2007/05/15号◆特別レポート「肺癌イレッサの耐性はMET遺伝子と関連」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2007年5月15日号(Volume 4 / Number 17)
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◇◆◇特別レポート◇◆◇
肺癌治療薬の耐性はMET遺伝子と関連
肺癌治療薬ゲフィチニブ(イレッサ)投与を受けている患者における薬剤耐性の新たな原因が、耐性を逆転させる方法と共に明らかとなった。
ゲフィチニブが奏効しなくなった数名の肺癌患者の腫瘍において、MET遺伝子のコピーが発見された。抵抗性細胞を用いた研究から、このような遺伝子変異(増幅)は薬剤の奏効を阻害し得ることが示された。
また、ダナファーバー癌研究所のPasi Jänne医師らは、細胞モデルにおいてこの抵抗性を逆転させることが可能であろうことも見出した。同医師らは、ゲフィチニブとMETを阻害する化合物を併用することで抵抗性の細胞に対処した。
このような併用療法が患者において奏効するか否かは、現在のところ明らかではないが、数年後には明らかになるであろう。多くの製薬会社が、METやその同類を標的とした薬剤を開発しており、主要なものは臨床試験の初期段階にある。
1984年、MET遺伝子はNCIのGeorge Vande Woude医師の研究所にて発見された。それ以降、同遺伝子は他にもおよそ24の癌に関与しているとみられる。
少なくとも、現在のところ、この新しい研究結果は、EGFR遺伝子の突然変異が認められる肺癌患者の一部にしか該当しない(肺腫瘍の約10%にて、EGFRの突然変異が認められている)。
この結果は先月発表され(Scienceのオンライン版にて4月26日付で掲載)、肺癌患者が本研究について医師に問い合わせている。
本試験の筆頭著者であるマサチューセッツ総合病院のJeffrey Engelman医師は、「EGFR突然変異を伴う癌患者は、最初の治療が奏効しなくなった場合、新しい治療法を扱う臨床試験を積極的に探すべきである。」と述べている。
EGFR突然変異を伴う大半の肺癌患者では、ゲフィチニブや同種の薬剤であるエルロチニブ(タルセバ)によく反応するが、通常2年以内に抵抗性を示すようになる。半数の症例で、その原因はEGFRやEGFRを制御する遺伝子の新たな突然変異によるものである。
しかし、MET遺伝子はEGFRに制御されておらず、またゲフィチニブとの相互作用も通常認められない。したがって、研究者らは今回の試験を行うまでは、METがゲフィチニブ耐性に役割を担っていると考えていなかった。
現在、METとEGFRがキナーゼ遺伝子の同ファミリーの交換可能なメンバーであると明らかになった。両者はタンパク質受容体を産生する。同受容体は、細胞表面上に存在し、発育や増殖に関するシグナルなどのメッセージを細胞内部に伝達する。
Jänne医師は「MET受容体は、肺癌細胞が用いるものと同じシグナリング・ネットワークに介入する。その結果METは、細胞内への癌促進シグナルの流れを回復させる」と述べている。
本試験で使用された肺癌細胞を開発したテキサス大学サウスウエスタン医療センターのJohn Minna医師は、「現在の疑問点は、MET増幅の発生頻度と発生状況についてである」と述べている。
同医師は、ゲフィチニブやエルロチニブの投与中に腫瘍進行が認められた患者について、新規阻害剤に関する臨床試験への参加を検討すべきであると考えている。
さらに、「臨床の場にMET標的薬を導入し、MET増幅を伴う腫瘍に奏効するか否かを検討する必要がある」と述べている。
抵抗性細胞モデルがなければ、本研究は可能とならなかったであろう。なぜならば、抵抗性を示す患者の組織検体を得られることは非常にまれだからである。ある薬剤が奏効しなくなった場合、その原因を判定するために生検を受ける患者はほとんどいないが、抵抗性の発現機序を理解する上でこのような検体が必要とされている。
Engelman医師は、「幸運なことに、われわれは研究し続けてきたことの答えを得ることができ、数少ない臨床検体でその仮説について検討できた」と述べている。同医師は世界中の患者から18検体を入手した。
また、同医師は「今回の情報から治療が改善される可能性が高まれば、将来、薬剤が奏効しなくなった患者は、後に生検を受けるようになるであろう」と述べており、HIVや結核の治療用に開発された薬剤抵抗性に対する方法が検討されるようになっていると考えている。
「つまり、癌が抵抗性を獲得する機序に基づいて癌を攻撃し、さらにそうすることにより、抵抗性の発現を遅らせて寛解期間を長期化させるのである」とEngelman医師は締めくくっている。
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斉藤 芳子 訳
平 栄 (放射線腫瘍医) 監修
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