イブルチニブが慢性移植片対宿主病の症状を緩和

がん治療の分子標的薬であるIburutinib[イブルチニブ]が、ある種の幹細胞移植によく見られる重篤な合併症の治療に効果があることが、小規模臨床試験で示された。

この臨床試験に参加したのは血液のがんを有する患者で、同種移植と呼ばれる提供者からの造血幹細胞移植を受けたあと、慢性的な移植片対宿主病(GVHD)の症状が出ていた。広範囲にわたる皮膚の発疹および痛みを伴う口腔内潰瘍を含む症状は、患者が標準的なコルチコステロイドによる治療を受けても続いていた。

本臨床試験でイブルチニブによる治療を行ったところ、約3分の2の患者で移植片対宿主病関連の症状に改善が見られた。これらの患者のうち21%では、症状が完全に消失した。また多くの患者で、症状の緩和効果が最大で5カ月以上にわたり持続したと、12月の米国血液学会の年次総会で報告された。

コルチコステロイドでは十分に症状が改善しない慢性移植片対宿主病の患者にとって、新たな選択肢ができることは重要な前進であると、本試験の代表研究者でもあるスタンフォード大学がんセンターのDavid Miklos医師は述べた。

移植片対宿主病の持続的な症状を持つ患者にとって、「イブルチニブには他の薬剤を上回る治療効果があるようだ」と、Miklos医師は報道発表資料でコメントしている。

米国国立がん研究所(NCI)がん研究センター(CCR)実験的移植および免疫学支部(Experimental Transplantation and Immunology Branch)のSteven Pavletic医師も同意する。

「慢性移植片対宿主病に対する大きな進歩であり、良いニュースだ」と、この疾病の専門家であるPavletic医師は話す。移植片対宿主病に対するより効果的で安全な治療は「対処されていない分野」であり、「現在は慢性移植片対宿主病向けにFDA承認を受けた薬剤がない」と続けた。

慢性の移植片対宿主病:深刻な問題

米国では毎年、血液のがんを有する約1万人の患者が同種幹細胞移植を受けている。移植片対宿主病は、移植された細胞が患者の健康な細胞や組織を攻撃する時に生じる。こうした細胞に対する攻撃は、最高で40%の患者で発生し、重度の息切れや四肢および関節痛など含め、消耗させるようないくつもの症状を起こす。

このような症状に加え、移植片対宿主病は「それに関連する死亡率も高い」と、がん研究センターリンパ系腫瘍支部(Lymphoid Malignancies Branch)のWyndham Wilson医師も説明する。

患者によっては、幹細胞移植を受けた直後の数週間から数カ月以内に移植片対宿主病が起こる。これは急性移植片対宿主病と呼ばれる。移植から数か月後に発症したり、症状が何カ月も続いたりする場合は慢性移植片対宿主病と呼ばれる。

急性および慢性の移植片対宿主病に対して、コルチコステロイドが標準治療であるが、多くの患者にとって常に有効であるとは限らず、最終的には効かなくなるとWilson医師は言う。さらにコルチコステロイドの長期使用には、それ自体に免疫抑制といった副作用もあると言う。

イブルチニブは、いくつかのタイプの白血病と悪性リンパ腫を含むB細胞性腫瘍の治療用に、米国食品医薬品局(FDA)から承認を受けた。この薬剤は、B細胞や他のタイプの免疫細胞に存在するBTKとして知られるタンパク質を標的とする。BTKはB細胞における重要なシグナル伝達経路の構成要素で、BTKを阻害することでこれらの細胞が活性化するのを止めることができる。イブルチニブはまた、B細胞およびT細胞にあるITKという類似のタンパク質も阻害する。いくつかの研究で、慢性移植片対宿主病ではこの両タイプの免疫細胞が、不適切に活性化されてしまうことが示されている。

2014年に発表された研究では、コルチコステロイド抵抗性移植片対宿主病のマウスモデルで、イブルチニブによる治療が症状を緩和することが示された。これらの知見が、移植片対宿主病の症状がある患者を対象にイブルチニブを使うヒトでの臨床試験実施につながった。

「有益な」知見

第2相試験の対象者は、過去に移植片対宿主病の治療を3レジメンまで受けたことがあるにも関わらず、皮膚発疹が身体の25%以上広がっている、または重篤な口腔内潰瘍がある患者だった。42人の患者が、移植片対宿主病関連の症状を何カ月も有しており、その中央値は13.7カ月だった。

