ブレンツキシマブが若年ホジキンリンパ腫の放射線療法による被曝量を減らす可能性
ホジキンリンパ腫の小児および10代の一部の患者では、進行がんに対する放射線療法の必要性を減らす、またはなくすことができるかもしれない。
新たな試験では、小児および10代の高リスクホジキンリンパ腫患者に対する初回化学療法として、化学療法剤の1つを標的治療薬であるブレンツキシマブ ベドチン(国内販売名:アドセトリス)に変更した。この新たな治療法は、がんに対して高い有効性を示し、患者の放射線療法の必要性を大幅に減らすことができた。
本試験では、小児の高リスクホジキンリンパ腫の初期または一次治療として確立されているレジメンで、化学療法剤のビンクリスチンをブレンツキシマブ ベドチンに変更した。本レジメンは、複数の化学療法剤を組み合わせて投与する治療法であり、その後必要に応じて放射線療法を実施する。
本試験に登録された77人のすべての患者がブレンツキシマブ ベドチンの投与を受けた。なお、ブレンツキシマブ ベドチンは成人の進行性ホジキンリンパ腫に対する一次治療としてFDA(米国食品医薬品局)より承認されている。
追跡期間(追跡期間の中央値:3.4年)中に、1人の患者のみでがんの再発が認められ、当該患者は追加治療を受けた。1人の患者が心疾患で突然死した。本試験の生存率を、同医師らが過去に実施した別の試験(未発表)でビンクリスチンを含むレジメンの治療を受けた小児の高リスクホジキンリンパ腫患者(既存対照群)の生存率と比較したところ、既存対照群よりも良い結果が得られた。
注目すべき点は、本試験に参加した77人のうち27人(35%)の患者が放射線療法を必要としなかったことである。放射線療法が必要な場合は、腫瘍残存の可能性がある部位に対してのみ実施し、照射量をできる限り少なくした。
本研究の主任研究者であるSt. Jude小児研究病院のMonika Metzger医師は、正常な組織への照射量の低減は、若年層の患者にとっては特に重要なことである、と述べた。放射線は長期的な健康問題、または晩発障害を引き起こす危険因子である。これらの長期的な問題には二次がんも含まれる。「特に女性の乳がんだけでなく、他のがんもありうる」とMetzger医師は説明した。
新たに得られた結果は、小児の高リスクホジキンリンパ腫の治療を、より低い放射線量で治療できるようにするための重要な一歩になる、とMetzger医師は述べた。
Vanderbilt大学の小児腫瘍医であるChristine Moore Smith医師(本試験には関与していない)は、「本試験では既存対照群よりも良い結果が得られており、素晴らしい成果を収めた。また本試験はホジキンリンパ腫に関する科学的な事項を解明するために有用である」と述べた。
また手足の痛みおよび、しびれを引き起こす末梢神経障害の副作用が発現した場合でも、ブレンツキシマブベドチンを含む本レジメンでの治療は継続可能であることが判明した。末梢神経障害は、ブレンツキシマブベドチンを投与する際に懸念される症状の一つであるとSmith医師は述べた。
NCIが一部資金を提供し、ブレンツキシマブベドチンの販売元であるSeattle Genetics社が依頼して実施した本試験の結果は、4月7日にJournal of Clinical Oncology誌に掲載された。
小児および10代の高リスクホジキンリンパ腫患者に対する一次療法の一部として、ブレンツキシマブベドチンを標準的に使用するべきかまだ明確ではない、とSmith医師は述べた。
本試験の長期的な結果と、現在NCIが資金提供している小児腫瘍学グループ(COG)の試験の結果から、この疑問に対する明確な答えが得られるはずである、とSmith医師は説明した。COGの試験では、これらの患者の一次療法として、ブレンツキシマブベドチンを、ある化学療法の一部に用いて評価している。
副作用および晩発障害を減らす
ブレンツキシマブベドチンは、抗体薬物複合体と呼ばれる薬剤の一種であり、静脈内に投与される。ブレンツキシマブベドチンの抗体部位は、古典的ホジキンリンパ腫の細胞(Reed-Sternberg細胞と呼ばれる)に多くみられるCD30と呼ばれるタンパク質を認識する。抗体がこれらのがん細胞上のCD30に結合すると、ベドチンという薬剤が細胞内に送り込まれ、ベドチンが細胞分裂部位を阻害することにより細胞死に導く。
ブレンツキシマブベドチンとビンクリスチンは、いずれも微小管(細胞内にある柔軟性を有する管状の構造体で、細胞分裂の際などに必要となる)を標的とし、破壊する。「しかし、ビンクリスチンが全身の細胞を攻撃するのに対し、ブレンツキシマブベドチンは古典的ホジキンリンパ腫の細胞を選択的に攻撃する」とMetzger医師は説明する。
