乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)

米国食品医薬品局(FDA)>医療機器

乳房インプラントの移植を受けた人(*乳房再建術を含む)は乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)が発症するリスクがある。BIA-ALCLは乳がんではなく、非ホジキンリンパ腫(免疫系のがん)の一種である。BIA-ALCLは瘢痕組織およびインプラント付近の分泌液で確認される場合が多いが、全身に転移する場合もある。米国や世界中で乳房インプラントの移植を受けた人数に関する情報が不足しているため正確なリスクを判断することは困難である。

背景

米国食品医薬品局(FDA)は2011年、乳房インプラントが未分化大細胞リンパ腫(ALCL)の発症に関連している可能性を確認した。

当時FDAは未分化大細胞リンパ腫(ALCL)の症例についてほとんど認知していなかったため、どのような要因で患者のリスクが増加するのか判断するのが不可能であった。FDAの調査結果をまとめた報告書の中で乳房インプラントの移植を受けた人(シスジェンダーおよびトランジェンダーの男女)に発症したALCLの特徴をより一層明らかにするためさらに情報を収集する必要があることを強調した。

FDAはこの症状について時間をかけて理解を深めてきた。2016年、世界保健機構が乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)を乳房インプラント移植後に発症する可能性のあるT細胞リンパ腫に指定した。世界規模での報告に限界があるのとグローバルな乳房インプラント販売データが不足していることから正確な症例数を把握することは依然として困難である。現時点で、BIA-ALCLは表面構造が滑らかなスムーズタイプのインプラントより表面がざらざらしたテクスチャードタイプのものを移植したあとのほうが高い頻度で発症することがデータの多くで示唆されている。

FDAの取り組み

FDAは、乳房インプラントの移植を受けた女性に発症した未分化大細胞リンパ腫(ALCL)に関する情報収集と評価を継続する。

FDAは継続的に以下を実施する。

‐医療機器事故報告(MDR)を受領し調査する。

‐最新の医学文献を調査する。

‐米国および海外のその他監督機関および科学専門家と情報交換する。

‐アメリカ形成外科学会(ASPS)と形成外科財団(PSF)との共同研究であるPROFILE Registry(乳房インプラントの患者登録と結果および未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)の病因と疫学)から得たデータを調査する。

‐乳房インプラント製造会社がインプラントを移植した患者に発症したBIA-ALCLについて記載した情報や医療関係者向けの添付文書を調査する。

‐現在進行中の市販後調査から得た情報を審査する。

‐国立乳房インプラントレジストリ(National Breast Implant Registry)などその他実データから得た有害事象をモニターする。

現状

2016年以降、病気の説明および治療に関する奨励事項の記述が一部改訂された。下記にその概要を示す。

‐世界保健機構は乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)を乳房インプラント移植後に発症する可能性のある独特な形式の未分化大細胞リンパ腫(ALCL)ALCLと認定した。

‐形成外科財団や全米総合がんネットワーク(NCCN)を含む専門家機関は医師がその病気を理解し診断と治療を行う手助けとなる情報を公開した。

‐米国国外の規制機関がBIA-ALCLに関する情報を発表した。

‐豪保健省薬品・医薬品行政局(TGA)がオーストラリアで女性3人の死亡を含むBIA-ALCLの症状が確認された46人に対して実施した詳細な分析を発表した。2016年9月現在、TGAはオーストラリア人患者についてさらに10例の症例を確認した。

‐フランス医薬品・保健製品安全庁(ANSM)は、テクスチャードタイプの乳房インプラントの製造会社に生体適合性試験(生体組織がテクスチャードタイプのインプラントにどのような反応をするかを確認する試験)を実施し試験結果を報告するよう要請した。

医療機器事故報告

2017年9月30日現在、FDAはBIA-ALCLについて9人の死亡を含む414件の医療機器事故報告(MDR)を受けている。

414件のうち272件に報告時点のインプラントの表面についての情報が記載されており、テクスチャードタイプが242件、スムーズタイプが30件であった。414件のうち413件についてはインプラントの充填物の種類についての情報が記載されており、このうち234件がシリコンゲル、179件が生理食塩水であった。MDRにはBIA-ALCLと診断された時点のインプラントの情報が記載されているが、患者のインプラント移植歴についての情報は通常と異なり記載されていない。MDR で報告された症例の半分が移植後7~8年以内に診断された。BIA-ALCLと診断されたときに患者のインプラントが最初に移植したままのものなのか一度は取替したものなのかについて注目するのは重要である。

MDRの制度は貴重な情報源であるが、報告が正確であるかどうかに左右されるため、データが不完全、不正確、時期尚早、信ぴょう性がないまたは偏りがある場合もある。時間をかけて報告に関する情報をより多く収集する場合があり、結果として上記に記載した数字が変更する可能性もある。

加えて、事象を過少申告したり倍の数を報告したりする可能性やインプラント移植の正確な症例数についてのデータが不足しているため、MDRの報告から症例の合計を確定またはリスクを推測するのは困難である。

