2010/12/14号◆特別リポート「臨床試験により、ホジキンリンパ腫治療に新しい選択肢が示唆された」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2010年12月14日号(Volume 7 / Number 24)
〜日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜
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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇
臨床試験によりホジキンリンパ腫治療に新しい選択肢が示唆された
第2相臨床試験の中間報告から、ブレンツキシマブ・ベドチンと呼ばれる臨床試験薬が、有効な治療の選択肢がほとんどないホジキンリンパ腫患者の一部に対して奏効をもたらす可能性が示された。この試験結果は有望視されており、同薬剤の製造業者であるSeattle Genetics社は米国食品医薬品局(FDA)に対して2011年初頭に承認申請を行う予定である。試験結果は先週フロリダ州オーランドで行われた米国血液学会(ASH)の年次総会で発表された。
102人の患者を対象にして行われた臨床試験では、試験開始前の腫瘍サイズと比べて50%以上の腫瘍縮小(客観的奏効)が認められた患者は75%であり、3分の1の患者には完全な腫瘍退縮(完全奏効)が認められた。全体では、推定1年生存率は88%であった。【拡大】
試験責任医師の米国シティ・オブ・ホープ総合がんセンター所属のDr. Robert Chen氏によれば、試験に参加したほとんどの患者が化学療法や造血幹細胞移植といった標準的な一次治療や二次治療で完全奏効に達することができなかったハイリスク患者であることを考えると、この抗腫瘍効果はとりわけ印象的であるという。Chen氏は記者会見で、ブレンツキシマブは「この状況を考えると、単剤治療薬としての有効性が非常に高い」と述べた。
ホジキンリンパ腫の発症はほとんどが若年患者であり、臨床試験参加者の年齢の中央値は31歳であった。治療不応性の患者や自家造血幹細胞移植後に再発する患者の予後は一般に不良であると、記者会見でスタンフォード大学医療センターのDr. Ginna Laport氏は述べた。「通常、このような患者にしてあげられることがあまりないのです」と彼女は述べた。したがって、ブレンツキシマブの結果は「このような[患者]集団にとっては大きな突破口」である。
「このような患者に対してある程度の有効性を発揮する治療がないわけではないが、FDAがブレンツキシマブを承認したら、臨床現場の隙間をみごとに埋めるものとなるはずである」と、米国国立癌研究所(NCI) 癌研究センター(CCR)のリンパ腫治療部門のDr. Wyndham Wilson氏は語った。「確実に救援化学療法として、移植後再発に対する第1選択薬となるでしょう」と彼は語った。
臨床試験参加患者はブレンツキシマブ(別名SGN-35)を、16サイクルを上限として、3週間に1回、30分間かけて静注投与された。副作用は限られており、グレードの低い悪心、倦怠感、末梢神経障害であった。末梢神経障害により治療を中断しなければならなかった患者は約10%であり、この末梢神経障害は四肢の激しいヒリヒリする痛み(tingling)、灼熱痛、疼痛であることが多かった。しかし、大多数の患者でこのような症状は対処可能であり、多くの患者が治療を再開できたとChen氏は語った。
試験結果の背後にある技術
ブレンツキシマブは抗体—薬物複合体(ADC)である。CD30タンパク質に向かう抗体が、MMAEと呼ばれる有力な化学療法薬に化学的に結合されている。CD30タンパク質はホジキンリンパ腫の癌細胞表面に見つかることが多いが、正常細胞では1%未満に存在するのみである。
癌治療薬として現在承認されているいくつかの抗体とは異なり、ブレンツキシマブに配合されている抗体自体にはホジキンリンパ腫に対する抗腫瘍効果がないと、試験責任医師のテキサス大学M.D.アンダーソンがんセンター所属のDr. Anas Younes氏は説明した。むしろ、「この抗体によって、化学療法薬を直接ホジキンリンパ腫細胞へ送り込むという選択的送達が可能となりました」とChen氏は説明した。
抗体を化学治療薬へと結びつけている物質も非常に重要であると、NCIの癌治療・診断部門の癌治療評価プログラム所属のDr. Helen Chen氏は説明した。「第一に必要不可欠な要素は、この結合物質が血液中でも強度の安定性を持っていなければならないということでした」と彼女は述べた。「細胞につく前に薬剤を放出されても仕方ないのです」。