古典的ホジキンリンパ腫はリンパ系細胞が腫瘍化する疾患で、全体的には稀少な疾患であるが、15歳から19歳の患者が多くを占める。15歳未満の小児ではあまりみられない。
小児および成人のホジキンリンパ腫患者の生存率は通常は高く、そのため、治療法に関する現在の研究の多くは治療中および治療後(時には数十年後)に発現する副作用を軽減し、現行の治療法と同程度の生存率を得ることを目的としている、とSmith医師は述べた。
無再発生存期間が延長
Metzger医師らは、併用化学療法の一部としてブレンツキシマブベドチンを使用することにより、放射線療法の必要性を減らすことが可能かどうかを調査するため、St.Judeと他の5施設で18歳以下の高リスクホジキンリンパ腫患者を対象とした試験を実施した。
試験に参加した77人のすべての患者が、ブレンツキシマブベドチン、エトポシド、プレドニゾンおよびドキソルビシンの投与を2サイクル受け、その後にシクロホスファミド、ブレンツキシマブベドチン、プレドニゾンおよびダカルバジンの投与を4サイクル受けた。最初の2サイクルを実施した後に、PETおよびCTの両方を用いて抗腫瘍効果を評価した。その結果、27人の患者ではがんの徴候がみられなかったため、放射線療法を受けなかった。それ以外の患者は、リンパ節の残存病変に対する放射線療法を受けた。
3年全生存率はブレンツキシマブベドチン群と既存対照群で同程度であったが、3年無イベント生存率(がんの進行・再発がない状態で生存しており、かつ二次がんを発症していない患者)は、ブレンツキシマブベドチン投与群で高かった。
ブレンツキシマブベドチン群と既存対照群の3年無イベント生存率の差は「印象的である」とSmith医師は述べた。
試験参加者での忍容性は全般的に良好であり、治療中によくみられた重篤な副作用は血球数減少であった。しかし、医師らは試験中に1人の被験者が死亡したことは問題であり、ブレンツキシマブベドチンの投与を受けているすべての患者に対して、安全性モニタリングを継続すべきであると指摘した。
神経障害および治療関連疼痛のレベルが低い
本試験では、治療中に重度の神経障害およびその他の疼痛が認められた患者はわずか4%であった。重度の神経障害が生じた場合、化学療法を変更する必要があるとSmith医師は指摘した。しかし、本試験では化学療法の変更を要した被験者はいなかった。この結果は、将来的にブレンツキシマブベドチンを一次治療として使用する上で、非常に意味のある結果であると述べている。
ビンクリスチンの副作用として末梢神経障害が知られている。ドイツで実施した試験では、ビンクリスチンを含む確立された化学療法レジメンを受けた小児の末梢神経障害の発現割合は、本試験よりも高かった、とMetzger医師は延べた。しかし、2つのレジメン(ビンクリスチンを用いたレジメンとブレンツキシマブベドチンを用いたレジメン)で発現した副作に関する直接比較は実施していない。
ブレンツキシマブベドチンを含む新規レジメンの5年全生存率および無イベント生存率を評価するため、Metzger医師らは本試験の患者の追跡調査を継続している。
ホジキンリンパ腫の再発は、治療後5年間無病状態を維持している患者ではまれであり、治療後10年間無病状態を維持している患者ではさらに低くなると、Metzger医師は述べた。
進化し続ける治療
今後検討すべき事項は、「化学療法または放射線療法の必要性を減らし、治療による晩発障害を減らすための他の方法を検討すること」であるとSmith医師は述べた。
Smith医師は、「本試験で、無イベント生存率が97%であったことは素晴らしいことである」と述べ、続けて「私たちは、無イベント生存率が100%になること望んでいるが、それだけではなくできる限り高いQOL(生活の質)を維持して欲しい」と結論づけた。
Metzger医師は、実際、小児ホジキンリンパ腫の臨床試験は、これまでの試験結果を上回るようにデザインされている、と述べた。
「今回の試験によって、一部の小児では放射線療法を受けなくても良いことが判明したが、現在実施中の新たな試験では、さらに多くの患者が放射線療法を受けていない」とMetzger医師は述べた。また、この新たな試験では、最初の2サイクルの治療で良好な結果が得られた患者に対しては、副作用を有するプレドニゾン(ステロイド剤)を投与しない予定である、と述べた。
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