リツキシマブにより再発リンパ腫患者の転帰が改善
Rituximab Improves Outcomes in Patients with Recurrent Lymphomas
(Posted: 10/26/2005)2005年ASCO会議の報告によると、 ドイツの2つの試験で標的治療リツキシマブ(リツキサン®)が、濾胞性およびマントルリンパ腫の再発治療に有効だと示された。
要約
ドイツでの2件の試験結果から、リツキシマブ(RituxanR)の標的療法が再発濾胞性リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫の治療に有効であることが判明した。第1の試験では、標準化学療法にリツキシマブを加えることで、化学療法単独の場合より奏効率および無進行生存率が向上し、さらに全生存率向上の可能性も見られた。第2の関連試験では、このリツキシマブ併用療法で奏効した再発リンパ腫患者が維持療法としてリツキシマブの単独療法を受けると、転帰が更に改善した。
ソース American Society of Clinical Oncology annual meeting, Orlando, Florida, May 15, 2005
背景
リンパ腫は体の免疫系にとって重要な白血球の一種であるリンパ球に影響を与える癌である。リンパ腫には25種類以上の非ホジキンリンパ腫など多くの亜型がある。濾胞性リンパ腫は、B細胞性非ホジキンリンパ腫の最も一般的な型のひとつで、最初は進行が遅い低悪性度であるが、次第に高悪性度に変わることもある。診断後の患者の生存期間は通常8年から10年である。
マントル細胞リンパ腫はまれな種類で、B細胞性非ホジキンリンパ腫の中でもかなり悪性度が高く化学療法にしばしば耐性がある。よって診断後の患者の生存期間は通常3年から4年である。
標準的な治療ではいずれのリンパ腫も治癒出来なかったため、生物学的製剤や分子標的療法が積極的に試験されている。その一例がモノクローナル抗体リツキシマブで、血液中の癌化した(悪性の)成熟B細胞の表面にほとんど例外なく発現するCD20というタンパク質のみを標的として結合する。
免疫系はリツキシマブ抗体を「侵入者」と認識し、抗体が付着している悪性B細胞を攻撃、破壊する。未成熟B細胞は、CD20タンパク質を持たないため影響を受けない。これらの正常なB細胞が成熟して、悪性B細胞に取って変わる。
1997年、リツキシマブは癌の中でも特に濾胞性非ホジキンリンパ腫の治療ためFDA(米国食品医薬品局)が初めて承認したモノクローナル抗体である。その後の試験からリツキシマブはマントル細胞リンパ腫の初期治療にも有効であることが分かった。
また最近の試験では、これらリンパ腫の初期治療としての化学療法にリツキシマブを加えるとさらに有効であることも判明したが、最適な化学療法は未だ特定されていない。
いくつかの試験からリツキシマブは単独、併用のいずれでも濾胞性リンパ腫の維持療法、つまり治癒の可能性を高めるため初期治療の後に行う治療として、有効であることが明らかになった。また、リツキシマブを使用する方が使用しないときよりも、より多くの人が長く奏効期間が持続することが判明したが、全生存率が向上するか否かは定かでない。さらにその他のリンパ腫に対しリツキシマブは、二次治療(最初の治療が奏効しない、または奏効しなくなった場合に行う)としても有効であることが分かった。だがマントル細胞リンパ腫および濾胞性リンパ腫の二次治療として有効か否かは未だ不明である。
以下2件の試験は、Martin H. DreylingおよびWolfgang Hiddemann指揮のもと、German Low Grade Lymphoma Study Groupの研究者によって行われた。試験2は試験1の延長で、患者の一部は試験1と重複している。
試験1
1998年、研究者は治療後癌が再発している進行性の濾胞性リンパ腫(約5割)およびマントル細胞リンパ腫(約4割)の患者を主に対象として試験を始めた。中には数名、異なる種類の低悪性度リンパ腫の患者もいた。
標準化学療法にリツキシマブを加えることで患者の完全または部分的回復(完全または部分寛解ともいう)の可能性が増すか否かの確認が試験の目的であった。2001年までに300人以上の患者が対象となった。
