CAR-T細胞療法は侵攻性リンパ腫に有益

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

個別化免疫療法の一種であるCAR-T細胞療法は、一部の侵攻性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治癒に役立つ可能性がある。これは、CAR-T細胞療法であるアキシカブタゲン シロルユーセル[axicabtagene ciloleucel](販売名:イエスカルタ、略称:axi-cel)の大規模ランダム化第3相臨床試験の最新の結果により明らかになった。

侵攻性非ホジキンリンパ腫の最も一般的な型であるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された患者は、化学療法による初期治療で治癒することが多い。しかし、治癒しない患者については、さらに過酷な化学療法や幹細胞移植を行っても、治癒の見込みが不確実であった。

現在、ZUMA-7臨床試験から得られた新しいデータは、axi-celと呼ばれることが多いこのCAR-T細胞療法が、この治癒しない患者群に真の希望を提供できることを強く示唆している。

研究者らは6月5日、米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で研究結果を発表した。研究者らは、axi-celによる治療を受けた患者の約55%が4年後も生存すると推定し、再発疾患に対して標準治療を最初に受けた患者の46%と比較している。

「これは、初期治療が奏効しない、または再発の大細胞型B細胞リンパ腫患者の全生存期間を有意に改善した、約30年ぶりの試験です」と、本試験の責任者であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのJason Westin医師は述べた。

また、患者を4年近く追跡し、生存している患者は治癒している可能性が高いと、Westin医師は付け加えた。

これらの結果から、現在、早期再発、または初期の標準治療に抵抗性が証明されたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者にとって、axi-celが好ましい治療であると、NCIがん研究センターのChristopher Melani医師は説明した。「今後の研究において、axi-celは今後の治療法を改善するための基準となります」とのことである。

生存期間の明らかな改善

最近まで、再発または治療抵抗性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を消失させる可能性のある唯一の治療法は、さらに高用量の化学療法を行い、その後に自家幹細胞移植を行うことであった。これは、治療前に患者の健康な造血幹細胞を血液または骨髄から採取し、高用量の集中化学療法後に患者に戻すものである。

しかし、この治療に耐えられる健康な患者は約半数に過ぎない。そして、この治療に耐えられる患者のうち、治癒に至るのは4分の1以下である。

この状況は2021年に変わり始めた。2つの大規模臨床試験の結果、CAR-T細胞によって治療抵抗性または再発の大細胞型B細胞リンパ腫患者が、がんを悪化させることなく生存期間を改善できることが示されたのである。

2018年に患者募集を開始したZUMA-7試験から得られた初期の知見により、初回治療で消失しなかった、または初回化学療法から12カ月以内に再発したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の成人患者を対象に、2022年に米国食品医薬品局(FDA)はaxi-celを承認した。この承認は、治療後に非ホジキンリンパ腫が悪化し始めるまでの期間を含む無イベント生存期間と呼ばれる指標の改善に基づいている。しかし、axi-celが患者の全生存期間を改善するかどうかはまだ明らかではない。

ZUMA-7試験では、高用量化学療法を追加し、自家幹細胞移植を受ける可能性があるほど健康であると判断された患者が登録された。この併用療法は現在、治療抵抗性または再発のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の標準治療とされている。

現在承認されているすべてのCAR-T細胞療法と同様に、axi-celは患者自身の免疫細胞を用いて治療を行うという点で、真に個別化された治療法である。

axi-celの製造元であるKite Pharma社が資金提供したZUMA-7試験において、研究者らは無作為に180人をaxi-cel治療群に、179人を標準治療群に割り付けた。両群間の差はすぐに現れた。axi-cel治療群では94%の人がCAR-T細胞による治療を受けたが、標準治療群では化学療法にもかかわらず病勢が進行し続けている場合が多かったため、36%しか幹細胞移植を受けることができなかったと、Westin 医師はASCO総会で 説明した。

このような急速な病勢進行のため、標準治療群の参加者の57%は、病勢が悪化した後に(ほとんどの場合、axi-celによる)CAR-T細胞療法を受けた。

標準治療群の多くの患者がCAR-T細胞療法に急速に切り替えたにもかかわらず、axi-cel治療群の生存期間の大幅な改善は維持された、と、Westin医師は強調した。

axi-celは当初、2017年にFDAによって三次以降の治療として承認された。つまり、2種類以上の治療を行っても病勢が悪化し続けたり再発したりした患者にのみ投与することができたと、Melani医師は説明した。しかし、ZUMA-7試験の知見は、axi-celを使用するのにそれほど長く待つことはもはや最良の治療法ではないことを示している。「化学療法を最初に受けた患者は、その患者の多くがCAR-T細胞治療に移行しても、生存率が悪化しました。この研究により、axi-celは望ましい二次治療選択肢となりました」と、Melani医師は述べた。

axi-celを含むCAR-T細胞療法には、化学療法後とは異なる重篤な長期的副作用が生じる可能性がある。短期的には、サイトカイン放出症候群と呼ばれる危険な免疫系反応、神経学的影響、体内の休眠ウイルスの再活性化などがある。長期的には、免疫抑制が起こり、二次がんを引き起こす可能性がある。