イブルチニブによる治療は、移植片対宿主病の関連症状を大幅に緩和しただけでなく、本試験に参加した多くの患者がステロイドの用量を減らすことができた。また数人は、完全にステロイドの使用を止めることができた。

病気に関連する症状の度合いを、標準化した点数で評価したところ、ほとんどの患者はイブルチニブを使う以前と比べ、症状がはるかに軽減したと報告した。またイブルツ二ブが有効だった多くの患者は、炎症や結合組織の瘢痕化に関するものを含め、移植片対宿主病に関連する血液マーカーも下がった。

臨床試験に参加した患者の半数近くに、高熱および肺炎を含む重大なイブルチニブによる副作用がみられた。これらの副作用は、イブルチ二ブの治療を受ける患者に一般的なものだと、本試験の研究者でオハイオ大学のジェームズがんセンターのSamantha Jaglowski医師は言う。

全体としてほとんどの副作用は管理可能だったと、同医師は続けた。

慢性移植片対宿主病の多くの患者にとって、移植片対宿主病症状により受けている影響を考えれば、イブルチニブは副作用リスクを補ってあまりある可能性がある。試験に参加した患者が長期にわたり移植片対宿主病関連の症状に悩まされてきたことから、同医師は今回の試験結果について、「素晴らしい」と述べた。

「こうした患者はすでに標準的な治療を試みて、明らかに症状を抑えられなかったのです」と、同医師は言う。「慢性移植片対宿主病は重篤な病態になることもあるので、これらの結果は非常に有益です」。

臨床での活用に向けて

この試験結果が、慢性移植片対宿主病の患者のケアにどのような影響を与えるかはまだわからないと、Jaglowski医師は話す。

今年初め、FDAはコルチコステロイドのような他の治療法で管理できない慢性移植片対宿主病への適用として、イブルチニブを画期的治療薬に指定した。この指定によりFDAは、同薬剤が重篤または生命を脅かす疾病または病態に有効性を示した初期のデータをもとに、迅速に販売承認に必要なレビューを行う。

解明すべき重要点として、慢性移植片対宿主病の患者が症状緩和のためには、どのくらいの期間イブルチニブの投与が必要かという疑問があると、Wilson医師は述べる。

免疫関連の攻撃を抑制する薬剤については、「そのサイクルを断ち切ればよいだけの場合もある」と、同医師は説明する。イブルチニブが奏効した患者は「休薬期間」に入って、症状が抑えられた状態が続くかを見ることができるかもしれないと続けた。

「これはまったく最初の試験であり、こうした患者群でイブルチニブを使う経験を得る中で、使用方法をよく理解できるようになる」と、Pavletic医師は述べた。

今後すすめていく上では、本試験に参加した患者が移植片対宿主病関連の症状や感染症を抑制するために使用した他の薬剤に関して、さらなる情報が重要であると同医師は述べた。薬剤によっては、イブルチ二ブとの相互作用があり、副作用を引き起こしたり、悪化させたりする可能性がある。本試験でも副作用を理由に、途中で14人が試験を中止した。

「さらに経験を重ね、他の薬剤との相互作用に注意し、イブルチニブの用量を調整することで、副作用の発生率が下がる可能性を予測している」と同医師は続けた。「12人の患者が最長で2年にわたり薬の効果を維持できたことで、非常に有望です。より多くの患者が、ここまで到達できることを期待しています」。

少なくとも1つの試験は、移植片対宿主病を有する患者へのイブルチニブの使用について、未解決の疑問点を解明する取り組みに役立つ可能性がある。

イブルチニブを共同販売するAbbVie社とPharmacyclics社は、同薬剤で移植片対宿主病治療を行う第3相試験の実施を2017年前半に計画している。ただしこの臨床試験では、すでに治療に抵抗性を持った患者ではなく、慢性移植片対宿主病の患者の初回治療の一部として行う。

Pharmacyclics社の広報担当者によれば、同社は今年後半に、慢性移植片対宿主病治療を適用としたイブルチニブの承認を規制当局に申請する予定。

写真説明

広範囲に広がる皮膚発疹は、移植片対宿主病によくある症状の一つ。クレジット:S.R. Riddell, F.R. Applebaum PLOS Med 2007; DOI: 10.1371/journal.pmed.0040198 (CC BY 1.0)

翻訳担当者 片瀬ケイ

監修 喜安純一 (血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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