CAR-T細胞療法後の二次がんリスクは他のがん治療と同等である可能性

CAR-T細胞療法後のがんサバイバーに生じる二次原発悪性腫瘍(SPM)の頻度は、他の標準治療後のSPMの頻度と統計学的に同等であることが、米国癌学会(AACR)のClinical Cancer Research誌で発表された系統的レビューおよびメタ解析により明らかになった。

2024年1月、米国食品医薬品局(FDA)は、現在行われているすべてのCAR-T細胞療法の添付情報に、CAR-T治療後に二次がんが発生する潜在的リスクがあることを処方者および患者に告知する警告欄を記載するよう義務付けた。この警告欄は、具体的には、CAR-Tで治療したB細胞リンパ腫または多発性骨髄腫とは関係のない新たなT細胞がんを発症する可能性について患者に警告する。

この決定は、主にFDAの有害事象報告システムのデータに基づいている。しかし、このデータには報告バイアスなどの固有のバイアスがあるのではないかと懸念する研究者もいる、と、本研究の上級著者であり、メモリアルスローンケタリングがんセンター成人骨髄移植サービスの客員研究員兼リサーチフェローであるKai Rejeski医師は説明した。SPMリスクを評価する際には、年齢や追跡期間、受けたCAR-T療法の種類、患者の最初の診断、患者がCAR-T療法以前に受けた他の種類の治療などの交絡因子を考慮することが重要であるとRejeski氏は指摘した。

「患者はこのニュースを読み、当然ながら医療者に質問します。われわれは潜在的リスクを理解すると同時に、データを慎重に解釈して、患者に状況を説明する必要があります」。

Rejeski氏らは、リンパ腫または多発性骨髄腫の成人患者が、現在承認されている6種類のCAR-T細胞療法* のいずれかを受けた臨床試験の系統的レビューとメタ解析を行った。*イデカブタゲンビクルユーセル(販売名:アベクマ)、リソカブタゲンマラルユーセル(販売名:ブレヤンジ)、シルタカブタゲン オートルユーセル(カービクティ)、チサゲンレクルユーセル(販売名:キムリア)、レクスカブタゲンオートルユーセル(brexucabtagene autoleucel、Tecartus)、またはアキシカブタゲンシロルユーセル(販売名:イエスカルタ)。包含基準を満たすには、追跡期間(6.6ヵ月〜65.4ヵ月)全体のSPM発生に関するデータが提供されていることが必要である。最終的には、5,517人の患者における326例のSPMを含む臨床試験18件と実臨床研究7件が選択された。

追跡期間中央値21.7ヵ月後、患者の5.8%がSPMを発症した。がん種の異なる患者間、または投与されたCAR-T細胞製剤が異なる患者間で、SPM発生率に有意差は認められなかった。

患者がCAR-Tを受ける前に3ライン以上(中央値)の治療を受けていた研究では、3ライン未満の治療を受けていた研究よりもSPMのリスクが有意に高かった。同様に、SPMの発生率は、追跡期間が中央値21.7ヵ月未満の研究で4.2%、この中央値以上の研究で8.5%であった。

本解析で同定された326例のSPMのうち、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病を含む血液悪性腫瘍が最も多く、37%を占めた。T細胞性悪性腫瘍は5例で、調査対象全体の0.09%であった。このうち3例では、悪性T細胞にCAR導入遺伝子(悪性腫瘍がCAR編集細胞から生じた可能性を示す指標)が含まれているかどうかが検査され、1例が陽性であった。

本試験に組み入れられた臨床試験のうち4試験は、CAR-T療法を受けた患者の転帰を標準治療レジメンと比較して評価していた。これらの試験の合計1,253人の患者において、SPMの発生率はCAR-T治療を受けた患者では5%、標準治療を受けた患者では4.9%であり、その差は統計学的に有意ではなかった。

「これらのデータは、他の標準治療と比較してSPMのリスクが高いことを示唆するものではありません」とRejeski氏は述べた。「この治療を受ける患者が警告表示に怯えてしまうのではないかと心配しています。警告に明らかな根拠があるとは言えません」。

Rejeski氏はさらに、本研究のデータは、CAR-Tを受ける患者のSPMリスクを増加させる因子を特定するのに役立つかもしれないと説明した。例えば、前治療のライン数が増えるにつれてSPMの発生率が増加することは、いくつかの前治療による累積損傷を反映している可能性がある。また、追跡期間が長くなるにつれてリスクが増加することは生存バイアスを示している可能性、すなわち、より多くの患者がSPMを発症するのはその分長く生きているためである可能性がある。

「CAR-T療法は、難治性大細胞型B細胞リンパ腫において、標準治療と比較して全生存期間の延長を示した20年以上ぶりの治療法です。T細胞悪性腫瘍が発生するリスクがわずかにあるからといってこの治療を差し控えることに、私は強く警告したい」。

Rejeski氏は、CAR-T細胞療法がSPMの発症に具体的にどのように寄与しているかを理解し、個々の患者のリスクをより正確に推定するためには、さらなる研究が必要であると強調した。特に臨床試験において、長期追跡期間にわたるSPMを正確に報告することは、このような研究に大いに役立つと強調した。

「この有害事象を理解するには依然として注意が必要であり、そのためには明確な報告基準が必要です」とRejeski氏は述べた。

この研究の限界には、対象となったデータセットの不均一性、および、個人的なSPM発症リスクに影響を及ぼす可能性のある併存疾患や先行治療に関する患者レベルのデータの欠如が含まれる。

資金提供に関する情報:the School of Oncology of the German Cancer Consortium, the Walter Benjamin Fellowship by the German Research Foundation, Arnold Ventures, the Else Kröner Forschungskolleg within the Munich Clinician Scientist Program, the Bruno and Helene Jöster Foundation, the “CAR-T Control” translational group within the Bavarian Center for Cancer Research, and the National Cancer Institute of the National Institutes of Health. Rejeski has received research funding from Kite/Gilead; is a consultant for Kite/Gilead and Bristol Myers Squibb/Celgene; has received honoraria from Kite/Gilead, Bristol Myers Squibb/Celgene, and Novartis; and has received travel support from Kite/Gilead and Pierre Fabre.

  • 監修 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
  • 記事担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2024/09/11

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