最新のデータ解析の時点で、axi-cel治療群では82人が死亡したのに対し、標準治療群では95人であった。axi-cel治療群では7人が治療に関連した副作用で死亡したのに対し、標準治療群では2人であった。しかし、最新のFDA承認につながったZUMA-7試験データの解析以降、axi-celによる治療に関連した新たな死亡例は発生していない。

公平性とアクセスの問題

CAR-T細胞療法が非ホジキンリンパ腫のような血液がん患者に対して有効であることが証明されつつある一方で、この治療選択肢を誰でも選べるわけではないことが問題となっている。

「これは(CAR-T細胞療法の)落とし穴のようなものです」と、Melani 医師は述べた。「誰もがCAR-T細胞療法を受けられるわけではありません」。

CAR-T細胞療法をめぐる最大の問題の一つはコストである。「この治療には50万ドル以上の費用がかかります」と、Melani 医師は説明した。

「コストを(中略)手の届くレベルまで下げなければなりません」と、ASCO総会で講演したメイヨークリニックがんセンターのAsher Chanan-Khan医師は述べた。一部の大学病院ではCAR-T細胞を自家生産しており、価格が大幅に下げられる可能性があると、Melani医師は説明した。

しかし、CAR-T細胞療法には、この治療への公平なアクセスに影響する他の側面もあると、カンザス大学がんセンターのLeyla Shune医師は説明する。同医師はASCO総会において、公平性とCAR-T細胞療法に関する問題について考察している。

CAR-T細胞療法特有の、そしてしばしば危険な副作用の管理には、広範な訓練と実践が必要である。そのため、CAR-T細胞療法は現在、特定の専門センターでしか実施することができず、これらは多くの患者の自宅から数百マイルも離れていることが多いと、Shune医師は説明する。また、CAR-T細胞療法を受ける前に化学療法を行い、受けた後は回復に時間がかかるため、患者は数週間から数カ月仕事を休まなければならないこともある。

「私の住んでいる州にはCAR-Tセンターが2つしかなく、患者は私のところに来るために(最大)8時間かかるのです」と、Shune医師は述べた。将来的には、CAR-T細胞療法をより公平に受けられるようにするため、患者支援プログラムには、移動支援や宿泊費補助のようなサービスを含める必要があるかもしれません」と、Shune医師は説明した。

期待される他の選択肢

今のところ、CAR-T細胞は再発または抵抗性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の多くの患者にとって、変革をもたらす治療になりそうである。しかし、CAR-T細胞だけではない。

臨床試験では、再発または治療抵抗性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者を対象に、二重特異性抗体(BiTE)と呼ばれる別のタイプの免疫療法も試験されていると、Melani医師は説明した。これらの薬剤は、免疫細胞とがん細胞に同時に結合し、がん細胞同士を接近させることで免疫細胞ががん細胞を見つけやすくし、破壊することを可能にする。

glofitamab[グロフィタマブ](販売名:Columvi[コルムビ])とepcoritamab[エプコリタマブ](販売名:Epkinly[エプキンリー])の2つのBiTEは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療以降の治療薬として、最近、早期承認され、他の臨床試験では早期の治療薬として試験されている。

CAR-T細胞療法とは異なり、BiTEは「棚から取り出してすぐに使える」薬剤であり、患者ごとに製造する必要がない。この特徴により、多くのがん患者が治療を受けている小規模の病院で投与することができ、患者にとって利用しやすくなると、Melani医師は説明した。

NIH臨床センターで行われているViPOR試験やViPOR-P試験のような他の臨床試験では、リンパ腫細胞の既知の脆弱性を攻撃するように選択された標的薬のカクテルが試験されている。

「今、侵攻性リンパ腫の治療において、患者を延命する多くの新しい治療法が登場し、希望がもてる時代にあります」と、Melani医師は述べた。

  • 監訳 佐々木裕哉(血液内科/筑波大学血液内科)
  • 翻訳担当者 会津麻美
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  • 原文掲載日 2023年07月10日

【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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