γセクレターゼ阻害薬が多発性骨髄腫のCAR-T療法を強化
キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T細胞)療法として知られる比較的新しいタイプのがん治療法が、すでに一部の白血病患者およびリンパ腫患者の治療に用いられている。この種の免疫療法は、多発性骨髄腫の治療法としても有望視されているが、その用途にはまだ米国食品医薬品局(FDA)に承認されていない。
それが承認されるのは遠くないと思われるが、すでに最新の研究から多発性骨髄腫に対するCAR-T細胞療法の有効性を改善できる可能性を示唆する結果が得られている。シアトルのフレッド・ハッチンソンがん研究センターの研究チームによるこのアプローチは、γセクレターゼ阻害薬(GSI)と呼ばれる薬剤クラスに着目している。この阻害薬のいくつかはアルツハイマー病治療薬として研究されたものの、良い結果が得られなかった。
CAR-T細胞は、がん細胞表面の特定のタンパク質を標的とする受容体を産生するように操作されている。たとえば、FDA承認済みのCAR-T細胞療法であるtisagenlecleucel[チサゲンレクルユーセル](商品名:キムリア)およびaxicabtagene ciloleucel[アキシカブタゲンシロロイセル](商品名:イエスカルタ)は、どちらもCD19タンパクを標的とする。
多発性骨髄腫に対するFDA承認間近のCAR-T細胞療法は、B細胞成熟抗原(BCMA)と呼ばれるタンパク質を標的とするよう設計されている。9月27日にBlood誌に掲載されたこの最新の研究では、骨髄腫細胞をγセクレターゼ阻害薬で処理することにより、細胞表面に産生されるBCMAの量が増加することが示された。
また、骨髄腫を有するマウスに対してγセクレターゼ阻害薬とBCMA標的CAR-T細胞の両方を投与したところ、CAR-T細胞のみを投与したマウスに比較して、治療に対するがんの感受性が顕著に高まり、マウスの生存期間が延長した。これに対してCAR-T細胞のみを投与したマウスでは、当初は治療が奏効したものの、最終的にはがんが再発し、死亡に至った。
当研究の臨床試験責任医師であるMargot Pont博士は、「この結果は、BCMAを発現する骨髄腫細胞を増やすことができれば、CAR-T細胞が骨髄腫細胞をより効率的に認識できることを示唆しています」と述べた。
抗原密度を高める
BCMAは多発性骨髄腫の起源細胞である形質細胞によく発現し、多発性骨髄腫患者の腫瘍細胞にはより高レベルで頻繁に認められる。
臨床試験では、当初はBCMA標的CAR-T細胞を投与した多発性骨髄腫患者の多くに治療が奏効し、一部の患者ではがんの痕跡が検出できなくなった。しかし、大半の患者は概ね6~12カ月以内にがんが再発した。
テネシー州サラキャノン研究所のJesus Berdeja医師は、骨髄腫細胞からBCMAが消失するとCAR-T細胞による攻撃を受けなくなるという証拠があると説明している。同医師はBCMA標的CAR-T細胞療法のいくつかの臨床試験に携わっている。
「BCMA抗原の消失はCAR-T細胞療法に対する耐性機構の1つと考えられます」とBerdeja医師は話した。「しかし、抗原の消失に起因する治療抵抗性は、CD19標的CAR-T細胞療法ではより大きな問題になると思われます」と同医師は続けた。
CAR-T細胞療法にとってもう1つのハードルとなりそうなのは、遊離した標的抗原の小片が循環血中に残存し、おとりのように振る舞って、本来なら腫瘍細胞を攻撃するはずのCAR-T細胞を引き寄せてしまうことである。BCMA標的CAR-T細胞療法の場合、これがどれほど深刻な問題となるかは明らかでない、とBerdeja医師は述べた。
フレッド・ハッチンソンの研究チームは、BCMA標的CAR-T細胞の有効性を改善する方法を模索し、骨髄腫細胞上のBCMAの量(抗原密度)を増大させる方法の探索に注力してきた、とPont博士は話した。その結果、細胞表面からのBCMAの排除を促進する酵素であるγセクレターゼに行き着いた。
γセクレターゼは、脳細胞によるアミロイドタンパク質の産生にも関与している。アミロイドはアルツハイマー病の発症と進行を促進すると考えられている。当初研究者がγセクレターゼの活性を阻害する薬品の開発に取り組んだのは、この作用に着目したからであった。
この新たな研究の統括著者の一人であるDamian Green医師は、γセクレターゼの活性を阻害することで骨髄腫細胞上のBCMAを標的とする療法の有効性を強化できないかと考えた。Pont博士は、「γセクレターゼは常に形質細胞からBCMAを切断しようとするため、腫瘍細胞表面の標的を増やすにはγセクレターゼを阻害すればよいのではないかと研究を重ねました」と話した。
マウスでの有望な結果
研究者らは一連の実験で、骨髄腫細胞をγセクレターゼ阻害薬で処理することにより、骨髄腫細胞株においても患者の骨髄から採取した骨髄腫細胞においても、細胞が発現するBCMAの量が劇的に増加することを示した。さらに、このBCMAレベルの上昇によって骨髄腫細胞へのCAR-T細胞の結合が改善されることがわかった。
研究者らがマウスで実験を行ったところ、結果はそれまでの実験から予想したとおりであった。たとえば、γセクレターゼ阻害薬による処理でマウスの腫瘍細胞に発現するBCMAが増加した。また、2種類の異なるマウスモデルにおいて、γセクレターゼ阻害薬とCAR-T細胞療法を併用した場合、CAR-T細胞療法のみの場合に比較して、がんの退縮が長期間持続し、生存期間が延長する可能性がはるかに高かった。
Pont博士が懸念として指摘したのは、γセクレターゼ阻害薬療法によってCAR-T細胞のがん細胞殺傷能力が弱まる可能性であった。γセクレターゼはNotchと呼ばれるタンパク質とも相互作用を行うが、NotchはT細胞が正常に機能するために重要な役割を果たすからである。
実際に、γセクレターゼ阻害薬がT細胞の活性を損なう可能性を示す証拠が実験から得られた。しかし、それが発生したのは、投与量がマウス実験での用量よりはるかに高い場合のみであった。
それにもかかわらずPont博士らのチームは、BCMA標的CAR-T細胞療法を受けている患者に対しては、「CAR-T細胞の機能への副作用を避けるために」γセクレターゼ阻害薬の用量を調整する必要があるだろうと記している。
初の臨床試験
Pont博士らは、3人の進行多発性骨髄腫患者から得られた結果についても報告している。この3人は、γセクレターゼ阻害薬とCAR-T細胞療法を併用した場合の安全性を試験する小規模な第1相臨床試験への参加に適格であった。
これらの患者は、CAR-T細胞療法とは無関係にγセクレターゼ阻害薬の影響を評価するために設けられた少人数の「導入」群に属しており、γセクレターゼ阻害薬の投与を5日間にわたり3回受けた。投与の結果、測定可能なBCMA発現を有する骨髄腫細胞の割合が約3倍になり、骨髄腫細胞における発現量の中央値は33倍に増加した。
抗原密度を高めるために本研究で用いた根拠とアプローチは、「適切であり、間違いなく追求する価値がある」とBerdeja医師は話した。
Pont博士は、研究チームは本試験の一環としてCAR-T細胞療法に対する骨髄腫細胞の抵抗性についてより多くを学びたいと望んでいると述べた。また、「特に骨髄における」T細胞へのγセクレターゼ阻害薬の影響も入念に調べたいと語った。
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