まず患者に、FCM(フルダラビン、シクロホスファミド、ミトキサントロンの薬剤を含む化学療法)またはリツキシマブ併用のFCM(以下R-FCM)のいずれかを任意に割り当てた。統計解析からR-FCM群の奏効率が有意に高いことを確認した時点でFCM単独治療群を止めた。
この時点で、研究対象の患者を別のR-FCM群として割り当てた。ランダム化R-FCM群および非ランダム化R-FCM群から最終データを収集した。
試験1の結果
FCM単独治療群の閉鎖までにランダムに割り付けられた患者は130人になっていた。R-FCM群には評価可能な患者が65人おり、完全寛解率および全奏効率は33%と79%で、それぞれ12%と58%のFCM単独群と比較して有意に高かった。(全奏効率には完全寛解または部分寛解のいずれかを経験した患者を含む)
続いて非ランダム化R-FCM群の111人の患者は、完全寛解率27%、全奏効率85%で、ランダム化R-FCM群の患者と類似した結果であった。
当試験の研究者によると、リツキシマブを併用した両群は、化学療法のみを受けた単独治療群より無進行率および全生存率も有意に優れていた。
全3群でR-FCMへの奏効率は、濾胞性リンパ腫の患者の方がマントル細胞リンパ腫の患者よりがわずかに高かった。
試験2
試験1では、標準化学療法にリツキシマブを併用すれば寛解率が向上するか否かを調査した。これに関連した試験2では更に、R-FCM療法で完全寛解または部分寛解した患者は、維持療法としてリツキシマブのみの治療を続けた場合および治療を中止し観察のみ続けた場合のどちらが、寛解(奏効期間)はより長く持続するか否かを調査した。
試験1でランダムまたは非ランダムにR-FCM併用療法に割り付けられ、完全または部分寛解した患者184人を、試験2のためにここではリツキシマブ単独治療群(3ケ月目および9ケ月目にそれぞれ週1回4週投与)および治療終了群の2群のいずれかにランダムに割り付けた。
濾胞性リンパ腫患者と、より深刻なマントル細胞リンパ腫患者の割合は試験1とほぼ同じであった。癌再発の有無およびその時期の確認のため、研究者は状況を観察した。
試験2の結果
予備解析で、リツキシマブの維持療法を受けている患者は、観察のみを受けている患者よりも統計上有意に長い奏効期間を示した。観察群の患者のR-FCM治療終了から再発までの中央値は19カ月であった。リツキシマブの維持療法を受けた患者の多くは3年後も寛解期が続いている。これらデータの収集、解析はなお継続中である。
しかし、リツキシマブの維持療法群の全生存率が有意に向上するか否かを決めるデータはまだ十分でない。
コメント
以上の試験から、「リツキシマブにより無進行生存率と奏効期間が改善したことは明らかである。」と、NCI(米国国立癌研究所)癌研究センターリンパ腫部門のリーダー、Wyndham Wilson医学博士は語った。またこれらの疾患に使用される他の標準化学療法(例:CHOP療法、CVP療法)も、リツキシマブの併用により効果が増すことが分かっている。今回、フルダラビンを主体とする治療がこのリストに加わった、と彼は付け加えた。
Dreyling氏は更に強く、「この治療法が優れていることは明らかで、この疾患への標準的アプローチの代表とすべきである。」と主張した。
両氏はともに、試験2からリツキシマブはこれら疾患患者の維持療法として明らかに有用であると述べ、Dreyling氏は「リツキシマブの化学免疫療法の治療後、維持療法としてリツキシマブを単独で加えることにより、奏効期間の有意な改善が可能である」と語った。
制限事項
Wilson博士は、リツキシマブが疾患に有効で奏効期間および生存率を改善することには同意したが、後の投与に比べ早期に投与する方が患者の余命が実際延びるかどうかは未だ定かでないとし、「いかなる臨床試験でも、患者の全生存率データに説得力を持たせるものは、注意深く管理された患者群である」と述べた。
しかし上記2件の試験で進行した患者は積極的な試験対象ではなく試験の範囲を超えて、自らの癌に応じた治療を受けていた。3~4割の確率でそういった患者はリツキシマブの投与を後で受けていたかもしれないとDreyling氏は言う。Wilson博士は、後の投与が生存効果を混乱させかねないと述べた。
(Chihiro 訳・林 正樹(血液・腫瘍科) 監修 )
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