骨髄腫治療薬プリチデプシンはSARS-CoV-2に強力な抗ウイルス活性を示す

スペインの第2相臨床試験の良好な結果を裏付ける知見

多発性骨髄腫の治療薬としてオーストラリア規制庁に承認されているプリチデプシン(販売名:Aplidin)が、新型コロナ感染(COVID-19)を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2(B.1.1.1.7変異株を含む)に対して強力な抗ウイルス活性をもつことを、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)定量生命科学研究所(QBI)とニューヨークのマウントサイナイ医科大学(ISMMS)の研究者らが明らかにした。

1月25日付けのScience誌に報告された実験結果によると、もともと地中海のホヤから発見された化合物であるプリチデプシンは、2020年にCOVID-19治療薬としてFDA(米国食品医薬品局)から緊急使用許可を受けたレムデシビルと比較して、SARS-CoV-2に対して27.5倍強い抗ウイルス活性を示した。さらに、COVID-19の2つの前臨床モデルにおいて、プリチデプシンは肺でのウイルス複製を100倍減少させ、肺の炎症を抑える効果を示した。

本研究は、Nevan Krogan医学博士(UCSF薬学部QBI所長)とAdolfo García-Sastre医学博士(ISMMS微生物学教授、世界保健新興病原体研究所所長)の研究室が主導して行った。

2020年、COVID-19パンデミックへの対応として、グラッドストーン研究所の上級研究員でもあるKrogan氏は、数々のUCSF研究室をQBIコロナウイルス研究共同体(QCRG)に統括し、今回の新研究で大きな役割を果たした。

プレプリントサーバー(審査前の論文を先行公開するサーバー)bioRxivに投稿された別の論文で、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのGreg Towers医学博士およびClare Jolly医学博士と共同研究しているUCSFとISMMSの研究者らが発表した研究によれば、リチデプシンは、最近特定されたSARS-CoV-2のB.1.1.7変異株に対して抗ウイルス活性を有し、その活性はSARS-CoV-2原株に対する薬剤活性に匹敵する。さらに、プリチデプシンはヒト上皮細胞においてレムデシビルの約100倍の活性を示した。

「当初からQCRGとの科学的調査の目的は、SARS-CoV-2ウイルスがどこでどのようにヒト宿主に侵入、増殖、生存し、致死性を発揮するのかを研究することであった」とKrogan氏は述べた。「この研究によって、真核生物の翻訳機構という生物学的経路にわれわれはたどり着いた。その経路阻害は、細胞培養において有意な抗ウイルス活性を示した。この経路を阻害する薬剤のスクリーニングで得られた有望な薬剤の一つがプリチデプシンであった。プリチデプシンは、われわれの前臨床データでレムデシビルより高い効力を示しており、同薬剤製薬会社が報告した最近の初期臨床データでもCOVID-19患者での有望性が示されたことと合わせて、COVID-19の治療薬としてさらに評価を進めるべきであると言える」と続けた。

「COVID-19パンデミックが現在も続いている状況から、緊急に臨床に移行できる抗ウイルス治療法が早急に必要とされている。このため、安全性プロファイルが確立されている、臨床的に承認された薬剤の中からスクリーニングを行うことになった。SARS-CoV-2のヒト宿主細胞との相互作用に関するわれわれの先行研究から、mRNAのタンパク質への翻訳に関与するタンパク質eEF1Aが、創薬可能な標的となってSARS-CoV-2の複製を阻害できる可能性があることがわかった」とGarcía-Sastre氏は述べた。

本研究は、Aplidium albicans(ホヤの一種)という海洋生物から初めてプリチデプシン(販売名:Aplidin)を単離したスペインの製薬会社であるParmaMar社との緊密な協力のもとに行われた。

「プリチデプシンは、SARS-CoV-2阻害剤としてきわめて強力であるが、その最も重要な強みは、ウイルスタンパク質よりもむしろ宿主タンパク質を標的としていることである」とKris White医学博士(ISMMSの微生物学助教、Science誌掲載の論文の筆頭著者)は述べた。「つまり、プリチデプシンによるCOVID-19治療が成功した場合、SARS-CoV-2ウイルスが変異によって同剤に対する耐性を獲得することは不可能ということであり、英国や南アフリカの新たな変異株の拡大に関連する大きな関心事である」と付け加えた。

今回の研究は、COVID-19や他のウイルス疾患に対抗する戦略として、QCRGが宿主タンパク質に焦点を当て、さらに検証したものであるとKrogan氏は述べた。

「SARS-CoV-2ウイルスが大惨事を引き起こすのを可能にするのは宿主のメカニズムである」とKrogan氏は述べた。「疾患を引き起こしたり促進したりする宿主因子を標的にすることによって、医薬品開発においてより広範囲に影響を与える可能性がある。この場合、SARS-CoV-2とその変異株、そしておそらく同じ経路を利用する他のウイルスも、このウイルス・宿主相互作用を阻害する同じ治療薬の影響を受けやすいかもしれない」と続けた。

研究著者と資金提供:

本研究が資金提供を受けた機関等は以下のとおり:National Institute of Mental Health and the National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID), both part of the National Institutes of Health; the Defense Advanced Research Projects Agency; the Center for Research for Influenza Pathogenesis; the Centers of Excellence for Influenza Research and Surveillance of the NIAID; the Centers of Excellence for Integrative Biology of Emerging Infectious Diseases of the Agence Nationale de la Recherche (France); F. Hoffmann-LaRoche AG; Vir Biotechnology, Centre for Integrative Biological Signalling Studies (CIBSS), European Research Council (ERC) and QCRG philanthropic donors. 

共著者のKevan Shokat氏は、ハワード・ヒューズ医学研究所の研究者である。著者の全リストと資金提供に関する全情報は、Science誌の論文に掲載されている。 

翻訳担当者 棗田 麻衣子

監修 斎藤千恵子(毒性学/ロズウェルパ―クがんセンター 免疫療法部門)

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