マントル細胞リンパ腫高齢患者にイブルチニブ追加は無増悪生存を50%改善

ASCOの見解

「高齢者は一般的に臨床試験に参加する機会が少ないです。強力化学療法、標的薬剤、移植などのリンパ腫治療の中には、高齢者では毒性が強すぎるため治療の選択肢として不適当なものもあります。マントル細胞リンパ腫の患者は高齢であることが多く、高齢患者が臨床試験に参加することにより、この年齢集団での治療法の有用性と毒性のバランスをより良く理解することができます。この試験の結果は、希少がんであるマントル細胞リンパ腫と新たに診断され、治療の選択肢が極めて少ない高齢患者に新たな希望を与えます」と米国臨床腫瘍学会(ASCO)最高医学責任者兼副会長であるJulie R. Gralow医師(FACP:米国内科学会フェロー、FASCO:米国臨床腫瘍学会フェロー)は語る。

2022年ASCO年次総会で報告される予定の新しい研究によると、マントル細胞リンパ腫と新たに診断された高齢患者において、イブルチニブ(販売名:イムブルビカ)とベンダムスチン、リツキシマブを併用した場合、プラセボとベンダムスチン、リツキシマブを併用した場合と比較して、無増悪生存率が50%改善された。

試験要旨

【目的】 高齢者集団におけるイブルチニブの有用性

【対象患者】 国際的試験拠点203カ所のマントル細胞リンパ腫の患者523人

【結果】 治療開始から病状悪化の徴候または死亡までの期間である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、プラセボとベンダムスチン-リツキシマブの併用、およびリツキシマブによる維持療法を実施した群が52.9カ月であったのに対し、イブルチニブにベンダムスチン、リツキシマブの併用、およびリツキシマブによる維持療法を実施した群は80.6カ月であった。

画像検査や検体検査で体のどこにもがんの徴候がない完全奏効率は、プラセボ群が57.6%であったのに対し、イブルチニブ群は65.5%であった。

全生存期間(OS)は、治療群間で差はなかった。

グレード3または4の毒性および生活の質(QOL)は、治療群間で有意差はなかった。

【結論】 本試験結果は、国際的に臨床診療の変化をもたらす可能性がある。

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主な知見

イブルチニブとベンダムスチン、リツキシマブ併用およびリツキシマブ維持療法を実施した場合の無増悪生存期間(PFS)の中央値は80.6カ月で、プラセボとベンダムスチン、リツキシマブ併用およびリツキシマブ維持療法を実施した群の無増悪生存期間(PFS)の中央値52.9カ月と比較して、50%の改善が見られた。完全奏効率は、イブルチニブ群で65.5%、プラセボ群で57.6%であった。転帰の最終評価の時点で治療群間の全生存期間(OS)に差はなかった。

「SHINE試験は、本疾患においてイブルチニブと標準治療の併用によるプラスの効果を示した最初の国際的な第3相試験です。無増悪生存期間は、現在使用されている一般的な治療法よりも大幅に延長しており、これは臨床的に重要な進歩です」とヒューストンのテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのリンパ腫・骨髄腫科の教授である筆頭著者のMichael Wang医師は語る。

次の治療までの期間は、イブルチニブ群の方がプラセボ群よりも長かった。次の治療を必要とした患者数は、イブルチニブ群の方がプラセボ群よりも少なかった。すなわち、イブルチニブ群では52人(19.9%)、プラセボ群では106人(40.5%)が引き続き抗リンパ腫治療を受けた。また、プラセボ群の当該106人中41人(38.7%)が引き続きブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬(主にイブルチニブ)を投与された。

治療中のグレード3または4の有害事象は、イブルチニブ群が81.5%、プラセボ群が77.3%であった。本試験での併用療法の安全性プロファイルは、イブルチニブとベンダムスチン、リツキシマブ併用の既知のプロファイルと一致した。また、QOLは、両群で同等であった。

マントル細胞リンパ腫は、リンパ系に影響を与える非ホジキンリンパ腫の中でもまれなタイプのがんである。リンパ節のマントル層と呼ばれる部位内の悪性Bリンパ球から発生する。女性よりも男性に多く、65歳以上の高齢者に多く発症する。世界では年間約20万人に1人、米国では年間約4,000人がマントル細胞リンパ腫と診断されている。

マントル細胞リンパ腫の治療に使用する薬剤併用はいくつかあり、中には他よりも強力なものもある。治療が強力であればあるほど、副作用も多いため、強力な治療は若い患者や健康状態が良好な患者を念頭に置いている。マントル細胞リンパ腫の高齢者は、高い毒性が伴う強力化学療法や幹細胞移植に耐えられることがほとんどないため、満足のいく治療成績が得られていない。したがって、高齢のマントル細胞リンパ腫患者のための新たな治療選択肢を開発するという満たされていない差し迫ったニーズがある。

イブルチニブは、ブルトン型チロシンキナーゼというタンパク質に不可逆的に結合することにより、免疫系B細胞の増殖と生存を阻害する低分子薬である。現在、少なくとも1つの治療を受けたことのあるマントル細胞リンパ腫患者の治療薬として単剤で承認されている。ベンダムスチンとリツキシマブは、高齢のマントル細胞リンパ腫患者の治療で一般に併用されている。

試験について

二重盲検の第3相SHINE試験では、65歳以上のマントル細胞リンパ腫患者523人がイブルチニブとベンダムスチン、リツキシマブ群(261人)、またはプラセボとベンダムスチン、リツキシマブ群(262人)のいずれかに無作為に割り付けられた。両群のベースライン特性はほぼ同等であった。試験に参加した患者の年齢の中央値は71歳であり、追跡調査期間の中央値は7年であった。

次のステップ

本試験に参加した患者のより長期の全生存期間(OS)について、追跡調査が継続されている。

SHINE試験はJanssen Pharmaceuticals NV社およびAbbVie社の合同会社であるPharmacyclics社の支援を受けている。

日本語記事監修 :喜安 純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

翻訳担当者 松長 愛美

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原文掲載日 

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