2012/10/30号◆特集記事「非血縁者間の幹細胞移植における幹細胞源に警告」
NCI Cancer Bulletin2012年10月30日号(Volume 9 / Number 21)
~日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇
非血縁者間の幹細胞移植における幹細胞源に警告
造血幹細胞移植で用いる幹細胞源として非血縁ドナーの骨髄と末梢血幹細胞とを比較した初のランダム化臨床試験の結果、白血病および関連する血液疾患の治療目的で非血縁ドナーの末梢血幹細胞を用いる際には注意を要する可能性が示唆された。この結果は10月18日付New England Journal of Medicine誌に掲載された。
全米骨髄バンク(National Marrow Donor Program)医務部長で本研究の上級著者であるDr. Dennis Confer氏の説明によると、過去10年で血縁・非血縁を問わず末梢血幹細胞の利用が劇的に増加しており、これは主に移植医が末梢血幹細胞移植を好むためだという。
現在、非血縁ドナーからの移植全体の4分の3で末梢血幹細胞が用いられている。末梢血幹細胞移植では骨髄より早く生着するが、不都合が生じることもある。末梢血幹細胞には移植片対宿主病(GVHD)を引き起こす可能性のある免疫細胞のT細胞が大量に含まれている。GVHDとは、レシピエント体内の組織および臓器をドナー免疫細胞が攻撃する状態のことだ。
血縁ドナーから末梢血幹細胞または骨髄の移植を受けた患者の転帰を比較した臨床試験のいくつかでは、GVHD発生率が骨髄よりも末梢血幹細胞で高かったが、その使用を思いとどまるほどではなかった。一方、血縁ドナーからの移植に比べて、非血縁ドナーからの移植ではGVHD発生率が高く、これまでに非血縁ドナーの幹細胞源2種について安全性および効果を直接的に比較する大規模臨床試験はなかった。
「血縁ドナーについては(骨髄と末梢血幹細胞を比較した)ランダム化国際大規模臨床試験をいくつも実施し、非常に決定的な結果を得ています。われわれは何の知見も得られていない非血縁ドナーにおいて試験を実施しました」。フレッド・ハッチンソンがん研究センターの移植医ならびにGVHD研究者で本研究の共著者でもあるDr. Stephanie Lee氏はこのように説明した。「大きな飛躍ではありませんが、非血縁者間という設定で互いの幹細胞源のリスクと利益を比較するランダム化試験のデータはなかったのです」。
各移植細胞源に一長一短
H・リー・モーフィットがんセンターのDr. Claudio Anasetti氏ら研究者は、このランダム化試験に患者551人を登録した。患者は全員高リスク白血病または慢性骨髄疾患で非血縁幹細胞ドナーを得ていた。患者は末梢血幹細胞または骨髄幹細胞のいずれかを移植する群にランダムに割り付けられた。90%の患者はランダムに割り付けたとおりの細胞の移植を受けた。一次評価項目は2年後全生存率とした。
移植から2年後、末梢血幹細胞を移植した患者は51%が生存していたのに対し、骨髄幹細胞移植では46%であった。この差は統計学的に有意なものではなく、偶然の差として無視できることを意味する。再発率も両群で差はなかった。
一方、追加分析では生存率以外の転帰に差がみられた。末梢血幹細胞移植を受けた患者では、生着不全(ドナー細胞が死滅し患者体内で新しい血液細胞を産生できない状態)の発生率が骨髄移植を受けた患者より少なかった(3%対9%)。骨髄移植を受けた患者では生着不全のため11人が死亡したが、末梢血幹細胞移植を受けた患者では死亡者はなかった。
しかし、末梢血幹細胞移植を受けた患者では骨髄移植を受けた患者に比べ、2年後の慢性GVHD発生率が相当多かった(53%対41%)。慢性GVHDで死亡した患者は末梢血幹細胞移植患者で30人、骨髄移植患者で14人であった。
また、2年後も生存していた患者のうち、末梢血幹細胞移植患者ではGVHDのため免疫機構を抑制する投薬を必要とする率が骨髄移植患者より高かった(57%対37%)。
追跡2年後の死亡原因*
末梢血幹細胞 | 骨髄 | |||
% | 患者数 | % | 患者数 | |
