芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍に希望となる新たな分子標的(CD123)治療
MDアンダーソン OncoLog 2015年10月号(Volume 60 / Number10)
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芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)および関連疾患に希望となる新たな分子標的(CD123)治療
一般的な造血器腫瘍の治療は、大量の試験データと疾患に関する医師の長年の経験に基づいている。しかし、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)のようにまれでほとんど研究されていない血液腫瘍では、そのような情報が限られていることが多い。その状況も、新しい分子標的が見つかったおかげでまもなく変わるかもしれない。その発見が相次ぐ革新的な治療法の登場と、このまれな悪性腫瘍を対象とする初めての臨床試験につながった。
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの白血病部門准教授 Naveen Pemmaraj医師が次のように話す。「7年前に私が最初にBPDCNに興味を持ったときは、情報というのは実質的に皆無でした。それが今では爆発的に研究が増えています。以前には何の治療法もなかったこの疾患に、胸が躍るような新しい臨床試験や治療法が次々と登場しています」。
さらに、BPDCNでのこのような進展は関連疾患にも影響があることを意味する。
まれな悪性疾患
BPDCNが独立した疾患であることは長く認識されていたものの、その名称は何度も変わった。ナチュラルキラー芽球細胞白血病、CD4+ CD56+ 皮膚・血液腫瘍、芽球型NK細胞リンパ腫、NK細胞白血病をはじめ、これまでにさまざまな名称で知られていたが、2008年に世界保健機構が現在の呼称であるBPDCNと名付けた。
「BPDCNはかつて、きわめてまれな腫瘍であると考えられていました。でも今は、病理や分類が進み、認識が高まったために、以前考えられていたよりはもう少し頻度が高いとみられます」とPemmaraju医師は言う。同医師によるとたとえば、「今年になってBPDCNの治療のために月に患者1人か2人は紹介を受けました。それに対し、1998年から2014年までに当院でBPDCNであると確認された患者は約26人にすぎません」。
BPDCNは主に骨髄と血液細胞の疾患であるが、これ以外のほとんどの白血病とは異なり、皮膚にも影響を及ぼすことがある。「それがこの疾患の主な特徴です」とPemmaraju医師は言う。BPDCNは比較的高齢の男性に発症することが多く、リンパ節に浸潤することがあり、中枢神経系および脳に好発する。
Pemmaraju医師の話では、「BPDCNは驚くほど悪性の疾患でもあり、急性骨髄性白血病 (AML)や高リスクの急性リンパ芽球性白血病 (ALL) などの急性白血病に匹敵するほどです。皮膚病変のみだった患者さんが、1年も経たないうちに急性白血病末期の状態になることもあります」。
BPDCNは希少疾患であるため、治療はほとんど研究されておらず、他の白血病の治療から転用することがほとんどである。このためBPDCN患者は通常、必要に応じた皮膚の治療と合わせてAMLとALLの治療を組み合わせた 治療を受ける。それには、多剤併用の強化化学療法(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン(CHOP療法) またはシクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシンおよびデキサメタゾン(hyperCVAD療法) など)、中枢神経系の予防療法、放射線療法、幹細胞移植などがある。
「そのような積極的な治療をしても、BPDCN患者さんの全生存期間の中央値はこれまでせいぜい1〜2年でした。それは医療者であり研究者でもある私たちには受け入れがたいものです」とPemmaraju医師は語る。
BPDCNに対する新しい標的
CD123(別称インターロイキン-3 受容体)は造血細胞の増殖と分化に関与する細胞表面タンパク質である。正常な造血細胞ではCD123の発現が全くないか、わずかにある程度であるが、BPDCN細胞ではほとんど必ずCD123が過剰発現している。このCD123が過剰発現することによってBPDCN細胞の産生が増加し、健常な正常細胞に対して混雑状態になる。
Pemmaraju 医師の話では、「CD123の発現は非常に根源的であるため、それが白血病幹細胞に引き継がれていると考える研究者もいます。白血病幹細胞というのは、この種のがんが発生する一部の細胞の前駆体ともいえる初期の細胞または始原的な細胞のことです」。
CD123はBPDCNに過剰発現するほか、AML、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、慢性骨髄単球性白血病(CMML)および骨髄増殖性疾患など、多くの血液疾患にBPDCNほどではないが過剰発現している。
