喫煙について③:「不平等ながんの重荷、だが解決可能」ーDr. イアン・ウォーカー

キャンサーリサーチUK

この記事は、全3回の特集「Ian Walker博士の喫煙について」の第3回である。

キャンサーリサーチUK、そしてがん研究に携わる者はみな、研究とイノベーションの成果が、住んでいる場所や貧富の差、肌の色などにかかわらずすべての人に行き渡るよう、懸命に努力している。

しかし、いま現在、英国全土における医療機会の平等は実現していない。実際には、国内の健康格差ががんの転帰に大きな違いをもたらしていることがわかっている。

まさに今年、私たちが発表した報告において、いくつかのがん種では、イングランドでカリブ系・アフリカ系の黒人女性が罹患した場合、進行期になってから発見される可能性が白人英国女性と比較して最大で2倍高いことが明らかになった。

また、昨年私たちが発表した別の報告では、社会経済的な困窮が原因で、英国で毎年3万以上の過剰症例が発生していることを明らかにした。これは、ウェンブリーアリーナの収容人数の2倍以上に相当する。

発症率が高いだけでなく、イングランドで最も困窮している層では、治療へのアクセスが困難なことも多い。調査によると、過去6カ月以内に一般開業医(GP)に連絡しようとした人々のうち、困窮が深刻な人ほど、診療を予約できる確率が低かった*。

これは、現在英国が直面している最大の不公平のひとつであり、国として真剣に取り組むべきことだ。さらにもどかしいのは、イングランドにおけるがんの不平等格差の半分以上が、予防可能なリスク、すなわち喫煙、に直接的な原因があると推定されることだ。

このテーマに関する私のこれまでの記事を読めば、喫煙が人々の健康、国民医療制度、経済に与える壊滅的な影響が分かるだろう。ただ、喫煙率は困窮の度合いによって異なるので、喫煙がすべての人に等しく影響するわけではない。

イングランドでは、最も貧しい地域では最も裕福な地域と比べて喫煙に起因するがんが約2倍発生しており、イングランドで最も所得の低いグループと最も高いグループの間の平均寿命の差は、その半分が喫煙によるものだ。

喫煙者はタバコに少なくとも年平均2000ポンド(約33万円)を費やしており、この恐ろしい、忌むべき依存性商品は人々をさらに経済的苦境に陥らせる。喫煙はライフスタイルの選択と捉えられがちだが、現実ははるかに複雑だ。

ほとんどの喫煙者は、子どもの頃にタバコを吸い始める。そして、タバコ産業が長年にわたって特に標的にしているグループがあることもわかっている。多くの人にとって、この最初の一服が生涯にわたるタバコ依存への道を開くことになる。これはタバコ産業にとっては、生涯にわたる自社製品への需要と利益を意味するのだ。

タバコを吸う10人のうち8人は、何かの折に禁煙しようとしたことがある。喫煙者で、自分の子どもにぜひタバコ依存の後継者になってほしいと切望する人は一人として聞いたことがない。喫煙は、ほとんどの人が始めたことを後悔する習慣なのだ。

しかし、このように憂慮すべき事態であるにもかかわらず、最ももどかしいのは、これが絶対に解決可能な問題であるということだ。

英国政府は、バーナードス(Barnardo's 、英国の慈善団体)の前代表であるJaved Khan博士に、タバコ規制に関する独立的な審議を行うよう委託した。この審議の結果は2022年7月に発表されたが、いまだに政府は審議会の勧告を実施するための行動を起こしていないーー自ら依頼したにも関わらず!おそらく、政治家に対してこれらの変更を実施するよう求めるのではなく、なぜいまだに何も行動していないのかと問うべき時期だろう。

今は転換期であり、適切なリーダーシップと政治的勇気をもってすれば、次世代のためにタバコのない未来を実現できると私は信じている。それゆえ、私たちは昨年「スモークフリー・英国」キャンペーンを開始した。英国政府に対し、鍵となる2点に重点的に取り組むよう求めている。

私たちは「終わり」を始めたい。これは、現在喫煙している人たちを非難するものではない。それどころか、ほとんどの喫煙者はすでに禁煙を望んでいるので、私たちは、適切な資金力を持つ禁煙支援サービスを用意し、これを英国中で平等に利用できるようにすることで、禁煙を推進したいのだ。

そして、もし政府がこの費用を負担できないのであれば、(納税者ではなく)タバコ産業が、使途に口出しできないようにして、その費用を負担すべきである。

しかし、これだけでは十分ではない。「始まり」を終わらせることも必要だ。長年にわたって、英国はタバコの誘惑と摂取を減らすための規制をいくつか実施し、成功を収めてきた。しかし、もっと多くのことを行う必要がある。

タバコの販売年齢引き上げは、子どもや若者の喫煙開始を阻止する一助になり得るので、政府はその最善の方法を協議すべきだ。

きわめて重要なことだが、喫煙関連疾患のない社会を実現する利益とは、最も助けを必要とする人々に大きな影響を与え、またその実現過程において、がんのみならずさまざまな喫煙関連疾患に付きまとう不平等という問題の解決に向けて大きく前進することだ。

すべてのコミュニティがスモークフリーにならない限り、本当の意味でのスモークフリーとはならないので、喫煙率の差を縮めるプランが必要だ。例えば、遅くとも2040年までに、イングランドのすべての社会経済的グループの喫煙率を5%未満にするという目標の設定などである。

これは本当に簡単なことで、タバコ規制のコミュニティが何年も前から要求してきたことだ。しかし、この要求は現在高まっており、問題を解決する真の機会が到来している。実際の政治的変化は、多くの場合、国民の動員から生まれる。キャンサーリサーチUKのキャンペーン「スモークフリー・英国」は、政府にタバコ規制に向けて行動するよう求めている。みなさんもぜひご協力を。喫煙に関連するがんをなくす手助けをするよう国会議員に呼びかけてほしい。

Ian Walker博士はキャンサーリサーチUKの政策情報通信部長である。

*特に断りのない限り、数値はすべてYouGov Plcによる。サンプル数成人2365人、2022年9月20日〜10月3日に実施。調査はオンラインで実施された。数値は重み付けされており、イングランドの全成人(18歳以上)を代表する。

今月初めのキャンサーリサーチUKの分析では、喫煙をなくすことで毎月75,000件の診療予約が解消し、NHSが毎年22億ポンドを節約できることが示された。その後、政府の大臣や政治家が2030年までに英国をスモークフリーにすることを再公約したとのこと。プランの発表が待たれる。

  • 監訳 久保田馨(呼吸器内科/日本医科大学呼吸ケアクリニック)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2023/03/31

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