Helen Chen氏によれば、結合物質自身が、抗体部分を通じて付着する癌細胞のみを破壊できるか、もしくは薬剤部分を細胞外部から放出することで周囲の癌細胞を破壊できるか(しかしこの場合は正常細胞も破壊されてしまう可能性がある)という、いわゆる近接効果が発揮できるかをも判断する。ブレンツキシマブは近接効果が発揮されるよう設計されている。
結合物質の設計と選択に加えて、選択する抗体の標的と抗体が付着する「細胞毒性ペイロード」によりADCの安全性と有効性が決まる、と彼女は続けて述べた。
FDAの承認を受けた最初のADCの1つが、急性骨髄性白血病(AML)治療薬のゲムツズマブ(マイロターグ)であった。ゲムツズマブには化学治療薬オゾガマイシンと結合した抗CD33抗体からなる。しかし、ゲムツズマブはFDAが求める市販後試験で、化学療法薬との併用治療において化学療法薬の単剤治療薬を上回る有効性が認められず、さらに重篤な肝障害を合併し死亡リスクが高まることが示されたため、今年前半に市場撤退した。ブレンツキシマブとは、標的とする細胞表面抗原が異なるのはもちろんのこと、ゲムツズマブの結合物質は旧世代のものであり、化学療法薬の系統も異なっているとHelen Chen氏は指摘した。このようなことすべてが検証試験でのゲムツズマブの失敗につながったのだろうと同氏は語った。
数多くのADCが研究段階にある。たとえば、HER2標的抗体トラスツズマブ(ハーセプチン)と化学療法薬DM1とを結合したADCであるトラスツズマブーDM1薬剤は、乳癌に関する複数の臨床試験で用いられている。NCIではCCRのIra Pastan研究室が細菌毒素に対する抗体と結合する数多くのADCを開発した。このなかにHA22と呼ばれる複合体があり、ヘアリー細胞白血病患者に対する効果が有望視されており、現在MedImmune社による開発が進められている。
将来を見据えて
ネブラスカ大学医療センター所属のDr. Philip Bierman氏はわくわくするような結果だと称した。「これが前進だということは疑いありません。この薬を皆が使いだすようになることには疑問の余地がありません」と彼は述べた。この結果が今後どんな意義を持ってくるかを、腫瘍専門医は今まで以上に関心を持って見守るだろうと彼は述べた。
ホジキンリンパ腫の標準的な一次治療であるABVD療法と呼ばれる4剤併用化学療法と組み合わせて「この薬剤を前倒しで使えるようになることを、みんなが待ち望んでいると思います」と彼は述べた。ABVD療法は1970年代から用いられており、完全寛解がもたらされるのは患者の約70〜80%である。この非ホジキンリンパ腫治療に用いられるCD30標的モノクローナル抗体に言及して、「この薬は新たなリツキシマブの様になりえます」と、Bierman氏は述べた。(当初リツキシマブは三次治療薬としての有効性が認められたが、最終的には化学療法薬との併用治療により一次治療薬となった)。ABVD療法とブレンツキシマブを組み合わせた第1相試験がすでに始まっている。
「ホジキンリンパ腫の目標は治癒です」とWilson氏は強調した。したがって、初回治療として化学療法と組み合わせたブレンツキシマブ治療の試験を行うことは、「治癒率が向上するかを確かめるためであり」、まったく理に適っていると彼は述べた。
また、ASH年次総会では、ブレンツキシマブに関するより小規模な第2相臨床試験の結果も発表された。この試験は未分化大細胞リンパ腫という非ホジキンリンパ腫の一部の型を対象として行われた。試験結果は類似しており、全員が再発性もしくは難治性である患者の87%が客観的奏効を達成し、57%が完全寛解を得た。Seattle Genetics社はこの患者集団に対してもブレンツキシマブの承認申請をFDAに行う予定である。
— Carmen Phillips
関連記事:パノビノスタットがホジキンリンパ腫に有効である可能性もブレンツキシマブだけが再発性・難治性のホジキンリンパ腫治療に有望視されている試験薬ではない。HDAC阻害薬として知られる系統の薬剤であるパノビノスタットに関する129人の患者を対象とした第2相試験では、この患者集団に対する強力な抗腫瘍活性が示された。このうち客観的奏効が認められた者は30人、完全奏効が5人であった。 これらの結果もASH年次総会で発表された。試験責任医師であるバルセロナのHoly Cross and Saint Paul病院所属のDr. Anna Sureda氏の報告によれば、最も問題のある副作用は生命を脅かす程度の血小板数の顕著な減少であった。しかし、治療の一時中断や用量の変更により患者は回復した。 |
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窪田 美穂 訳
林 正樹(血液・腫瘍内科/敬愛会中頭病院)監修
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