白血病部門准教授Marina Konopleva医学博士によれば、「CD123は白血病細胞と正常細胞との間で差次的に発現します。この原理を利用して受容体を標的とし、正常細胞を傷つけることなく白血病細胞を破壊することができます」。
CD123標的
BPDCN治療で最も開発が進んでいるCD123標的薬は、インターロイキン-3融合ジフテリア毒素を含有する組換え型融合蛋白のSL-401である。本薬剤は、現在ダラスのテキサス大学サウスウェスタン医療センター所属のArthur Frankel博士の研究に端を発している。
SL-401のインターロイキン-3領域ががん細胞表面のCD123に結合し、次に分子全体ががん細胞に取り込まれる。「薬剤が細胞により内部移行すると、ジフテリア毒素が放出され、タンパク質合成を実質的に阻止し、細胞は内部から死滅します」とKonopleva医師は述べる。Blood誌で昨年発表されたSL-401の多施設共同パイロット試験の結果は有望である。効果が評価可能であった再発または化学療法抵抗性のBPDCN患者9人のうち、わずか1サイクルのSL-401治療で5人に完全寛解が、2人に部分寛解が認められた。反応期間中央値は5カ月(範囲:1~20カ月以上)。
「控えめに言っても、SL-401は活性のある薬剤でした」とPemmaraju医師は述べた。「これらの患者の消耗性皮膚病変の一部は消失し、骨髄およびリンパ節病変は改善しました」。
「BPDCNはこの治療法への感受性が高いことは明らかです」とKonopleva医師は同意した。「SL-401を幹細胞移植の代替方法として、または併用することで、患者の生存転帰が改善できることを期待しています」。
本試験で、血小板減少症、トランスアミナーゼの上昇、好中球減少症、低ナトリウム血症などのグレード3または4の毒性作用はほとんど報告されておらず、報告されたものについてもすべて一過性であった。一部の患者に発現した低ナトリウム血症とグレード2以下の副作用は血管漏出症候群と関連していると考えられた。低グレードの副作用には、低アルブミン血症、浮腫、低カルシウム血症、尿毒症/クレアチニン上昇、疲労、頭痛があり、これらは通常数日以内に消失したが、持続性の低アルブミン血症はアルブミンの非経口投与および利尿薬で管理した。
「腫瘍細胞と正常細胞間でのCD123の発現差異はきわめて重要です。この差異がなければ、もっと多くの副作用が発現することになるからです」とKonopleva医師は述べた。「CD123は正常造血幹細胞分画に発現しているため、正常骨髄もある程度抑制されます。肝機能異常はSL-401治療を受けた患者によくみられますが、その理由はあまり明確ではありません」。
「依然としてある程度の毒性がみられますが、少なくともBPDCNのように受容体を高発現する悪性腫瘍には、SL-401が大きな副作用を引き起こさずに腫瘍に作用しうる治療域があることは明らかだと思います」とKonopleva医師は続けた。
BPDCN以外の疾患
BPDCN患者でのSL-401のパイロット試験で有望な結果が得られたことを受けて、現在MDアンダーソンと他の施設での本薬剤の臨床試験でその他の血液疾患患者を登録中である。「腫瘍分野では、まれな疾患での発見が他の腫瘍型での研究を促進することが多く、この研究についてもそうです」とPemmaraju医師は述べた。
AML
Pemmaraju医師とKonopleva医師は共同研究者の学際的なチームの一員として、AMLおよびBPDCN患者を対象としたSL-401の多施設共同第1/2相試験を実施中である。研究者らは本試験の予備的な結果を米国血液学会に提出したばかりで、12月に開催される本学会の年次総会での研究結果の発表を希望している。
SL-401の早期の試験では、AMLに対する活性がある可能性が示唆されており、「実施中の試験結果によってこの研究課題はさらに明らかになるでしょう」とPemmaraju医師は述べた。
「AMLでのベネフィットがどのようなものかまだわかりません。SL-401治療がうまくいくことには大いに希望が持てますが、それを決定づけるにはさらにデータが必要です」と試験責任医師のKonopleva医師は述べた。
まれな悪性疾患
骨髄増殖性腫瘍およびCMML
Pemmaraju医師は、高リスク骨髄増殖性腫瘍患者に対するSL-401の別の臨床試験の責任医師であり、BPDCNについて自身が学んだことをその他の希少な血液疾患にも拡大適用している。この慢性血液疾患には、古典的骨髄増殖性腫瘍である、真性赤血球増加症(赤血球の過剰な増加)、本態性血小板血症(血小板の過剰な増加)、骨髄線維症(骨髄の異常により赤血球産生低下をもたらす)の3つが含まれる。また、さらに希少な骨髄増殖性腫瘍には、好酸球増加症候群(または好酸球増加疾患)、全身性肥満細胞症が含まれる。「古典的骨髄増殖性腫瘍の3疾患の中でも、骨髄線維症は急速に急性転化する可能性があり、最も致命的です」と、Pemmaraju医師は述べた。「骨髄線維症患者では、非常に変動の大きい転帰が認められます。例えば、低リスク患者は生存の可能性が数十年ありますが、高リスク患者に転化した、あるいは高リスクで見つかった場合には数年しか生きられない可能性が出てくるのです」。
