抵抗性アグレッシブB細胞リンパ腫への5剤併用療法で持続的寛解
米国国立衛生研究所(NIH)の研究者らは、化学療法を用いない治療法を開発した。この療法は、再発した、あるいは標準治療が効かなくなったアグレッシブB細胞リンパ腫の一部の患者に対して完全寛解を達成している。この5剤併用療法は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の腫瘍がその生存のために利用する複数の分子経路を標的とする。
NIH国立がん研究所(NCI)の臨床試験において、研究者らは、リンパ腫として最も多くみられるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者50人を対象に、ベネトクラックス、イブルチニブ、プレドニゾン、オビヌツズマブ、レナリドミドの併用療法(ViPOR)を試験した。この治療により、評価可能な患者48人中26人(54%)で腫瘍が大幅に縮小し、そのうち18人(38%)では腫瘍が完全に消失した(完全奏効)。2年後、全患者の36%が生存し、34%が無病であった。これらの効果は主にDLBCLの2つの特定のサブタイプの患者で認められた。
この研究結果は2024年6月20日にNew England Journal of Medicine誌に発表された。
「標準治療が効かなくなったこれらの患者の多くは、この治療を受けなければ1年以内に死亡していたであろうが、現在では2年以上、中には4年以上生存している患者がかなりの割合でいます」と、本試験の共同責任者であるChristopher J. Melani医師(NCIがん研究センター)は述べた。「このような長期にわたる寛解や治癒の可能性が患者さんにみられるのは喜ばしいことです」。
これまでの研究で、活性化B細胞様(ABC)DLBCLや胚中心B細胞様(GCB)DLBCLなど、異なる分子サブタイプのDLBCLの発生と生存に関与するさまざまな遺伝子経路が同定されてきた。標的薬はこれらの経路の一部を遮断する効果を示したが、代わりの生存経路があって腫瘍が抵抗性を示すことがあるため、個々の薬剤が患者に持続的な効果をもたらすことはまれであった。Melani医師らは、複数の生存経路を遮断する標的薬を組み合わせることで、より持続的な効果が得られるのではないかと考えた。
研究者らは、DLBCL細胞を相乗的に死滅させるためにどの標的薬を組み合わせるのが最も効果的かを分析した実験研究に基づいて、ヒト試験で試験する5剤併用レジメンをデザインした。患者において標的薬が相乗的に作用するように、研究者らは2週間サイクルで薬剤を同時に投与した。副作用の蓄積を抑えるため、各サイクルの間には1週間の休薬期間を入れた。
「DLBCLは遺伝子学的に不均一性が非常に高い腫瘍の一つであるため、ある特定の患者にとって最も効果的となる薬剤の組み合わせを正確に特定することはまだできません」と、Melani医師は言う。「5剤同時投与によって、2つ、3つ、あるいはそれ以上の薬剤組み合わせが、その患者の腫瘍に特に奏効するのだろうと思います」。
第1b/2相試験では、再発したか、治療が効かなくなったDLBCL患者50人にViPORレジメンを6サイクル投与した。ViPORに対する奏効はDLBCLサブタイプによって異なり、完全奏効は非GCB DLBCL(13人中8人(62%))、高悪性度B細胞リンパ腫「ダブルヒット」と呼ばれるGCB DLBCL(15人中8人(53%))という2つのサブタイプに集中してみられた。
2年後、非GCB DLBCLおよびダブルヒットGCB DLBCLの患者は、本試験の他の患者よりも無増悪生存率、全生存率ともに高かった。非GCB DLBCLとダブルヒットGCB DLBCLは、ViPORが標的とする生存メカニズムに大きく依存していることから、併用療法に特によく反応したのは理にかなっている。ViPORはまた、再発DLBCL患者に対する現在の標準治療であるCAR-T細胞療法が奏効しなかったか、CAR-T細胞療法後にリンパ腫が再発した患者20人中6人(30%)でも持続的寛解を達成させた。
5剤併用レジメンの副作用は、標準治療と比較すると概して軽度から中等度であり、休薬期間中に改善した。副作用を含むさまざまな理由で早期に治療を中止せざるを得なかった患者は5人のみであった。これらの比較的軽度から中等度の副作用を考慮すると、ViPORにさらに薬剤を追加して有効性を改善できる可能性がある、と研究者らは述べている。研究チームはまた、これまでの治療法に抵抗性を示す他のタイプのリンパ腫患者を対象としてViPORレジメンを研究している。
研究者らは、非GCB DLBCLおよびダブルヒットGCB DLBCL患者におけるViPORの活性を確認するために、多施設で実施される大規模第2相試験を開発している。ViPORに反応しにくいGCB DLBCLのサブタイプに対する治療法を開発するためには、さらなる研究が必要である。
NCIがん研究センターのWyndham H. Wilson医学博士、Mark Roschewski医師、Louis M. Staudt医学博士がMelani医師と共同で研究を主導した。NIHのNational Center for Advancing Translational Sciencesや他の研究機関の研究者が本研究に貢献した。
- 監訳 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)
- 記事担当者 山田登志子
- 原文を見る
- 原文掲載日 2024/06/19
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
リンパ腫に関連する記事
【米国血液学会(ASH24)特別版】ーMDアンダーソン研究ハイライト
2024年12月26日
ニボルマブは進行ホジキンリンパ腫の治癒率向上につながる可能性
2024年11月19日
約...
CAR-T細胞療法後の二次がんリスクを知る
2024年9月12日
ASCO2024:ダナファーバーがん研究所の発表(リンパ腫、乳がん、脳腫瘍)
2024年8月21日
ダナファーバーがん研究所の研究者らは、中枢神経系(CNS)リンパ腫、乳がん、神経膠芽腫の患者の治療において有望な結果をも...