CAR-T細胞療法後の二次がんリスクを知る

2023年11月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法を受けた人において二次がん、特にT細胞リンパ腫が発生した20例以上を調査中であると発表した。いくつかの例では、CAR-T細胞療法に使用された遺伝子が二次性T細胞リンパ腫に存在し、人工T細胞が腫瘍を引き起こした可能性があると指摘した。

2024年6月4日、CAR-T細胞療法後の二次がんに関する最大規模の研究の1つと、CAR-T細胞療法後にT細胞リンパ腫を発症した患者1人に関する症例報告が、New England Journal of Medicine(NEJM)に同時に掲載された。

このQ&Aでは、CAR-T細胞を含む遺伝子改変T細胞療法の開発および試験を専門とするNCIがん研究センターのStephanie Goff医師が、CAR-T細胞療法と二次がんに関する知見として追加された2研究について述べる。またこの問題が患者と本研究領域にとって一般論として何を意味するかという点についても言及する。

NEJMに掲載された2つの報告を簡単にご説明いただけますか?

Goff医師: どちらの報告も、CAR-T細胞療法と二次がんとの因果関係を特定できるかどうか、非常に詳細に調べたものです。

1つは、1カ所のがんセンターでCAR-T細胞療法を受けた700人以上を対象とした研究です。9年間に二次がん25例が診断されました。このうちT細胞リンパ腫は1例のみでした。T細胞リンパ腫にCAR遺伝子の証拠はみつからず、CAR-T細胞療法が腫瘍を直接引き起こしたのではないと結論づけました。

もう1つの報告は、多発性骨髄腫治療のために受けたCAR-T細胞療法から約5カ月後にT細胞リンパ腫を発症した患者1人の症例研究です。研究チームは、T細胞リンパ腫細胞にCAR遺伝子の証拠をみつけるとともに、細胞が腫瘍化する原因となる他の遺伝子変化も発見し、CAR-T細胞療法が患者の二次腫瘍の発生に「おそらく関与した」と結論づけました。

CAR-T細胞療法は20年前から臨床試験で検証が行なわれ、広く利用できるようになって7年近くになります。なぜ今になって二次T細胞リンパ腫が報告されるようになったのでしょうか?

Goff医師: いくつかの要因があります。

まず、新規の治療法はどんな種類であっても、まず10人、20人、30人という小規模の臨床試験から始め、その後、通常は数百人が参加する大規模臨床試験に移行します。これらの試験は通常、治療に関連する一般的な副作用や安全性の懸念を特定するのに十分な規模です。こうして私たちは、サイトカイン放出症候群(CRS)や、神経毒性(ICANS)など、CAR-T細胞療法の一般的な副作用を特定し、その対処法を確立してきました。

しかし、発生頻度が非常に低い問題の場合、その治療法がもっと大勢の人々に使用されて初めて、そのような問題が存在するという「シグナル」に気づくことになります。ですから、34,000人以上がCAR-T細胞療法を受けるようになった現在、そのようなシグナルを察知できるようになったのです。

第二に、その一方で、「サバイバー・バイアス 」と呼ばれる状態もみえてきました。つまり、CAR-T細胞療法が利用できるようになる以前は、あまり長くは生きられなかった、多くはわずか数カ月しか生きられなかったであろう患者について考える場合です。今では多くの患者が何年も生きており、原発がんが治癒した患者もいるため、二次がんが生じてくる時間もあるわけです。

それでは主な懸念は、CAR-T細胞が第二のT細胞性腫瘍を引き起こす可能性があるということですか?

Goff医師: はい。しかし、重要なことは、こうした特定の二次腫瘍は、研究者の間で議論されてきた既知の仮説的リスクであり、これらの治療法を含む臨床試験に参加する人に事前に説明されてもいます。

遺伝子改変T細胞の患者への投与が、理論的に二次性T細胞腫瘍の発生につながる可能性にはいくつかのパターンがあります。

まず、CAR-T細胞療法を行うには、患者から採取したT細胞に新しい遺伝物質を挿入します。CAR-T細胞療法の承認済み製造技術を用いれば、私たちのDNA内の300億以上の異なる位置のどこかにランダムに新しい物質を挿入することができます。この新しく挿入された物質が、意図せずに腫瘍遺伝子を活性化したり、腫瘍抑制遺伝子を混乱させたりする可能性があります。挿入型腫瘍発生と呼ばれるプロセスです。これに対して私たちは、そのような問題の可能性を減らすために特別な措置を講じています。