骨髄増殖性腫瘍は、BPDCNよりも高頻度に認められるが、米国食品医薬品局が承認した治療法はほとんどない。実際、骨髄線維症に対しては、中等度または高リスクの骨髄線維症に対するルキソリチニブただ一つであり、CMMLに対する標準治療は、骨髄異形成症候群に対してすでに承認されている治療法のみである。しかし、骨髄増殖性腫瘍およびCMMLでは、CD123が発現する場合があることが、研究によって示されている。
「つまり、標準治療が無きに等しい致死的な血液腫瘍は他にもあるのですが、今ではBPDCNにおいてCD123が標的となりうるので、他の比較的希少な疾患のためのSL-401の新たな臨床試験を実施中です」と、Pemmaraju医師は述べた。
現在、多施設4群試験において、骨髄線維症、CMML、全身性肥満細胞症、進行症候性好酸球増加疾患の患者を登録中である。
微小残存病変
研究者らは、SL-401によって寛解期の高リスク疾患患者の再発を予防できるかどうかを確認することも目的としている。Konopleva医師は、微小残存病変を有するAML患者を対象としたSL-401の第1/2相臨床試験の試験責任医師である。「標準化学療法を実施した後に残存するCD123発現幹細胞を標的とするには、この治療法が最も有効である可能性があるとされています」と、Konopleva医師は述べた。「寛解期の高リスクAML患者には検出可能な残存病変がある場合と無い場合がありますが、臨床経験から、生存期間が非常に短く、早い段階で再発することが分かっています。細胞毒性を持つ化学療法により治癒が得られることはあまりありません」。
微小残存病変の幹細胞を除去することにより再発を予防したいと考えている、とKonopleva医師は述べた。「化学療法を用いたその他の維持療法には、十分な利益を示していないものもあるので、この治療法が非常に有益なものになるという望みを抱いています。われわれは、この治療法を有益なものに変えたいと考えています」と、同医師は述べた。
新戦略
CD123を標的とする治療法では、SL-401に用いた組み換え融合タンパク質の研究が最も進捗しているが、CD123を標的とするその他の治療法の研究も進行中である。
「われわれは、腫瘍特異抗原としてのCD123に非常に関心がありますが、もちろんCD123を標的とするために使用可能な治療法は他にもあります」と、Konopleva医師は述べた。
それらの治療法には、CD123発現細胞を標的、破壊することが前臨床試験によって示されている、モノクローナル抗体と細胞毒性薬の複合体、微小残存病変を有するAML患者に対して有効性を示している抗CD123「裸」抗体、CD123特異的キメラ抗原受容体発現T細胞、T細胞とCD123発現腫瘍細胞を結合させることができる二重特異性T細胞誘導抗体の使用が含まれる。
「われわれは、治療前後や治療中のCD123の修飾行動について、できる限り研究していきます。どの腫瘍がどのくらいの比率でCD123を発現するか確認するため、全ての固形腫瘍、血液腫瘍の調査を続けます」と、Pemmaraju医師は述べた。「標的となりうる腫瘍を同定すれば、新治療を検討するための安全で有効な臨床試験を開発できるのです」。
【上段画像キャプション訳】
SL-401による治療前(左)と治療4カ月後の写真。芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍患者の皮膚病変に改善がみられる。(Blood 2014;124:385–392.)
【中段画像キャプション訳】
SL-401治療前(左)と治療6カ月後(右)のポジトロン放出断層撮影(PET)/コンピュータ断層撮影(CT)画像で、芽球形質細胞様樹状細胞腫瘍患者の鼠径部リンパ節病変(矢印)の縮小がみられる。(Blood 2014;124:385–392.)
For more information, contact Dr. Naveen Pemmaraju at 713-792-4956 or Dr. Marina Konopleva at 713-794-1628.
FURTHER READING
Frankel AE, Woo JH, Ahn C, et al. Activity of SL-401, a targeted therapy directed to interleukin-3 receptor, in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm patients. Blood 2014;124:385–392.
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原文掲載日
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