再発 | 48 | 69 | 50 | 73 |
生着不全 | 0 | 0 | 8 | 11 |
急性GVHD** | 17 | 24 | 14 | 20 |
慢性GVHD | 21 | 30 | 10 | 14 |
その他 | 10 | 14 | 10 | 14 |
*ランダムに割り付けられた移植を行った患者513人のうち治療後2年以内に290人が死亡
**移植後数カ月以内に発生したGVHD
「非血縁ドナー由来末梢血幹細胞のレシピエントでは慢性GVHDによる死亡率が上がり、骨髄に比べ末梢血幹細胞のほうが生着が早く堅実であるという利点が相殺されてしまう可能性がある」と著者は書いている。
リスク要因の違い、幹細胞源の違い
患者個々に特有の性質がどちらの幹細胞源を使用すべきかの指針となるのではと研究者は示唆する。たとえば生着不全高リスクの患者では末梢血幹細胞が有利である可能性があり、他の化学療法などの結果すでに免疫機構が抑制され拒絶反応のリスクが低い患者など、他の患者では骨髄が推奨となると思われる。
「これらの結果から、現在の診療を変えるべきというデータが得られました。動員末梢血幹細胞の利用が非血縁ドナーからの移植事例の大半で当然の選択肢となっているのを改め、利益がリスクを大きく上回るごく一部の患者への利用に限るべきです」と、フレッド・ハッチンソンがんセンターのDr. Frederick R. Appelbaum氏は同紙の論説で述べている。
NCI癌治療評価プログラムの調査員であるDr. Richard Little氏も同意見だが、一点注意を促している。「GVHDの予防法および治療法が改良されれば、末梢血幹細胞が骨髄よりも好まれるのは変わらないでしょう」。同氏はこう話している。
GVHDの治療および予防だけが移植研究における「標的」というわけではない、とLee氏は話す。ドナー細胞として別の幹細胞を用い、強さを落とした前処置法で移植前に宿主免疫機構を完全に破壊しない方法も試されている、と同氏は説明した。「移植(の研究)は非常に速く進歩していますので、何十年も応用できるような研究結果を得るのは難しいことなのです」。
ドナーの好みが幹細胞源の選択に影響するのではないかと懸念を示す研究者もいるが、Confer氏はそれが決定的な要因ではないとみている。「ドナーは非常に利他的な人たちであって、型が適合する患者を助けたいと強く思っています。移植医に骨髄と末梢血のどちらを提供するかと尋ねられたら、大部分のドナーは患者にとってベストと医師が考えるならどちらでも提供することでしょう」。同氏はこのように締めくくった。
— Sharon Reynolds
本研究の一部は国立衛生研究所(NIH)の資金援助を受けている(U10HL069294)。
【写真キャプション訳】
カリフォルニア州Windsor在住の移植レシピエント、Teresa Hurtado-Diaz(左)と、テキサス州Beeville在住のドナー、Lydia Gonzalez(右)。(全米骨髄バンクの厚意による) [画像原文参照]
全米骨髄バンク白血病治療のため行われた非血縁ドナーからの造血幹細胞移植は1979年に初めて実施された。それ以来、移植技術が急速に発展し、命を救う幹細胞を見ず知らずの人に喜んで捧げたい人のデータベースも急増したことで、非血縁ドナーからの移植が米国だけで毎年何千件も実施されている。全米骨髄バンクは米国の非営利団体で、世界最大の臍帯血ドナーおよび骨髄ドナー候補者のデータペースを運用し、過去25年間で50,000例以上の移植を支援した。しかしボランティア(ドナー)は常に不足している。 現在、若齢層(18~44歳)ドナーと、アフリカ系アメリカ人、アジア系、アメリカ先住民など少数人種のドナー登録が特に必要とされている。 幹細胞ドナーになるための詳しい情報はこちら。 |
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橋本 仁 訳
吉原 哲 (血液内科・造血幹細胞移植/兵庫医科大学病院) 監修
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