喫煙について②:「政治的に解決が容易」ーDr.イアン・ウォーカー

キャンサーリサーチUK

この記事は、全3回の特集「Ian Walker博士の喫煙について」の第2回である。

前回の記事で紹介したように、喫煙は少なくとも15種類のがんに関連している。

それが驚くべきことでもないといわんばかりに、喫煙は英国における健康格差の単独での最大の要因であることも分かっている。

英国では、毎年約3万件のがんの原因が経済的困窮にあり、悲しいことに、困窮が深刻なグループほど、がんから生還する可能性が低い。

肺がんは、経済的困窮に起因する過剰症例(「通常の」条件下で予想される以上の肺がん症例数)発生しており、イングランドだけで毎年1万4000例以上の過剰な症例が生じている。実は、タバコを吸う人がいなかったら、イングランドで貧困に起因するがんの症例は61%減少していたかもしれない。

私はヨークシャー州生まれで、それをずっと誇りに思ってきた。バーンズリーで育ち、家族のほとんどが今も住んでいる。しかし、そこで育ったおかげで、社会経済的困窮が地域社会の健康状態に与える影響、そして重要なことは、それが私自身を含む家族にいかに影響するかを強く認識するようになった。

今の時代、裕福な先進国にいながら、いまだに住んでいる場所によって人生のチャンスや健康状態が左右されるというのは、まったく受け入れがたい。

私たちの2人に1人が一生のうちにがんに罹患するということはすでに分かっており、英国では毎年約37万5000人ががんと診断される。

そして、この数は増加している。その理由のひとつに、私たちの寿命が延びていること、そしてがんは加齢と強く結びついていることがある。つまり、年を取れば取るほど、がんを発症するリスクが高くなる。

ところが、がん発症のリスクには予防できる要因もある。がん発症のリスク要因にはさまざまなものがあるが、他を圧倒する最大のリスク要因は喫煙だ。そして、喫煙は肺がんと最も密接に関係している。

喫煙は英国における肺がんの72%を引き起こし、肺がんは英国における全がん死亡の21%を占めている。

肺がんはもちろん、どのステージで診断されても恐ろしい病気だ。しかし、現在のところ、患者のほとんどが進行期に発見され、英国における平均的な生存統計は、1年生存率が44%、5年生存率がわずか20%に過ぎない。

いろいろな意味でかなり気が滅入るような状況だが、一抹の光はある。大胆で勇敢でエビデンスに基づく政治主導があれば、これは絶対に解決できる問題なのだ。

政府は2021年に、たばこに関する独立審議会(Javed Khan博士議長)を立ち上げた。この専門的な審議会は、世界の専門家から意見とエビデンスを求めた。

重要なのは、審議会が英国での喫煙根絶を目指す15の勧告を提示したことだ。この勧告が実現すれば、子どもたちが喫煙依存の重荷を背負うことなく成長する姿を見る日が現実になるだろう。さらに、がん格差を減らし、住んでいる場所や貧富の差にかかわらず、すべての人ががん研究の恩恵を享受できるような前向きな変化を起こすことができるのだ。

この報告と並んで、英国国立検診委員会(UK National Screening Committee)の最近のエビデンスレビューを見ることができる。ここでは、最高のエビデンスに基づき、英国政府が喫煙者または元喫煙者を対象とした肺検診プログラムを実施するよう勧告している。

この新しい介入は大きな変革をもたらす可能性があり、肺がんをもっと効果的に治療できる段階で見つけられるようになるかもしれない。重要なのは、新サービスが最も必要とされる地域で効果的に実施されれば、健康格差を軽減することも可能なことだ。

ただし、喫煙による損害リスクが最も高い人たちがサービスを利用できるようにするためには、的を絞った法規制が必要だ。

本記事を書いていると、このような変化の正当性を説明する必要があることに私自身違和感を覚える。単純な政治的決断で、がんを減らし、制度内の健康格差に取り組み、現世代と今後のすべての世代にわたって、人間の苦痛を軽減することができるのだ。

しかし、変化を要する理由は他にもある。

イングランドでは、国民保健サービス(National Health Service:NHS)が喫煙に関連する病気に毎年約22億ポンドを費やしている。この有毒製品による病気はすべて予防可能であり、今こそ、NHSの貴重なリソースをできる限り有効に活用する方法を見つけ出さなければならない。

さらに、成長政策を重視する政府は、喫煙が生産性という観点から社会に与える経済的損失が推定年間307億ポンドであることを認識すべきだ。

以上のように、喫煙は、がん、健康格差、国民保健サービス(NHS)そして経済に影響を与えることが分かっている。

また、国民の支持もある。最近のキャンサーリサーチUKの世論調査では、イングランドでは調査対象の70%が、イングランドのスモークフリー化に向けて政府がより多くの資金を投入することを支持している*。ほとんどの喫煙者はこの習慣をやめたいのだ。私は今、政府を説得するために、他に何が必要なのか考えあぐねている。

しかし、おそらく喫煙根絶に向けた最後の一撃は、khan審議会の容赦ない評価だろう。「何もしなければ、その結果として喫煙関連疾患でより多くの命が失われることになる」。

しかし、それだけではない。何もしないことは断じて受け入れがたく、何もしないことは道義に反し、何もしないことは、喫煙の有害性を証明するエビデンスの数々を無視することである。私たちは過去の教訓から学び、今すぐエビデンスに基づいて行動すべきなのだ。

政治家のみなさん、どうかご注目を。この責任からは逃れられない。命がかかっているのだから、何もしないという選択肢はない。あなたには現世代とすべての将来世代のために、公衆衛生に革命を起こすチャンスがある。あなたには、後世に長く忘れられないレガシーを残すチャンスがある。何よりも、あなたには、命を救い、がん克服を推進するチャンスがあるのだ。

その方法については、次回の記事で説明する。

Ian Walker博士はキャンサーリサーチUKの政策情報通信部長である。

* 独立審議委員会は、イングランドをスモークフリー(喫煙者が成人人口の5%未満)にするために、政府が年間最低1億2500万ポンドを緊急に追加支出する必要があると提言した。この支出のほとんどは、人々の禁煙をサポートするサービスのために使われる。資金調達の方法は複数ある。この追加支出金の調達方法として、(もしあれば)次のうちどれを選びますか?(イングランドをスモークフリーにするためにもっと資金を投入すべきだと思わない場合は、「該当なし」を選択してください)。数値はすべてYouGov Plcによる。サンプル数成人1780人、2022年10月13日〜14日に実施。調査はオンラインで実施された。数値は重み付けされており、イングランドの全成人(18歳以上)を代表する。

今月初めのキャンサーリサーチUKの分析では、喫煙をなくすことで毎月75,000件の診療予約が不要になり、NHSが毎年22億ポンドを節約できることが示された。その後、政府の大臣や政治家が2030年までに英国をスモークフリーにすることを再公約したとのこと。プランの発表が待たれる。

  • 監訳 久保田馨(呼吸器内科/日本医科大学呼吸ケアクリニック)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2023年3月24日

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