腸内細菌叢移植が幹細胞移植後の治癒に役立つ可能性

フレッドハッチンソンがんセンター

特定のドナーから得た安全量の細菌叢はがん患者の腸内細菌叢の回復に役立つことが、第2相臨床試験で示される

経口腸内細菌叢移植(FMT)は、血液腫瘍で幹細胞移植を受けた患者の移植片対宿主病(GVHD)を予防する上で適切かつ安全に追加できることが、新たな試験で示された。
 
1月25日にNature Communications誌に発表されたこの試験は、フレッド・ハッチンソンがん研究センターの医師が主導する第2相臨床試験の一部である。この試験は、幹細胞移植後の患者の回復に役立つ腸内細菌叢の役割を検討した過去の研究に基づいている 。

「腸内細菌叢はそれ自体が器官であり、免疫系とつながっています」と、フレッド・ハッチンソンがん研究センターの腫瘍内科医で筆頭著者のArmin Rashidi医師(医学博士)は述べた。「幹細胞移植の過程は腸内細菌叢にダメージを与えるため、腸内細菌叢移植が細菌の多様性を回復させ、健康な免疫系をサポートする有益な細菌種を促進するかどうかを検証することが目的でした」。
 
この試験には、血液腫瘍を含むさまざまな血液疾患の治療のために同種幹細胞移植を受けた患者20人が参加した。患者に経口カプセルを1日3回7日間投与することで腸内細菌叢移植を行った。カプセルには、健康なドナー3人の便検体から抽出した精製細菌叢が含まれていた。
 
カプセルは、FDA承認の試験実施計画書と厳格な医薬品基準に従って、ミネソタ大学細菌療法プログラムによって製造された。
 
「このカプセルはもともと、再発性クロストリディオイデス・ディフィシル感染症の治療のために開発されましたが、現在ではさまざまな適応症について研究されています」と、論文の共著者でミネソタ大学医学部の消化器科医であるAlexander Khoruts医師は述べた。「クロストリディオイデス・ディフィシルの治療とは異なり、ほとんどの適応症では腸内細菌の配合を最適化する必要があります。フレッド・ハッチンソンがん研究センターの試験は、ドナー由来の細菌治療薬の開発における次の段階を示しています」。
 
主な結果:
・ドナーの違いは重要:この試験では、異なる3人の腸内細菌叢移植ドナーを分析し、それぞれがレシピエントに定着する程度に顕著な違いがあることが判明した。ドナー3が最も効果的で、67%の細菌生着率を達成した。これは、腸内細菌叢移植後の細菌の起源を確実に特定できる細菌のうち、67%がドナー由来で、残りが患者由来であることを意味する。この「勝者」ドナーは、有益な細菌であるBifidobacterium adolescentisの値が高いという特徴があった。
 
・細菌叢の多様性が成功に影響:これまでの研究と一致して、本試験では、患者の腸内細菌叢移植前の細菌叢の多様性が低いほど、ドナーの細菌叢の生着がよくなることが判明した。これは、腸内細菌叢移植前の腸内環境の多様性が低いと、移植された細菌が定着しやすくなる可能性があることを示唆している。
 
・腸内細菌叢移植は安全:腸内細菌叢移植は、免疫不全の患者でも安全であることが証明されている。数百万の生きた細菌を患者に移植しても、感染は起こらなかった。これは、おそらく、それらが健康なドナーからの「健康な」細菌であったためである。腸全体の健康をサポートし、移植片対宿主病から保護することが知られているいくつかの細菌種では、100%移植できた。
 
「私たちの試験は、臨床試験で適切な規制に従って実施された場合、腸内細菌叢移植は安全であることを示しています」とRashidi医師は述べた。「免疫不全の人々に生きた細菌を与えることに懸念がありましたが、本試験とそれに先立つ2023年の試験で重大な毒性が認められなかったことは、患者やその家族に安心感を与えるはずです」。
 
Nature Communications誌では、本臨床試験の「導入」期間について報告されている。「導入」期間とは、現在積極的に患者を登録しているより大規模なランダム化試験に使用するため、3人の便ドナーの中から最適なドナーを見つける準備段階である。
 
Rashidi医師が主導するランダム化第2相臨床試験では、腸内細菌叢移植が同種幹細胞移植を受けた患者の健康状態を改善するかどうか(急性移植片対宿主病の減少、入院回数の減少、感染症の減少、生活の質の向上、生存期間の延長など)を研究する。この試験では、患者126人が参加し、Nature Communications誌に掲載された試験で特定された「勝者」ドナーからの腸内細菌叢移植を受ける群またはプラセボ群にランダムに割り当てられる。試験施設はシアトルのフレッド・ハッチンソンがん研究センターである。
 
「幹細胞移植を受けた患者に腸内細菌叢移植を行うことで、免疫抑制を伴うことなく急性移植片対宿主病を予防し、生活の質を向上させ、移植後の死亡率を低下させることが目標です」とRashidi医師は述べた。「Nature Communications誌に掲載された私たちの試験結果は、人間の健康を改善する上でどのように腸内細菌叢を使用できるかを示した、根拠に基づく1例です」。
 
腸内細菌叢移植を調査するその他の臨床試験では、自閉症、大腸炎、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群の治療に焦点を当てている。2023年、米国FDAは感染性下痢の治療に経口腸内細菌叢移植を承認した。
 
本試験は、フレッド・ハッチンソンがん研究センター/ワシントン大学/シアトル小児がんコンソーシアムに対する白血病・リンパ腫協会と国立衛生研究所の助成金によって資金提供された。腸内細菌叢移植製品とプラセボの製造は、非営利団体Achieving Cures Togetherによって部分的に支援された。
 
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注:既述の研究から商業化可能な発見が得られた場合には、フレッド・ハッチンソンがん研究センターと発見に貢献した研究者が将来の商業化から利益を得る可能性がある。
 
上記の臨床試験には、米国食品医薬品局またはその他の規制当局によって商業販売が承認されていない治験薬や治療法が含まれている。結果は異なる場合があり、初期の臨床試験で得られた有望な結果が後期の臨床試験で裏付けられるとは限らない。このチップシートの情報または学会発表から、これらの治験薬や治療法の安全性、有効性、または規制当局による承認の可能性について結論を導き出すべきではない。
 
フレッド・ハッチンソンがん研究センターは、発表で参照される可能性のある第三者のサイト、資料、または関連情報のコンテンツの正確性を保証または検証しない。

  • 監修 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)
  • 記事担当者 仲里芳子
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  • 原文掲載日 2025/01/28

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