「ライト」タバコと癌のリスク

 原文記事日付 10/28/2010

Key Points

●    2010年6月22日、タバコ製造販売業者がタバコ製品の表示に   「ライト」、「低タール」もしくは「マイルド」の表現を用いることを禁止する法律が施行されました。しかし、すでに販売されている製品には色分けしたパッケージ(金色や銀色のパッケージ)を用いている製造販売業者もあり、他のタバコと比較して害が少ないと信じ続けている消費者をターゲットに、これらのタバコは現在も販売されています。

●    スモーキングマシンによるタール量測定では、いわゆるライトタバコから放出される煙は通常の タバコの煙よりタール量が低いとされています。しかし、喫煙者の喫煙方法はスモーキングマシンと同じではないため、ライトタバコでも高いタール量を吸引している可能性があります。

●    「ライト」タバコが通常の タバコより安全であるということは全ありません。喫煙関連疾患の罹患リスクを減らす唯一の方法は完全に禁煙する 以外にはないのです。

1.いわゆるライトタバコとはどういうものですか?

タバコ製造販売業者 は1950年代からタバコの製品設計を重ねてきています。以下の特徴で設計されたタバコには「ライト」タバコとなって販売されているものがあります。

酢酸セルロースフィルター(タールを捕集するもの)。

多孔性紙(有害物質を拡散させるもの)。

フィルター先の通気孔(空気で煙 を薄めるもの)。

異なる種類のタバコを混ぜて配合したもの

スモーキングマシンを用いた分析では、いわゆる「ライト」タバコの煙は、通常のタバコの煙と比較してタールの量が低く出ます。しかし、スモーキングマシンでは喫煙者のタール吸引量を予測することはできません。 また、タバコの設計を変更してもタバコによる疾患発現のリスクが減少しなかったという試験結果も出されました (1)。

2009年6月22日、バラク・ オバマ大統領は米国食品医薬品局(FDA)にタバコ製品を規制する権限を付与する「家族の喫煙予防とタバコ規制法」に署名しました。新法の条項のひとつが、タバコ製造販売業者に対して「ライト」、「低タール」及び 「マイルド」をいう表現を製品の表示や広告で用いることを禁止するものです。この条項は2010年6月22日に施行されました。しかし、既に販売している製品に色分けしたパッケージ(金色や銀色のパッケージ)を用いている製造販売業者もあり、これらのタバコは他のタバコと比較して有害でないと信じ続けている消費者をターゲットに現在も販売されています(2–4)。

2.「ライト」タバコは通常の タバコに比べて健康に対する被害は少ないですか?

違いはありません。 喫煙者の多くがいわゆる低タール、マイルド、ライト、又はウルトラ「ライト」タバコを選びますが、それは、これらのタバコが通常のタバコ又はフルフレーバーのタバコに比べてタール曝露量が低く、害が少ないと考えるからです。しかし、ライトタバコが通常の タバコより安全ということはありません。ライトタバコによるタールの曝露量は、喫煙者が長く、深く、もしくは頻繁に吸い込めば通常の タバコと全く同じ量となります。結局のところ、ライトタバコは喫煙による健康 リスクを減少させないのです。

さらに、安全な タバコなどというものはありません。喫煙者本人の健康に対するリスク、並びに他人へのリスクを確実に減らす方法はただ一つ、完全に禁煙することです。

タバコ製品は全て有害であり癌を誘発するため、これらの製品の嗜好は全く勧められるものではありません。 タバコの嗜好に安全なレベルなどは存在しないのです。そのためどんなタバコ製品であれやめるべきです。 禁煙支援については、米国国立癌研究所(NCI)のファクトシート「禁煙を決意したらどこで支援を受けられるのか」(下記URL参照)に記載してあります。http://www.cancer.gov/cancertopics/factsheet/tobacco/help-quitting

3.「ライト」タバコは癌を引き起こすのですか?

そのとおりです。タバコの種類にかかわらず,喫煙する人は、しない人より肺がんのリスクが非常に高いのです(5)。喫煙により、人体のほぼ全ての臓器に害が及び、全身的に健康を損ねます。

通常のタバコからライトタバコに切り替えた喫煙者は、同量の有害物質を吸引する可能性がたかいので、喫煙関連疾患や他の疾患の発症リスクが高いままとなります(1)。 喫煙は肺、食道、喉頭(声帯)、口腔、咽頭、腎臓、膀胱、膵臓、胃、及び子宮頸部の癌、また急性骨髄性白血病 の原因となります(6)。

年齢に関係なく、喫煙者は禁煙により,癌を含む疾患の発現リスクを大幅に減らすことができるのです。

4.ライトタバコに対してタバコ産業が用いたタール量の評価はどういうものですか?

