NCIの早期発見研究ネットワーク(EDRN)が資金援助した本研究では、ニューヨーク大学ランゴン医療センターのDr. Harvey Pass氏らが、細胞間および細胞と細胞外マトリックス情報伝達に重要なタンパク質であるフィブリン-3を、中皮腫のマーカー候補として特定した。
研究者らは、中皮腫患者142人、癌のないアスベスト曝露者136人、中皮腫に由来しない胸水のある患者93人から採取した血漿および胸水中のフィブリン-3濃度を測定した。また、中皮腫以外の癌患者91人のほか、その多くがEDRNから提供された健康な対照群43人の血漿試料も評価した。
中皮腫患者では、癌のないアスベスト曝露者よりも血漿中フィブリン-3の平均濃度が高かった。中皮腫患者と中皮腫ではない患者は、カットオフ値を血漿中フィブリン-3濃度52.8 ng/mLとして感度96.7%および特異度95.5%で鑑別が可能であった。
この知見を検証するために別の血漿試料コホートを用いたところ、感度は72.9%に、特異度は88.5%に低下した。
この研究には関与しなかったNCI癌研究センターのDr. Raffit Hassan氏は、「これは、完全に新しいマーカーであり、中皮腫ではわれわれの考えが全く及ばなかったものです。感度と特異度という点では、フィブリン-3は血清メソテリンよりはるかに優れているようです」と話した。
血漿中フィブリン-3濃度はまた、治療効果および疾患進行度のモニタリングにも有用となる可能性がある。患者18人では術後にフィブリン-3レベルが低下し、そのうち6人では疾患が進行した際にフィブリン-3が上昇傾向にあった。
胸水中のフィブリン-3濃度は血漿中濃度よりも高かった。血漿と胸水の両試料を採取した患者数人では、この2つの試料採取場所でのフィブリン-3濃度の間に明らかな関係はなかった。一方、胸水中のフィブリン-3濃度によって、中皮腫とは関係のない胸水のある患者から中皮腫患者を鑑別することができた。良性胸水のある患者および別の癌による悪性胸水のある患者からの中皮腫患者の鑑別は困難であるため、これは喜ばしい結果である。
同じように、中皮腫の病期がI期またはII期の患者では、III期またはIV期の患者よりも胸水中のフィブリン-3濃度が低かった。手術時に胸水中のフィブリン-3濃度が最も高かった患者らでは生存期間が短かった。
Hassan氏は、中皮腫のバイオマーカーとしてフィブリン-3を検証するには、さらに多数の患者を対象とする試験や前向き試験を要するとはいえ、この研究結果は有望であると述べている。
「もうひとつ重要なことは、フィブリン-3の濃度が化学療法や別の生物学的療法の効果を測るバイオマーカーとして使えるかどうかをみることです。中皮腫は放射線学的に測定するにはきわめて難しい疾患であることから、治療効果のモニタリングに高感度で特異性のある測定法があると好ましい」と同氏は語った。
— Jennifer Crawford
本研究はNIHからの助成金を受けた (U01 CA-111295 and U01 CA-113913)。
【写真キャプション訳】
悪性中皮腫のある胸部CTスキャン(画像提供:オーランド市、MDアンダーソンがんセンター Dr. Tomas Dvorak氏) [画像原文参照]
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ギボンズ京子 訳
後藤 悌 (呼吸器内科/東京大学大学院医学系研究科) 監修
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