可能性としてはさらに低くなりますが、改変T細胞を研究室で急速に増殖させた場合、その過程でT細胞に何らかの変化が生じ、がん化(腫瘍化)する可能性があります。

根底にある問題の1つは、私たちが使用しているT細胞の採取元である患者はすでに血液腫瘍を発症し、数多くの化学療法を受けている確率が高いことです。これらのT細胞には、輸注後いずれは腫瘍化するリスクが高い因子の未知の組み合わせがあるかもしれません。

このため、CAR-T細胞療法を受けた患者に対しては少なくとも15年間は追跡調査を続けて、こうした問題に気を付けていなければならないのです。

他の種類の二次がんのリスクについてはどうですか?

Goff医師: この問題が複雑である理由の一つは、血液腫瘍に罹患している人には、そもそもその腫瘍の発症に至った複合的な要因がすでにあることです。そのため、長期にわたる変異の蓄積や既知の遺伝的危険因子など、根本的な問題がCAR-T細胞療法を受けた後も残っています。つまり、最初の腫瘍をやっつけても、二次がんの根本的リスクがなくなるわけではないのです。

もう一つ留意すべきことは、CAR-T細胞療法を行う前に、患者さんに強力な化学療法を行う必要があるということです。この化学療法によって、人工T細胞はわれわれが求める働きをすることができるのですが、将来的に二次がんを引き起こす可能性もあるのです。

それでも、これまでに得られたデータからは、がん種を問わず二次がんが発生することはまれであることが強く示唆されています。

二次がんのリスクは現状としてすでに非常に低い水準にあると思われますが、これをさらに下げる方法はありますか?

Goff医師:研究チームの中には、CAR-T細胞療法の前に行う高用量化学療法に代わる方法を検討しているところもあります。他の免疫細胞を殺し、CAR-T細胞の増殖を促す環境を作り出すことが目的です。

CAR-T細胞療法全体ががんに対して有効である限り、高用量化学療法に代わる、より安全な治療法がみつかれば素晴らしいことです。CAR-T細胞療法を受けた白血病やリンパ腫の患者さんで今日みられる、長期にわたる完全奏効の高い確率を損ないたくないというのは確かです。

多発性骨髄腫の場合、CAR-T細胞療法による完全奏効は白血病やリンパ腫に比べて低いのですが、これらの治療法は大きな価値があります。CAR-T細胞療法によって、多くの多発性骨髄腫患者が治療を受けずに済む期間がどんどん長くなっており、これはこの病気の患者にとって本当に重要なことです。

二次がんのリスクを減らすための他のアプローチも研究されています。ベクターの作用によって発症する挿入型腫瘍発生のリスクは低いと考えられています。一方で、CAR-T細胞療法に関する既存の方法と同様の優れた治療成績を維持しながら、そういったリスクをさらに低減する他の方法を研究しているグループもあります。

例えば、CARの遺伝子情報をより標的を絞って配置する方法をテストしているグループもあります。また、がんを発症していない人のT細胞(同種CAR-T細胞)を使用する「既製」療法を研究しているところもあり、これによって、挿入部位の違いによる影響を事前に徹底的に調べることができるようになります。

では、全体として、CAR-T細胞療法と二次がんのリスクについて、メッセージをお聞かせください。

Goff医師: CAR-T細胞療法を受けた患者さんのモニタリングについては、引き続き注意が必要です。私たちは、CAR-T細胞療法試験に参加した患者を15年間追跡調査していましたが、基本的にはこれらの患者を生涯にわたって追跡調査することになりました。二次がんのリスクは非常に低いのですが、これらの研究が指摘しているようにゼロではありません。

全体として、私は血液腫瘍に対するCAR-T細胞療法に対して必要以上に恐れることはないと考えています。多くの患者が、以前にはなかった効果的な治療の選択肢を得て、より長く、より質の高い人生を送ることができるようになるのですから。

  • 監修 佐々木裕哉(血液内科/筑波大学血液内科)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/08/13

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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