統計データから見る原発性と二次性AML
NCIニュース特集
時に、癌のより複雑な科学的側面が、罹患率の増加や低下の影に隠されてしまう場合がある。たとえば、主に中高年層に発症する比較的稀な白血病、AML(急性骨髄性白血病)がある。NCIなどが連邦年次報告書に最近発表したデータでは、2013年に米国内でAMLを発症するのは14,000人、それにより死亡するのは10,000人と推定されている。AMLサバイバーの平均余命は過去10年間で徐々に伸びてきているが、これは主に支持療法の発展によるものであり、患者が受ける治療の進歩によるものではない。
AMLは、原発性、すなわち他の癌が診断される前に発症する形が最も多く、発症あるいは進行に関与するまとまった一連の遺伝子変異を示さない。二次性AMLは、化学療法などの以前に受けた治療と主に関連している。
1970年代半ばから、米国における全AMLの年間新規発症率は、二次性AMLを含めても100,000人あたり約3.5件となっている。
下図にあるように、1970年代初頭から原発性AMLの発症率はさらに横ばいで、年間100,000人あたり新規症例が約3件の割合で推移している。
(キャプション:グラフは1970年~2010年の原発性および二次性AMLの推移 )
しかしながら注目すべきは、これらの数を詳しく解析すると、2001年から2008年に関する包括的な報告ではほとんどのAMLのサブタイプについて、年齢とともに発症率が大きく増加していることが示されたという点である。また、このデータでは、ある種のAMLサブタイプの発症率において、人種間で統計的に有意な差異がみられた。このように、表面的には単純な傾向に見えても、データの切り取り方を変えれば思いがけない事実が数多く浮かび上がることがあるのである。
この癌種の遺伝学的な基礎、および化学療法後の治療関連AML発症リスクの解明に専門家らが何年も費やしてきたのは、これらの若干分散した傾向による部分もある。研究者らはある種の化学療法が、患者が年齢を重ねてから二次性AMLを発症しやすくなる、という重大なリスクをはらんでいることを知っている、しかしこれは、現在の癌を治療するためには冒さざるを得ないリスクなのである。さらに、患者の最初の癌に対する治療によって、後のAML発症には遺伝的感受性があるとする予備的研究もある。
2013年2月のBlood誌に発表された研究によると、最初に非ホジキンリンパ腫(NHL)治療を受けた患者における二次性AMLリスクは、その後20~30年間、着実に増加するという。研究者らは、同じ期間で、卵巣癌、骨髄腫、さらにおそらく肺癌に対する治療を受けた患者においては、リスクが減少することを見出した。著者らは、NHLサバイバーにおけるリスク上昇は、複数回の化学療法を行う一部のリンパ腫サブタイプの近年の生存期間延長に起因する可能性を示している。卵巣癌患者のリスク減少は、1980年代初頭のメルファランというアルキル化剤からプラチナ製剤を用いた化学療法への転換と一致している。
癌起源に関して考えられる仮説のもととなったデータの大部分は、現在、米国人口の約28%を対象としている人口ベースの癌登録データベースから癌の発生率、死亡率、および生存率に関するデータを集めたNCIのSurveillance, Epidemiology, and End Results (SEER)プログラムによるものである。この情報はCancer Statistics Reviewと呼ばれるウェブ情報源として公表される。SEERプログラムは1973年からデータの収集をしており、AMLに関連するような、長期間にわたるデータの傾向を評価する研究者にとって大変有益な情報源となっている。データ収集に加え、SEERは疾病対策予防センター(CDC)の全米保健医療統計センターによるデータに基づき、全米の死亡率および傾向を取りまとめ、報告している。
また、SEERは、統計学者がある特定の癌における変化や傾向を突き止めた際に、状況をさらに詳しく評価できるように新たな種類の情報を集めることでそれらの変化に対応できるという点でも比類ないものといえる。たとえば、2000年から、SEERはAMLに移行する可能性のあるMDS(骨髄異形成症候群)およびCMD(慢性骨髄増殖性疾患)に関する情報の収集を始めた。しかしながら、これにより新たな問題が持ち上がった、つまり、MDSあるいはCMDとして収集した症例データが後にAMLに移行した場合、それは新たな腫瘍ではないため、AMLとして記録されないということである。そのため、MDSやCMDからの移行例であっても、AMLとして情報を集めるために、2010年の症例データの評価に変更が付け加えられた。MDSあるいはCMD後に発症したものも含めたAMLの症例を集めるためのこの変更により、次年に数の増加があるか否か、SEER専門家らはこれらの症例を注意深く観察していくことになるであろう。特筆すべきは、症例数が限られているために、この疾患を統計的に捉えることが難しいという点である。
AMLの研究者らが、全国的な癌症例データを用いて、この非常に不可解かつ複雑な癌に対する理解を深めるための研究を行ってきたように、遺伝学者らがこれらの統計から重要な見解を得る助けとなるべく、データの改良を継続しより多くの癌症例を網羅する取り組みが必要である。
原文:http://www.cancer.gov/newscenter/featurednews/2013/LeukemiaFirstSecond
翻訳担当者 河原恭子
監修 吉原 哲(血液内科/コロンビア大学CCTI)
原文掲載日
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