米国連邦政府は正式にライト又はウルトラライトタバコに対するタール量の範囲を設定してはいませんが、タバコ業界は下表の範囲を使用しています。 (5、7)。

パッケージ上で業界が用いる言葉スモーキングマシンで測定したタール量(mg
ウルトラライト又はウルトラ低タール通常7 mg以下
ライト 又は低タールタバコ通常8~14 mg
フルフレーバー又は通常のタバコ通常15 mg以上

上記の評価は喫煙者のタール曝露量を正確に示したものではありません。喫煙者はスモーキングマシンと同じようにタバコを吸うわけではなく、またみな全く同じように喫煙するなどないためです。

ウルトラライト及びライトタバコが、フルフレーバータバコに比べて安全だということは全くありません。安全なタバコなどというもの存在しないのです(1)。

5.スモーキングマシンで測定したタール量は誤解を与えませんか?

与えます。この評価は、スモーキングマシンの喫煙方法が人とは異なるため、喫煙者の正確なタール吸引量の予測には使えません。7 mgという評価は、タール吸引量が7 mgしかないということではありません。ライトタバコから、フルフレーバータバコと同量のタールを吸引してしまうこともあります。これは、どのように吸うかによるということです。深く、長く、そして頻繁に吸えば吸うほどタール曝露量は増加します。また、喫煙者の唇や指でフィルターの通気孔を塞ぐことがあり、さらにタールへの曝露量が増加します(7)。

6.何故「ライト」タバコを吸う人は、通常の タバコを吸う人よりたくさん喫煙することになるのでしょうか?

スモーキングマシンで測定したタール量を減らすというタバコの特徴は、ニコチン摂取量も減らします。そのため喫煙者はニコチンが欲しくてたまらなくなり,より深く、または長く、速く、頻回に吸う,もしくは欲求を満たすために十分なニコチン量を得るため,毎日タバコを余分に吸います。その結果、喫煙者はタール、ニコチン、及びその他の有害物質をスモーキングマシンに基づく数値が示すよりも多く吸引してしまうことになります(1)。

タバコ産業の文書では、ライトタバコの喫煙者が深く吸い込むことにより代償していることについて企業側が認めています。また、スモーキングマシンで測定したタール量やニコチン量と,喫煙者の実際の吸引量が異なることも文書で認めているのです(8)。

7.禁煙の支援を受ける方法はありますか?

喫煙者の禁煙を支援する団体はたくさんあります。

Smokefree.gov(http://www.Smokefree.gov)はNCIのタバコ規制調査課(Tobacco Control Research Branch)が製作したウエブサイトで、段階的な禁煙ガイド(Step-by-Step Quit Guide)を用いています。

また、NCIの電話による禁煙相談(Smoking Quitline:1–877–44U–QUIT/1–877–448–7848)では、個人的な相談や、印刷物、また参考サイトなどの情報提供を行っています。

更に、NCIのファクトシート「禁煙しようと思ったときの支援先(Where To Get Help When You Decide To Quit Smoking)」はURL(http://www.cancer.gov/cancertopics/factsheet/tobacco/help-quitting)よりご覧いただけます。

 
 
Selected References
  1. National Cancer Institute. Risks Associated With Smoking Cigarettes With Low Machine-Measured Yields of Tar and Nicotine. Bethesda, MD: National Cancer Institute; 2001. Smoking and Tobacco Control Monograph 13.
  2. Wakefield M, Morley C, Horan JK, Cummings KM. The cigarette pack as image: New evidence from tobacco industry documents. Tobacco Control 2002; 11(Suppl 1):i73–i80. [PubMed Abstract]
  3. Hammond D, Parkinson C. The impact of cigarette package design on perceptions of risk. Journal of Public Health 2009; 31(3):345–353. [PubMed Abstract]
  4. King B, Borland R, Abdul-Salaam S, et al. Divergence between strength indicators in packaging and cigarette engineering: A case study of Marlboro varieties in Australia and the USA. Tobacco Control 2010; 19(5):398–402. [PubMed Abstract]
  5. Harris JE, Thun MJ, Mondul AM, Calle EE. Cigarette tar yields in relation to mortality from lung cancer in the cancer prevention study II prospective cohort, 1982–8. British Medical Journal 2004; 328(7431):72. [PubMed Abstract]
  6. U.S. Department of Health and Human Services. The Health Consequences of Smoking: A Report of the Surgeon General. Atlanta, GA: U.S. Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control and Prevention, National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion, Office on Smoking and Health, 2004.
  7. Federal Trade Commission. Statement of William Kovacik, FTC Commissioner, Testimony Before the Committee on Science, Commerce, and Transportation, United States Senate (November 13, 2007).
  8. Anderson SJ, Ling PM, Glantz SA. Implications of the federal court order banning the terms “light” and “mild”: What difference could it make? Tobacco Control 2007; 16(4):275–279. [PubMed Abstract]

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菅原宣志 訳

廣田 裕(呼吸器外科・腫瘍学) 監修 

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翻訳担当者 菅原宣志

監修 廣田 裕(呼吸器外科・腫瘍学)

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