地域別収入や保険、診療環境が多発性骨髄腫の生存延長と関連
ASCOの展望
「住所や加入している保険が多発性骨髄腫患者の生存期間に影響を及ぼすことはあってはなりません。しかし、新規研究によると、残念なことに住所や保険が影響するようです。社会の一員として、住所や社会経済的地位を問わず良質ながん治療をすべての患者が等しく受けられるよう私たちは努力すべきです」とASCO専門家である Catherine Diefenbach医師は述べた。
全米がんデータベースから人口統計を解析した新規研究において、民間保険、高所得地域居住、特定の診療環境での治療行為など、多数の社会経済的要因が多発性骨髄腫患者の生存期間延長と関連していることが特定された。さらに、人種(黒人や白人)も性別も生存期間延長には有意な影響を及ぼさないことが分かった。
本研究は2日、記者会見で特集され、第55回米国臨床腫瘍学会(ASCO2019)年次総会で発表される。
「医療費が間断なく増加するにつれ、治療費を払えない患者の生存率が低下するという事実の強調は重要です。特に、多発性骨髄腫の患者やサバイバーに用いられる経口抗がん剤の価格は高騰しており、私たちは民間保険に加入できない患者や低所得の患者との格差を抑え、覆すための対応策をとる必要があります」と筆頭著者であるKamal Chamoun医師(クリーブランド大学病院セイドマンがんセンター 血液悪性腫瘍兼幹細胞移植プログラム特別研究員、オハイオ州クリーブランド市)は述べた。
米国では毎年約32,000人が多発性骨髄腫と診断されるが、その治癒率は極めて低い。その治療法は通常、静脈注射薬と高額な内用薬(錠剤など)との併用療法である。内用薬は他のがんと比較して多発性骨髄腫でより高頻度で使用され、長期使用が必須である。
レナリドミド(レブラミド)などの免疫調節薬は多発性骨髄腫の治療薬として頻用されているが、その価格はこの10年間で高騰している(注1)。他の内用薬であるイキサゾミブ(ニンラーロ)とパノビノスタット(ファリーダック)も高額だが、使用頻度は少ない。
研究について
全米がんデータベース(全がん種における全新規症例の70%を網羅する)から抽出された、2005~2014年に多発性骨髄腫患者だった117,926人のデータが解析された(注2)。診断時年齢の中央値は67歳であった。評価対象である他の人口統計的要因は次の通りである:性別(男性:55%、女性:45%)、地域別所得(年間所得額中央値が46,000ドル(約500万円)未満の地域の住民:57%、年間所得額中央値が46,000ドル(約500万円)以上の地域の住民:43%)、 主要医療保険(メディケア(高齢者向け米国公的保険):52%、民間保険:35%、メディケイド(低所得者向け米国公的保険):5%、無保険:3%)、および、診療環境(専門的総合がん治療プログラムに基づいて治療:40%、総合地域プログラムに基づいて治療:39%、地域がん治療プログラムに基づいて治療:9%、包括医療を提供する統合ネットワークがん治療プログラム:10%)。
主な結果
治療後経過期間が中央値で30カ月間の患者に関する以下のデータが評価された。
- 医療施設: 専門病院で治療を受けた患者は生存率が49%高かった。
- 治療を受けた地域の所得:年間地域所得額の中央値が46,000ドル(約500万円)以上に該当する患者は、それ未満の患者と比較して、生存率が16%高かった。
- 民間保険:民間保険加入患者はメディケイド加入患者と比較して生存率が59%高く、かつ、無保険患者と比較して生存率が62%高かった。65歳以上の患者でも、民間保険加入患者はメディケア加入患者と比較して生存率が高かった。
- 健康全般: チャールソン併存疾患指数(19種類の併存疾患を有する患者における入院から1年以内に死亡するリスクを予測)の低さは生存率の高さとも関連していた。
- 移動距離:120マイル(約190 km)以上離れた医療施設を受診したメディケアまたはメディケイド加入患者は、民間保険加入患者より少なかった。
性別や人種(黒人や白人)は本研究において多発性骨髄腫患者の生存期間に影響を及ぼさなかった。
多発性骨髄腫患者用の経口抗がん剤は処方薬計画の対象なので、メディケア加入患者はこれらの薬剤の長期使用する経済的余裕がほとんどない。それゆえ、治療が中断または中止する可能性が高いとChamoun氏は指摘した。本研究は直接こうした問題を扱っていなかった。しかし、高額な薬剤の入手しにくさが本研究の結果を説明する可能性があるとChamoun氏らは仮定している。
メディケイド加入患者は医療費全てが給付されることになるとはいえ、交通手段や他の医療以外の支援を提供する強力な社会的支援のネットワークも必要になるが、不十分なことが多い。多発性骨髄腫は典型的な消耗性疾患で、集中ケアが定期的に必要なことが多い。しかし、こうしたケアは自宅~主要医療施設の間を200マイル(約320 km)往復する必要があることが多い地方在住患者にとって利用しにくい可能性があるとChamoun氏らは述べた。
次の段階
Chamoun氏らは将来の研究で、高額化する医療費と生存期間との関連の可能性、特に使用されている医薬品、加入保険の種類(HMO:健康維持機構、優先医療給付機構、または他の種類の保険計画 )、および治療期間などの、多数の要因を調査したいと考えている。また、高額医薬品から最大の利益を得る患者の特定にさらに役立つ疾患に特有な情報の有用性の確認を目的とする他のデータベースも調査したいと考えている。
本研究はセイドマンがんセンターで内部資金援助を受けた。
研究概要
研究の焦点 多発性骨髄腫患者における保険と所得の影響
研究の種類 統計解析
対象患者数 117,926人
研究された側面 全米がんデータベース統計
一次的所見 保険の種類と地域所得が多発性骨髄腫患者の生存期間に影響を及ぼした
二次的所見 65歳以上の民間保険加入患者はメディケア加入患者と比較して生存率が高かった
注1:Fonseca R, Hinkel J. Value and Cost of Myeloma Therapy—We Can Afford It. American Society of Clinical Oncology Educational Book 38. May 23, 2018. 647-655.
注2:American College of Surgeons: www.facs.org/quality-programs/cancer/ncdb
2019年度がん広報委員会に関する開示を参照してください:https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/2019-am-CCC-Disclosures.pdf
米国臨床腫瘍学会本会議への帰属は全範囲で要請されます
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