医学文献

2011年の報告以降、さらに確認された症例を記載した医学文献や病気の自然な経過および長期にわたる結果についての総合的に調査したものを記載した医学文献が大量に発行されている。そのような医学文献で報告された症例はテクスチャードタイプのインプラントを移植した人についてのものが大半であった。学会誌の記事の中には、ざらざらした表面を形成する方法や生物膜の役割などBIA-ALCLの発症について可能性のあるリスク要因を調査しているものがいくつかあった。発表された治療情報はインプラントやインプラント周辺の被膜の除去および一部の患者への化学療法および放射線治療についてのものが大半であった。

最近出版された文献にはテクスチャードタイプの乳房インプラントの移植を受けた人のBIA-ALCL発症リスクを推定しているものがいくらかある。テクスチャードタイプの乳房インプラントを移植した女性3,817人から30,000人に1人の割合でBIA-ALCLが発症するというさまざまな推定結果が最近の論文で発表された(Clemens他2017、Loch-Wilkinson他2017、De Boer他2018)。

推奨

医療従事者へ

医療従事者は乳房インプラントが移植された患者を診ている場合、定期的なケアとサポートを継続して行う必要がある。乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)は、遅発性の持続性漿液腫(インプラント周辺の液貯留)のためインプラント・リビジョン(補修)手術を受けた患者に頻繁に確認されている。入手可能な文献によると、報告された症例の半分がインプラント移植後の7~8年以内に診断されたものである。通常、疼痛、しこり、腫れ、または左右非対称など、遅発性の症状がある患者でのみ確認されているため、無症状の患者または他に異常が認められない患者に対する予防的な乳房インプラント除去は推奨されない。

形成外科財団および全米がん総合ネットワーク(NCCN)が現在推奨する措置は以下のとおり。

・手術前に製造会社の添付文書やその他の教材を患者に提示し、さまざまな種類のインプラントの有用性とリスクについて必ず認識させる。BIA-ALCLの発生が確認された大部分の症例はテクスチャードタイプの乳房インプラントが移植された女性に発症している。

・自分の患者に遅発性の持続性インプラント周囲漿液腫がいる場合BIA-ALCLの可能性を考慮する。インプラント周辺に被膜拘縮または腫瘤が認められる患者もいる。患者にBIA-ALCLの疑いがある場合その患者の症例を集学的な腫瘍委員会に評価を依頼する。

・BIA-ALCLの有無を試験する際に、新鮮な漿液腫液や被膜の代表的な部分を採取し病理検査に送りBIA-ALCLの除外診断を行う。診断評価にはライトーギムザ塗抹標本を使った漿液腫液の細胞学的評価およびセルブロックを使った分化抗原群列(CD)マーカーや未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)マーカーの免疫組織化学検査も含むこと。

・患者の集学的治療チームと連携して個別化した治療計画を作成する。治療法を選択する際に、形成外科財団や全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)などの臨床診療ガイドラインを考慮する。

・乳房インプラントの移植を受けた人に確認されたALCLの症例はすべてMedWatch(FDA 安全性情報および有害事象報告プログラム)経由でFDAに報告する。FDAの研究用施設報告義務の対象施設に雇用されている医療従事者は雇用先が定めた報告手順に従うこと。さらに情報を得るためFDAが報告者に連絡を取る場合もある。FDAは報告者や患者の身元は極秘として扱う。

・乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)の症例報告書をPROFILE Registryに提出し、BIA-ALCLの原因や治療法のより一層の理解に貢献する。

患者の皆様へ

患者は手術に同意する前に、乳房インプラントについてご自身でも知識を得てください。米国で承認されている乳房インプラントの充填物は生理食塩水かシリコンゲルです。大きさや形状はさまざまであり、表面(外皮)の材質は滑らかなものかざらざらしたものかのどちらかです。さらに情報を得たい場合はFDAのウェブサイト内のBreast Implantsのページを参照してください。

乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(ALCL)は、スムーズタイプよりもテクスチャードタイプを移植した人のほうに発症するとみられています。乳房インプラントの移植を受ける前に医療従事者にスムーズタイプとテクスチャードタイプの両方の有用性とリスクについて必ず相談してください。

乳房インプラントを移植している場合は日常的なケアと経過観察を変更する必要はありません。術後は腫れや痛みがあることを予想しておきましょう。手術から回復した後インプラント周辺の腫れや痛みなど、乳房の見た目や感じが変わったことに気が付いた場合は乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(ALCL)の可能性について医療従事者に必ず相談してください。

乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(ALCL)と特定されない場合であっても、下記に示す医療の推奨ガイドラインに従ってください。

・乳房インプラントの観察方法については医師の指示に従いましょう。変化に気づいた場合はただちに医療従事者に連絡を取り診察の予約をとってください。

・マンモグラフィによる定期検診については医師の指示に従ってください。また、インプラントを移植しているため十分に時間をとって乳房撮影を行うよう必ず検診施設に伝えてください。医師はMRI検査などその他検査を推奨する場合があります。

乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(ALCL)についてさらに詳しく解明するために、乳房インプラント関連の未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)と確認された症例すべてをできるだけ詳細にFDAのMedWatchプログラム経由で引き続き報告してください。

最新の情報や分析結果は新たに報告されれば、FDAは重要な研究結果について引き続き報告します。

翻訳担当者 松長 愛美

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)、 

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原文掲載日 

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